技術革新
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-33.技術革新
思いがけないお茶騒動でまた滞在が延び、結局3ヶ月間俺たちはナランダーに居る事になった。出発を申し出ようとすると、王が急用で出かけたとの事で会えなかったり、王妃御懐妊の慶事があったりして、なんだか出発を引き伸ばされている気がする。
仕方がないので神々の事情に詳しい王妃から、俺たちの旅が神々の計画に基づくものである事を説明してもらい、ようやく王は渋々納得した。
その代わり神々の力に興味をもった王の願いで一度だけと言う約束で、俺たちは王と王妃を連れて、ダルジーンの離宮にラン子で飛んだ。
ダルジーンでは王は精力的に茶農園経営の指示を出し、忙しそうにしていたが、つわりの始まった王妃は快適な気候に満足していた。
王は王妃と産まれてくる子供たちのために、ダルジーンまでの馬車専用道を整備させた。山稜をゆっくり回って登っていく道路は壮観で、貴族たちもこぞってダルジーンに別荘を持ったので、町は繁栄した。
身重の王妃のために、乗り心地のいい馬車を探していた国王に、俺はオコの”オルコンの弓”を見せた。
「これは見事なものだな!継ぎ目のない金属の棒が、あっと言う間に。もう一度やって見せてくれ」
ミスリルの糸を張った見事な弓を見て王はため息をつく。
「で、これを余に献上すると?」
「あげません!」
「冗談じゃ。この様な宝具、この国に匹敵する価値があろう」
「引けたら差し上げますよ」
オコが微笑んでいる。
「申したな。これでも自警団時代には弓の名手と。うーんしょ。だめだビクともせん。ラカンタを呼べ!」
ラカンタでも引けなかった。これは弓の形をした飾り物でしょう。と負け惜しみを言うラカンタにオコは的を7つ立てさせ、7本の矢を同時に発射して全て命中させた。
「一つだけ指一本外したな。最近練習していないので」
オコは呟いて、ラカンタを完全に黙らせた。
「で、ウラナ殿は宝具と弓の達人の奥方を自慢に来られたのかな?」
オコ有頂天である。
「いえ、この弓をですね」
弓の持ち手を中庭の土に埋め、上を向いた弦の部分に板を載せ、俺はそれに座った。ちょっと事前の練習が必要だったが、一輪車に乗る様なバランス感覚を俺は取得していた。ワザと上下に揺すってみる。
ぼよんぼよん。
「そうか!工匠リゲルを呼べ」
流石に世に名高い賢王である。
程なく背の低い男が、
「陛下、ご注文の品の納期はあと一月」
などと言いながら入ってきた。背は俺より低いくらいだが、逆三角形の体、オコのウエスト程もある逞しい腕(違う太いって意味じゃひでぶ…)。
この男がペンジク随一と言われる鍛冶職人だな。
「どうもこうもあるか!この弓を見ろ!」
リゲルに弓を手渡す。
「長さの違う金属板を重ねて弓形にしている。材質は、、、なにっ?オルコンだと?!」
少年漫画によくある『◯◯だと?!』と言う人を初めて見た。
オコが一瞬で弓を畳んでみせる。
「おおおっ!これは人間の作ったものではありませんな」
「ダガムリアル殿の作です」
リゲルは尻餅を搗き、ポカンと口を開けた。目もいっぱいに見開き、やがて滝の様に涙を流す。
「我が家の古えの名はリゲラリアル。我が曽祖父は、ドワーフ最後の生き残りの一人でございました」
リゲルはまだ感動に震えている。
「始祖神の宝具を拝見出来て良かったなあ、リゲルよ。しかし余がそちを呼んだのはこの事ではないぞ」
「それはどう言う」
「ウラナ殿、お手数だがさっきの曲芸をリゲルに披露してやってくれ」
曲芸って。まあ俺たちの副業は芸人だけどな。
「見事なバランス芸ですな。しかし最近知り合った大東の雑技団の方がもっと」
王が言葉をさえぎる。
「ウラナ殿の乗る板が馬車」
「あっ!」
リゲルは跳び上がった。
「これにて失礼いたします。早速図面を起こさないと。鋼の材質は雑技団が使う腰帯剣と同じでいいな…」
リゲルがブツブツ言いながら退場する。
腰帯剣は大東の剣で、ベルトの様に腰に回して装着出来るほどしなやかでよく曲がるが、折れない。この剣法を習得した剣士は、思っても見ない方向から敵を攻撃したというが、芸人的には変な動きで笑いを取る道化の道具だった。材質に興味を持ったリゲルは、同じ様な特徴を持つ鋼の製法を既に確立していた。
こうしてリゲルはレムリア史上初の、
「馬車を支えるリーフスプリングサスペンション」
を考案した。そして試行錯誤を経てレムリア初のサスペンション付き馬車が製作され、速度をに直線なら最高30km/hまで上げる事が可能になり、都市間交通の所用時間が従来の1/5まで短縮出来た。この技術はすぐにレムリア全土に広まり、レムリアは新しい時代を迎えた。
王と王妃は忙しい中、盛夏にはこの快速馬車でお子様達を連れてダルジーンの離宮を訪れ、速報紙芝居に描かれた幼き王子王女の姿は、国民の微笑みを誘った(皇室ニュースのなるちゃん、あーや、さーやだね)。
短い間に、王妃とラダの命を救い、紅茶という新しい基幹産業を興し、サスペンション付き馬車のヒントと言う交通革命をもたらした俺たちに、どういう褒賞を与えたらいいのだろう?国王は困った。
もちろんお決まりの爵位、領地などは断る。俺にとって気ままに諸国を
「最速・快適」
に旅し、見聞を広めて旅行記を出版する。という生活以外に必要なものは何もなかった。
王妃御懐妊で、かなり刺激されたオコは
「気候の良いダルジーン辺りに山を一つ貰ってさ。空からしか入れない城を作って、そこで子供達を育てるのはどう?」
とノリノリだったが、勿論依存はない。暑い以外はペンジクは住みやすい国だった。山の上なら涼しいだろう(俺たちの発想の根源は、やはりジョウザにあるのかも知れない)。そこで腰を据えて旅行記を記すのは良いかも。
「待って!本を書くネタがまだ全然溜まってないの」
面白可笑しく書いたり、全く架空のストーリーをでっち上げたりは、ベンガニーに任せれば良い。俺は見聞きした事を正確に記す旅行家になりたい。
「分かった。国王に頼んで山を貰おう」
「うんうん」
「で城を建てて、お前と子供を作ろう」
「そうそう」
「そこでお前は子供達を育ててくれ」
「メグルは?」
「本を書く」
「良いわね」
「で書き終わったら、取材旅行に行く。お前は城と子供達を守ってくれ」
「何年くらい?」
「さあ、5年か10年?」
「やだ」
という事で、オコの愛の巣はまたしてもお預けになった。すまん。
読んでいただきありがとうございます。
気に入られましたら、
ブックマーク登録、★評価頂けるとありがたいです。




