訪問者たち
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
3-8.訪問者たち。
最初にやって来たのはパー子ではなかった。
もちろんお客様は朝から沢山来られたが、特別な訪問者と言う意味だ。
「どけどけっ!」
午前中で並んで席が空くのを待っている程ではなかったが、店の前は好奇心で覗いたり入ろうか迷ったりしている人たちがいた。それを蹴散らしてお仕着せを来た私兵っぽいのが、人たちをかき分けている。
「お客様、他にもお待ちの」
と言いかけたオコだったが、店の前の人たちはさっと居なくなった。
「只今よりこの店は第2王子、アポル様の貸切となる。座っている者は速やかに立ち去れれよ」
オコが抗議しようとしたが、客達はさっさと席を立っている。帳場を預かるコンコンは帰る客から代金を取らなかった。
「貸切おっしゃいますが、時間貸しのお金を頂けまへんと単なる営業妨害でっせ」
「何を!この小娘が!」
下っ端っぽい方が吠えたが、上司っぽいのが
「もっともだな。娘、幾らだ」
「昨日の売り上げで換算致します。この時間帯の一時間に銅貨372枚、銀貨3枚の売り上げでございましたえ」
「結構稼ぎおる。では銀貨4枚でいいな」
「へえ。ではお席にお付き下さい」
下っ端の乱暴な奴と、そして後ろから小狡そうな中年男が入って来た。顔はまあアルディンに似ているかな?
「店主を呼べ」
「お初にお目にかかります。当店店主のウラナと申します」
「最初に聞いておくが、注文する代金はさっき払った銀貨だけで良いのだな!」
「結構です」
「ではカルダモンティを余には2杯。付きの者にも一杯づつ」
ドヤ顔である。元を取った気でいるのだ。予約無しでの貸切による迷惑料など、死んでも払わない気だ。
「畏まりました」
乱暴者の方は明らかにワクワクしている。銀貨1枚の茶など、飲んだ事もない。酒場で自慢出来るレベルだ。上司っぽい方は苦り切っている。主の小物感満載の行動が恥ずかしいのだろう。
「うむ流石に美味いな」
無理矢理2杯続けて飲み干して、アポルは俺に言った。
「余も忙しいのでな。本題に入ろう。ウラナ、貴様余の配下に入れ」
「それはどう言う事でしょうか?」
「余はこの都で、交易に関する大臣職にある。貴様のペンジクとの商売が有利になるぞ」
「申し訳ございません。私共はバクロンにはそれ程長く逗留するつもりはございませんので、殿下の配下に入ってもお役には立ちません」
「なに名目だけでもお前が配下になったと周知出来れば良いのだ」
「私は場所場所で依頼を受けて仕事をする事はございますが、何方かの家来になる事はございません」
「言うたな!貴様をペンジクの間者として捕らえる事も出来るのだぞ!お前の秘密は握っておるのだ」
「秘密とは私がペンジクで少し功績を挙げて、爵位や領地を断ったら無理矢理押し付けられた国民的英雄表彰の事でしょうか?それなら宮中の要人の皆様は既にご存知と昨日アルディン様にお聞きしましたが」
図星だったらしい。
「ぐぬぬっ。アルディンの小僧めが…」
ぐぬぬってリアルに言う奴初めて見た。
「殿下、次期皇太子様を小僧呼ばわりは」
「小僧を小僧と言って何が悪い。あやつなど…余が必ず」
慌てて年配の方がアポルの口を押さえ、下っ端が胴を後ろから掴んで、店の外に連れ出して行った。
これ以上喋らせてはまずい。と思ったのだろう。
「店主、邪魔をしたな」
帰り際に上司の方が叫んで、銀貨をもう一枚置いて行った。苦労人が苦労してるなあ。交易大臣とやらも、実質この家臣が取り仕切っているのだろう。
その後は何事もなかったが、昼近くなってゴーっと言う音がして近所の天幕が倒れそうに揺れたあと、パー子が到着した。パナの姿である。
「お待たせしました。アルディン様はどちらに?」
オコに荷を渡しながら、髪を手櫛で整えてパナは言った。目にも止まらぬ速さで走って来たので、あちこち乱れている。
「え?今日は来てないけど」
「そうなんですか」
パナは露骨にがっかりしている。
「落ち着きゃあて。今昨日のアルディンとの記憶分けたるで」
「パーサあんたアルディン様に失礼な事してないでしょうね。名古屋弁とか」
「しとらすか!な、名古屋弁のどこが失礼だの!」
あれ名古屋弁で良いのか。なんでパーサは名古屋知ってるんだ。しかし昨日のパーサもまんざらでもなかったぽいけど、パー子は露骨に恋する乙女モードだなあ。
「アルディン様は私のものだからね」
おお言い切った。
「わかっとるて。そらアシも2年前の思い出は大切にしとるけど、今は」
「今は何よ!」
おいパーサ、なに俺を見て赤くなってんだ。今彼の前で元彼の彼女に、もう元彼とはなんでもないんだからね!って言ってるラブコメの女みたいじゃないか。
しまった!オコが凄い目で見ている。
「ええなあ、青春やね」
コンコンも事態を混乱させるのやめて!
とりあえずパナに店員はさせられないので、パーサと二人で天幕の中でガールズトークして貰う事にした。
午後遅くもう一人の訪問者があった。
「お茶貰える?何も入れてないお茶と評判の焼き菓子」
前はスパイスティとカルダモンティのお茶受けだったオコのシナモンクッキーだが、評判が良いのでお茶を注文した方に限り銅貨5枚で出していた。
「僕牛乳好きなんだけど、飲むとすぐお腹がゴロゴロしちゃうんだ」
その男は20歳くらいに見えたが、カフィアがずれた拍子に見えた額は結構広かったので、もっと行ってるかもしれない。
「あなたが店主さん?」
「はい店主のウラナです」
「とても英雄には見えないね。まだ十代でしょ?」
自慢じゃないが俺は老け顔だ。この街に来て30歳くらいか?と言われ、それで通している。今英雄言ったな。
「宮中の偉いお方ですか?」
「うん、まあそう偉いわけじゃないけど、魔法省に勤めてるんだ」
魔術師の元締めである。敵に回したくない。そして古代魔術の事を学ぶ許可を貰いたい。
「宜しければお名前を頂戴出来ませんか?」
「すぐわかるさ。今日はお茶を飲みに来ただけなんで、ビジネスのお話は今度ね」
「良いねえ、美味しいねえ。このお茶葉は買えるの?」
来年にならないとまとまった量の収穫が無いので、茶葉の販売は出来ない事を言うと、焼き菓子を10枚包んで買って帰った。
「ノヅリさま〜っ!勝手に抜け出されては困ります」
男たちがバラバラと走って来る。
「やばっ!」
と呟いてさっきの若い男は消えた。
木の葉隠れみたいな認識阻害?
それとも空間魔法?
「なあ、ノヅリってあれやろ?」
「うん、あれが魔法省長官の第3王子だがね」
「しまった!」
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