表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/1942

さらばナランダー旅立つ獅子は

2部の登場人物


メグル…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。

オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。

コンコン…先先代妖狐。子狐に憑依中。

ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。

パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。


ナランダー王室

ジャルディンII世…国王。幼名サート。

シュニア…王妃。

ラカンタ…近衛騎士団長。

リゲル…ナランダー一の工匠。

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


2-34.さらばナランダー旅立つ獅子は


俺は国王とかなり長い話をした。国王がこれだけはどうしても受け取ってくれないと困る。と言って提案したのが、

「国民的英雄」

という称号だった。これは名誉だけの称号で、これだけの功績を挙げた人物を広く国民に知らしめる。と言うだけのものだった。

あんまり有名になるのは困るが、少なくとも旅行家ウラナの虚像が広まれば、俺の実像を隠す事が容易くなる。これは受けようと思った。


王妃とも話をした。妊娠しても公務を精力的にこなす王妃は、この国の旧態依然とした仕組みにウンザリしていた。荒療治が必要だと。

正直王妃の思惑ははっきりしている。

利用できるなら、神と繋がっているこの旅人を利用し尽くして、この国の旧制度をぶっ壊したい。と。

だが断る。そんなの俺が国民的大悪党になるだけじゃないか。

だが他ならぬシュニアの願いだ。出来れば叶えてやりたい。

コンコンやパーサとも相談した。


俺の国民的英雄授与の日が来た。国王の名により日没をもって、場内の王宮広場に全ての住民が集められた。寝床に伏せっている病人も担架で運ばれ、王の癒しの手で治療を受けた。この行事で初めて城壁の中に入る者が大半であった。


「国を救い、豊かにしてくれた神々の使いに、英雄の称号を賜る」

民衆の好奇心はいやが上にも高まった。

壇上で王妃と並んだ国王が厳かに宣言する。

「余、ジャルディンII世は、旅行家ウラナにペンジク国民的英雄の称号を与える!」

「ジャルディン陛下万歳!シュニア・ラダ妃殿下万歳!ウラナよく知らんが良くやった!」

というのが民衆の反応である。しかし、その後俺の評判はお二人を完全に凌駕する。


「挨拶を」

と言われて、壇上に立った俺は

「挨拶代わりに踊りを披露しよう」

と叫ぶ。

タブラ(太鼓)、シタル(弦楽器)、篳篥(オーボエの先祖のリード楽器)、ラッパ、横笛。

コンコンの拡声結界に包まれた広場に詰めかけた民衆の耳に軽快な音楽が届く。宮殿の侍女たちによる、インド映画さながらのダンス。もちろんセンターでキッレキレな踊りを披露しているのはオコ。時既に夕闇が迫り、俺の出番だ。打ち上がる多彩な花火に民衆は度肝を抜かれている。熱狂は最高潮。これが長く語り継がれる事になる

「英雄の奇跡の夜」


しかし、音楽は突然轟音で止まる。

「ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!」

雷の様な音。

たった一人、職務に忠実すぎて”全員広場に集合”に納得できなかった衛兵が、転がり込んでくる。

「城壁が!城壁が〜っ!」

悲鳴の様に叫ぶ声に民衆が振り返ると…。


巨人だ!城壁の高さの10倍はある巨人だ。

姿はこの国のものではない。

絵本や演劇で見た事がある。大東国だ。

あれは大東国の攻城兵器?

いや、あんな大きなもの、人間では作れないだろう。

祝宴に参加していた大東の大使や、商人が呟く

「二郎真君!なぜここに?」

天帝の次男、二郎真君。大東皇帝がどうこう出来る存在ではない。絶対の強者。戦の神だ。

あぜ道を歩く様であったと言う。城壁を丁寧に二郎真君は踏み潰していく。後には瓦礫しか残らない。何も語らず、彼はぐるっと城下町を取り巻く城壁を、きれいに踏み潰す。


今回シュニア王妃の願いを叶えるのは、本来シバヤンであるべきなのだが、神は人間界の政治に干渉する事が基本出来ない。以前五娘を手に入れようとした貪欲王タンランは自ら墓穴を掘ったのであるが、今回はいくら元ウル・オートマタのシュニアの願いであってもシバヤンもサンディも軽々に動けない。ナランダーの旧い制度には問題大有りだが、それは人間の理屈なのだ。二神とも破壊と殺戮の神から、ようやく人々の信仰を獲得して来ているのだ。


そこでコンコンは天帝に助けを求めた。妖狐は元々大東の妖怪なので、天帝との繋がりが強い。以前オコの魂を妖狐の体から分離し先先代(コンコン)が作った眷族に移した時も、天帝の許しを得て行っている。

しかし天帝も自分の縄張りを離れて、南レムリアに手を出すのは越権行為だ。


天帝の暗黙の了解を得てコンコンが向かったのは、天帝の次男、二郎真君のところである。

「と言う訳で、出来るだけ綺麗にナランダー城の城郭だけを滅したいのです。なにとぞ二郎様の眷族を差し向けては頂けませんでしょうか?」

この言い方である。

「ならん!そんな面白そうな事。我がやるわ!」

と言う事で今に至る。

父の天帝も、他のどんな神々も、この神界の暴れん坊には逆らえない。生半な敵の退治など飽きてしまった二郎真君だが、今回の城の周りをぐるっと歩いてくれ。と言う依頼には興が乗った。難攻不落の王城である。人間ども、唖然とするだろうな。と思うだけで、ワクワクするのだ。


かくしてナランダーの王城はまる裸になった。今敵が攻めて来たら全滅だ。

二郎真君が煙の様に消え去った後、国王ジャルディンII世は、宣言した。

「資材を集めよ。新たな城壁を築け。ただし造るのは、城外の街を覆う大防壁だ!」

従来の城壁の内外それぞれ5m程は通路になっており、民家建物が無かった。その上住民が中庭に集められていたため、人命の被害は無かった。

俺は上級土魔法"さざれ石"を用いて二郎真君が踏み潰した瓦礫を再成形し、大きさが同じ石のブロックを作って積んだ。手伝うのはここまでだ。


10万人の人々は、協力して石を外の街の周りに並べて外壁を作り始めた。勿論元城壁から出来たブロックの10倍程の石が必要だったが、規格が判っているので近隣の岩山から石を切り出して補充した。

ジャルディンとシュニアの改革に反対の守旧派貴族は都を逃れたが、城壁が完成した時、彼らが帰る家は王都には無かった。あの頑固な衛兵(今は守備隊長)が絶対に入れようとしなかったのだ。


リゲルは仲間を激励し、岩山で石材の切り出しを行っていたが、人力の金槌と鑿の作業はなかなか進まなかった。

疲れ切ってへたり込む仲間達。

うずくまるリゲルの肩を誰かが叩く。リゲルより背の低い老人だ。

「おい、これを使え」

石綿を撚りあげた糸に燃える水を染み込ませたもの。岩に巻きつけて火を放てば、鑿がなかなか通らぬ硬い岩にヒビが入る。後は楔を打ち込めば、簡単に石材が切り出せた。古代文明の土木技術では当たり前のやり方だったが、既に南レムリアでは廃れていた。

「ありがてえ。これで王と約束した納期が守れる」

納期は3ヶ月だった。

国王は解放奴隷たち(後の禁軍)を率い、地方の反抗的な豪族と都の守旧派貴族が結びついた反乱軍と戦っていた。


「おい、あの馬車はいい考えだな」

老人はリゲルに呼びかけた。

「いやあれは俺じゃない。ある旅行家が教えてくれた」

「物凄い弓を持った女が従っておったじゃろう?その男はワシの友じゃ」

リゲルは全てを悟り、跪いた。

「始祖神ダガムリアル様!」

「今は旅の鍛冶屋ダガムじゃ」

「どうか私を旅の供としてお連れ下さい」

「お前にはその生が尽きるまで、この都でなすべき仕事がある。我が子リゲラリアルよ、最期の日に裂け谷の大鍾乳洞でまた会おうぞ」


さて3ヶ月にしては濃密な滞在を経て、俺たちはひっそりと王宮の庭から飛び立った。人々が起き出す黄昏時の出発で、見送りは国王夫妻とラカンタだけだった。王とラカンタは、地方を平定し(内緒でパーサが手伝っていた)、奴隷軍と共に凱旋したばかりであった。

「友よ、必ず帰って来てくれ」

「はい、山を一つ頂く約束ですので」

オコがぎゅっと俺の腕を掴む。

「王子がお生まれの時は、お祝いに寄らせて頂きますさかいに」

「お腹の子は男の子なのか?!」

「さあ…どうですやろなぁ」

コンコンは曖昧に笑っている。

「あの…。本当にありがとうございました」

最近は眠りがちだと言うラダが、シュニアの口を借りて話しかけた。

「この頃はどんどんシュニアちゃんと一つになって行く感じがします」

それがいい。つらい過去は忘れて、幸せになってくれ。


「あるじさま、そろそろたたないと、みんながおきちゃうよ」

翼獅子ラン子がやきもきしている。

「ではナランダーよさらば!」

旅立つ翼獅子は、一路…


「あれ?次どこ行ったんだっけ?」

読んでいただきありがとうございます。

気に入られましたら、

ブックマーク登録、★評価頂けるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ