濃いする2人
3部の登場人物
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。
コンコン…先先代妖狐。伎芸天女の童女に憑依中。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。
パー子…八娘(元八娘1号)。ペンジク豪商の娘パナに扮している。
ジャハド…ウッディン商会代表。
アルディン…バクロン第5王子。14歳。
ケイトー…アルディンのお付き。魔術師らしい。
アポル…バクロン第2王子。43歳。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官。35歳。
ダリ…バクロン第4王子。25歳。
フサイ…バクロン第1王子。50歳。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
3-9.濃いする2人。
その夜俺たちは今後の事を話した。
「これで5王子のうち3人が来たのだけど、あと2人は来るかしら?」
「来ぃへんやろな。フサイは長男で宰相やから、会いたいならそちらから来い。という立場やろ。宰相としては末子相続にこだわらねばならへん立場やけど、本音は違うかも知れへん。そんなややこしい状況で余計な要素は加えたく無いやろ」
「じゃあ4男は?」
「ダリはよー、大東が後ろに付いとるウッディン商会と組んだらしいで、来れえせんだろう。あのジャハドたら言う奴が止める思うて」
「しかしダリはなんでウッディンなんかに近づいたんだろな?」
王族に近づく事はウッディン商会には大きな商売上のメリットがある。しかしダリにとっては異国と安易に結びついた事がバレると、裏切り者として粛清される可能性もあるのだ。
「まあそこはアルディンも同じだけどな」
「金やろね。流石に大国の資金は侮れへん」
アルディンのすぐ上の兄、ダリは小さな時は皇太子として育てられたと言う。ところが国王が60過ぎてから孫みたいな歳の妃を新しく迎え、アルディンが生まれた。小学生くらいですぐ挫折ってパターンだ。
「王室は一つ置き」
と陰で言われている通り、長男フサイは有能な実務家。3男ノヅリは天才的魔術師。末子アルディンは利発な神童。あと2人は?と言う事で、アポルとダリのいい噂は聞かない。まあアポルに比べてダリは自分が賢いと思ってないだけ無害。と言う評判だった。
「おやアルディン様いらっしゃいませ」
奥の宿泊用天幕からパナがビュンと飛んでくる。
ダメだって。普通の人間の速度じゃないよ。
レジのコンコン。ウエイトレスのパーサ。お茶淹れ係のオコは朝からこのイタズラを、もう5回くらい繰り返している。その都度怒りもせず
「なんだ予行演習?」
「もういい加減にして下さいよ」
とか言いながら鳩時計の鳩の様にパナは飛び出して来る。もう会いたくてたまらないので、こんな見えすいた罠にワザと引っかかるのだろう。
しかしシバヤンって何を考えているのだろう。自分の作品であるナンバーズに人間らしい感情を持たせたかった事はわかる。しかしこんな昔の少女マンガのヒロインみたいな子、あんまり現実には居らんだろう。ジョウザの侍女も頭の中お花畑だったが、年季が明けて宿下がりすれば、すぐいいお家に嫁に行ったり、養子を迎えて女主人になったりする運命が待っていたので、もっとドライな一面を持っていた。
ナンバーズがいずれも十代の少女人形な所を見ても、シバヤンはロマンチストというか、オタク体質と言うか、その辺女性の本質が判ってないんじゃないかと思う。慈母の様なパトゥニー、若々しく全てに活動的なサンディ。2人の成熟した女性を妻にしているのに、そこからは学ばないのか?
まあうちでも、成人のセクシーな女性を旅仲間に加えるのは、オコが黙っていないだろう。と考えれば、シバヤンの作る人形がキャピキャピ志向なのは無理も無いのかも知れない。
端から見ると、とっても可愛い仕草のパナをぼんやり見ていると
「メグルさあ、やっぱり前くらいの胸が好みだった?」
と、なんかオコが悲しそうな顔。
そうだった。オコはやむを得ない事情で、体を先先代(現コンコン)の生前の姿を写した依り代に入れ替えたのだった。その時前のオコよりも胸が大きかったので、俺も大いに喜んだのだが、やはり15年間親しんだ体を捨てたオコは複雑だったのかも知れない。
「いや俺は大きいのが好きだ!前の体だってあと2、3年したら、今くらいになってたさ」
「そ、そうだよね。メグル、もう一回言って」
「俺は大きいのが好きだ!」
「やあ賑やかですね。何が大きいんですか?」
いきなりパナが天幕に引っ込んだ。
「あれ?今パナさんって?」
「あらあらアルディン様、いらっしゃいませ」
髪のカール撒き直してる。なんかいい匂いがする。天幕から歩いてくると、花びらが降り注ぐ(後で自分で掃除な)。何だよこの完璧ヒロイン。
「パナさん、お美しい。なんか先日より背も伸びたみたいで、それに…」
「ふふふ、諺にもあるでしょ?『女子に3日会わなかったら、よく目をこすってご覧なさい』って」
レムリアではそう言うのか?まあ恋は盲目というから、この前より2cm程背が大きくなってても、胸がけしからん成長をしていても、気にしないだろうさ。
「きっとこの間は2年ぶりに会えた嬉しさで、昔のパナさんに見えたのかも知れませんね」
何とか軟着陸したな。もうパー子パーサ、2年後の外見くらいきちっとすり合わせしとけよな。
「おや?こちらのお嬢さんは、先日は居られませんでしたね。何かパナさんによく似ておられる。妹さんですか?」
「いやですわ。侍女ですのよ。じ、じーじょ」
パーサが凄い顔で睨みつけたが、渋々頷いた。
テレパスな世界で戦いがあった様だ。
「パナ様のじ、侍女のパーサと申します。このお店で女給もしております」
「お客様が多いので、パーサさんをお借りしてます」
俺も一応フォローしておいた。
「今日はお茶を飲みに来て下さったのですか?」
後ろでコンコンが
「そんな訳無いやろ、チッチキチー」
と口で言っている。
「もちろんそれもありますが、パナさんに会いに」
おおおパー子がデレた。デレるパー子を見るのは非常にレアなので、一同熱心に観察している。
「と言うのも勿論ありますが、ウラナ殿にお礼を言いに」
「お礼ですか?」
オコがお茶を持って来る。当然カルダモンティだ。見てれば分かるのだが、オコは前に俺に言われてから、改良して莢も一緒に使う様になった。しかしこれはオリジナルブレンドだ。非売品だな。
「うーん美味い。それで先日、ズズッ」
「殿下、喋るか飲むかどっちかにしろい!でございます」
なんかこのケイトーって言う人、面白い。
「ごめんよケイトー。余りにもお茶が美味しくって」
「飲んじゃって下さい。後でお代わりはお出します」
オコが嬉しそうに言う。バリスタの栄誉だもんな。
「ごっくんと。では改めて。先日の図面、工匠達が大歓喜でして、ペンジクのリゲル殿の設計ならば間違いはない。と早速製作し始めております」
「バクロン工廠でも、既に設計してたんじゃないですか?」
「それが何度試作しても折れていたそうで。あの様な柔らかい鋼を何枚も重ねるとは思いつかなかった様です」
リゲルは腰携剣の鋼の組成まで図面に記述していた。
「実は諸国を放浪して居られるダガムリアル様が『あの馬車はいいな』とリゲル殿に仰ったとか」
「それは凄いですね。早速工匠たちに話します。皆感激する事でしょう」
オコが2杯めのお茶を運んで来たので、主従は黙ってお茶を啜った。
「ほう、これは」
「カルダモンを混ぜたスパイスティです。鮮烈さは劣りますが、こちらの方が爽やかで2杯めにふさわしいかと」
「素晴らしいです。奥様は研究熱心なのですね」
奥様と言われてオコもデレる。パナはさっきからデレっぱなしである。
「さて、この度の功績でウラナ殿の名声は宮廷で高まっています。父も一度お会いしたいと」
この場合正式には陛下と言うべきだと思うが、14歳の少年らしい初々しさを感じる。
「いや私はリゲルの頼みを聞いただけで」
「あの図面を私にお任せ頂いた事、感謝に絶えません。国のためにも、私の為にも」
ケイトーが深く頷いている。アルディンの立場は図面一枚で好転するほど微妙なのだろう。
「それで、もうすぐ新型サスペンション搭載の一号機が完成します。王室発注のパレード用オープン馬車です」
「それはめでたいですね」
「この馬車で城門から王宮まで、お披露目を致します。ウラナ様ご夫妻と」
オコがもう倒れそうである。
「私とパナさんの4人が乗客という事ではいかがでしょうか?」
俺の脳裏に、小さな時に見たニュース映像が浮かぶ。
ダラスのあの日の。
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