どうやって入る?
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
3-2.どうやって入る?
取り敢えずバクロンには着いてみた。
バクロンは一応自由貿易都市なので、商人ならば簡単に入れると聞いていた。
だがただの旅行者とか、冒険者とかは審査が厳しい。
門の外に入城許可証を貰う手順が書いてあった。
必要書類(どれか一つ)
1.出身国王または街市責任者発行の身元保証。
2.宗教団体本山の僧侶・神官証明。
3.バクロン民兵軍志願書(今後5年間の入隊前提)。
4.魔術師協会による三級以上の免状。及び一級魔術匠の留学推薦状。
5.指定工匠ギルドの推薦状。
6.商会、商団の所属証明。
1.は貴族や官僚にしか発行されない。ジャルディンに貰って来る手もあったが、今は戦争状態ではないが決して友好国という訳でもないペンジクの高官扱いだと、自由に動きにくい。下手に魔術を勉強しようとしたらスパイ扱いされる可能性もある。バクロンにとって魔術は軍事機密でもあるのだ。
2.は論外。バクロンには南レムリアの神々の信者は皆無だし、醍醐教にも近づく気はない。
3.も現実的じゃない。入隊審査で輪廻の鏡を当てられたらアウトだ。あとバクロン軍憲兵の脱柵(脱走)者の追跡は厳しいので有名だ。
4.は俺ならばどこかの町の魔術師協会で3級免許など取るのは一日あれば出来るが、一級魔術師の師匠はそう多くない。ペンジクでも3人くらい。師匠クラスの知り合いもいない。
5.都市間の工匠ギルドの付き合いは殆ど無く、入城には技能試験が伴うらしい。
6.の商会商団の所属証明は会長団長の許可さえあれば、簡単に取れる。ただこの地域に知り合いがいない。
「芸人は?あの芸なら街の人も納得するでしょう?」
「この注意書きには芸人についてはないな」
門番に聞いてみた。
「芸人?今は入れないな。先日王母様が亡くなられたため、王室は半年の服喪中だ。街も歌舞音曲は自粛中だ」
万策尽きたな。
「なあ、どう考ゃあても商人で入ってまうのが楽だて」
「パーサ、無理言うなよ。商会も商団も知り合いなんて」
「無ければ商会主になってまえばいいがね」
はあ?何をこいつ。と思ったが、商人とは何か?と言う根拠は"売りたいものがある"、"買いたいものがある"というだけだ。自由貿易都市を謳っているだけに税関の様な面倒くさそうなものはない。ああこいつらこれを売りたいのだな。と門衛の守備隊が納得すればOKとのこと。
「じゃあマジックバッグから、なんかないか探してみるか」
俺は次々と取り出す。やはり滞在が長かったナランダーで誂えたものが多い。
「分かり易いのは香辛料かなあ。南レムリア特産と言う事は、外国にも認知されてるし…」
「でもご飯の準備する分しか、持ってきてないよ。こっちで買うとこう言うのは高いんだろな」
3か月以上も滞在したので、南レムリアのスパイシーな味付けにすっかり慣れてしまった俺たちだった。
「あ、これなら…」
オコが取り出したのは、紅茶。
「そらええ考えだわ。まんだバクロンでは知られてにゃあで、普及活動で来た言えば怪しまれんで」
「でもこれだけじゃ」
と言ってもダルジーンの最高級茶葉が1kg程だ。オコは紅茶を凄く気に入ったので、絶対に茶葉と砂糖と牛乳は切らさない覚悟だった。
「まあ売れたらパーサ・パー子ラインで注文入れたらいいさ」
八娘のクローン分裂体である二人はテレパス通信が可能である。さらにパー子はシュニアと定期的に連絡を取っているので、茶葉の発注も問題無いだろう。
バクロンの大門前には、ナランダーの外の街程では無いが、入門を待つ人々の天幕が張られ、生活必需品を売り買いするバザール状態になっている。
近隣の農家が野菜売りに来ている。オコは新鮮な牛乳を入手していた。
「名前は"ダルジーン商会"でええか?会頭ウラナ、と」
コンコンが手際良く看板を用意している。看板には西南レムリアで広く使われる細長い小さなガラス器。お茶を入れるコップから湯気が出ている絵が描かれている。誰が見ても茶を扱う商人と判る意匠だ。
「場所はこの辺でいいのかな?」
オコは上機嫌で茶器をチェックしている。
「そうだな。ここでは誰も紅茶を知らないので、試飲出来る様に小さな店を開こう」
あと念のためジャルディンにも許可を得ておこう。
「パーサ、パー子に連絡取って…」
「はいここにいます」
前にもいきなりシバヤンが出てきて驚いたが、パーサの人格がいきなり変わるのは慣れないな。
「パー子か、今どこにいる?」
「シバヤン様の宮殿でサンディ様のお世話を」
「済まないがシュニアと連絡を取って、バクロンで紅茶の通商を始めて良いか、聞いてほしい」
「承りました。10分ほどお待ちください」
「サンディ様お風呂だったわ。パー子はあんなとこまで手入れを…ちょっと鼻血ぶーだでかん」
パー子がこっちで話してる間、パーサはパー子の目で見ていたらしい。ちょっと見たい様な、恐ろしい様な…。
「お待たせしました。シュニア様は、バクロンで紅茶を広めて頂くのは願ってもない事。必要であれば原木から摘んだ100kg程の茶葉の用意がある。との事でした」
まだ栽培がはじまったばかりで収穫は来年だ。そこまでは不要かもしれないけど、取り敢えず5kg程発注しておいた。
「さて飲んで貰う茶のメニューだが…」
バクロンでは茶よりコーヒーが普及している。山羊が実を食べて興奮しているのを見た僧がこの実を煎じて飲んだのが始まりで、僧侶たちの修行用に普及し、やがて西南レムリア全域に広がった。乾燥させた種を炒って粉にし、熱湯を注いで上澄みを飲むトルコ風コーヒーで、砂糖もミルクも入れないブラックだ。
一方大東からの輸入品である茶も、ストレートで飲まれている様だ。
魔術師の町バクロンでは、城内で魔術師が飲酒する事は厳禁で、他の人々も公の場では酒を飲まない。食堂でも出さない。うっかり人に酒を勧めて相手が魔術師だった時、下手をすると首が飛ぶからだ。
こんなに掟が厳しくなったのは最近で、なんでも酔っ払った西域の魔女が暴風で山を一つ吹き飛ばしたらしい。俺は深く突っ込まない事にした。
そう言う訳でただ今バクロンでは喫茶が大流行の様だ。
「ストレートと、砂糖入り、砂糖とミルク入りと、ロイヤルミルクティ(ラジャ・ドゥード・チャイ)。これくらいかな?」
「あのさ、最近私ちょっと凄い発明したんだ」
「ん?新しいお茶の飲み方?」
「あれけ?あれはやめときゃあて。あれ好きなのあんただけでしょう?」
「せやな、あれはちょっとな」
「なんだよ、俺だけ除け者で女子会やってたのか?」
「あるじさま、らんこもしらないよ」
ラン子が慰めてくれたが、ラン子はまだ小さいのでお茶はそもそも飲ませてない。
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