王宮へ(2)
2部の登場人物
メグル…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。
コンコン…先先代妖狐。子狐に憑依中。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。
南レムリアの神々
シバヤン…破壊と再生の神。有力者。
パトゥニー…シバヤンの妻。聖母神。
サンディ…シバヤンの妻。クローンサイボーグ美少女戦士。
キャーリー…シバヤンとパトゥニーの娘。漆黒の美少女神。
ナランダー王室
ジャルディンII世…国王。幼名サート。
シュニア…王妃。
ラカンタ…近衛騎士団長。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-28.王宮へ(2)
ラカンタはサート王子と自分たちの事を語ってくれた。
「サートは治癒系魔術の達人でね。聞いた事あるだろ?"王の手は癒しの手"って。あの古い伝説まんまなんだよ。お陰で即位した時は治癒の間逆の、呪い系の魔術で兄達を呪い殺したんじゃないか?と、随分兄王子たちの親族から追求されたが、サートに治癒系の魔法しか使えない事は、すぐに判明した」
「どうやって?」
「王宮には能力を映し出すブラマンジの鏡があり、王宮に入る者はその鏡に姿を映すしきたりがあるからさ」
これ以上正確な就職面接はないな。しかしナランダーの王宮にそんな厄介な物があったとは。
なんだか美味しそうな名前のブラマンジだが、意味は"宇宙の真理"であり、醍醐教ではそれを悟った者をボンと呼ぶ。姿のある神ではないが、シバヤンや他の神々はその摂理からは逃れられない。人間の国家にとっての憲法みたいなものだ。この名を冠した宝具となると、輪廻の鏡の上位宝具。前世だけでなく現世の俺の能力が全て映し出されたら、これ以上旅が続けられなくなる。
「それって俺たちが王宮に行くと使われる?」
「いやその鏡で無暗に人を映したりはしない。ジャルディン国王陛下がそれを禁じられた」
「へえ、今は陛下って呼ぶんですね」
「当たり前だろ?サートは幼馴染の可愛い弟分だが、今は俺は陛下に忠誠を誓っているさ」
「陛下はどうしてブラマンジの鏡を使わせないのですか?統治には便利でしょうに」
「ブラマンジの鏡は同じ人に一回しか使えない。陛下が叩き壊したいこの国の身分制度が固定し直されてしまうからさ」
なるほどその鏡は人の能力を映すので、身分を超えて能力を持っている者を重用する事が出来るが、それが新しい身分制度を生むのだな。
「陛下は身分制度を破壊したい。と」
「『家柄で城郭の中にも住めないなんてクソだ。旧い身分制度はこの国の発展の妨げになる』これが昔からのサートの信念さ」
最初にこの街に来た時に会ったおじさんが言ってたな。孫でナランダーに住んで三代目になるけど、前世どおりに職業決められるなら、外の街で暮らした方がいい。と。ある時点の能力なら前世で判定されるよりはマシだけど、その後の伸びとか頑張りとかは無視だ。前世の日本でも死ぬ程勉強していい大学入って、後は4年間適当に過ごして、会社入ったら全く使えない奴は山程いたもんな。
「シュニア妃はその点超優秀な方だと」
「シュニアは俺が18、サートが17歳の頃にふらっと街にやって来た。歳は15と言っていた。その頃俺たちは自警団を立ち上げたばっかりでね。人手が欲しかったのさ」
「で、王子の片腕になったと」
「なに言ってんだ?シュニアが団長になったのさ。俺たちが両腕」
「凄く優秀だったんですね」
「ああ、俺がさっき君に見たと言った才能と同じだ。シュニアが司令官。俺が突っ込んで、サートが怪我人や病人を助ける」
それは理想的なチームだ。古代ローマには護民官と言う制度があって、民衆の信頼を得ていたと言うが、さぞかし人気も高かったろう。
「6人の兄王子が相次いで死んだ時、大臣たちは先王の甥を次期国王にしようとした。サートが国王になれたのは、国民の支持が大きかったからだ」
なるほどね。大臣やら甥やらが、6人の兄たちの連続死の黒幕だな。
「簡単に尻尾は出さないけどな」
シュニアが王妃になったのは?
「奴はシュニアに惚れていた。生き別れた幼馴染にそっくりだったらしい。俺も実は惚れてたけどな。シュニアはサートを選んだ。シュニアが王妃になる時、勿論反対は大きかった。苗字もない貧民がとな。ブラマンジの鏡の結果も良くなかったらしい」
「どう言う?」
「公表されていない。陛下が封印してしまった。鏡が判定を拒んだとも言われている」
俺と同じ転生人?しかし異世界からの転生は俺だけのはず。
「奴隷解放は、シュニアは他の身分制度を撤廃してからの方がいいと言ってたが、サートが急いだ」
「どうして?」
「あいつの乳兄弟が奴隷に売られたんだよ」
王子の母たちは手切れ金の様な金を貰って追放されたが、祖父にあたる元大臣が事業に失敗し、家は没落したそうだ。結局母と子だけで細々と暮らしていたんだけど、即位してから元乳母も貧困で死に、乳兄弟の娘が奴隷に売られたと聞いた」
母乳が乏しかったので、乳母を雇ったのだそうだ。それら使用人もサートが5歳の頃、祖父の破産で去って行ったらしい。
「王妃とそっくりな幼馴染ですね」
「5歳の時の記憶だけどな」
俺はオコを見た。オコも少し怒った様に頷いている。
「サートはずっとそのラダと言う子を探していた。王になってようやく何とか彼女を見つけたが、もう…」
「亡くなっていた?」
「いや変わり果てた姿だった。虐待と栄養失調で、70歳くらいに見えるそうだ。王の偉大な治癒能力でも生かしているのがやっとで、宮殿で眠り続けている。時々目覚めると、『殺して!』と泣き叫ぶそうだ」
哀れな…。財産としてだが、奴隷を愛情持って"飼っている"者もいるが、運が悪いと五歳児でもこき使われ、成長したら成長したで女の子は…。
「あんなに怒ったサートは見た事がない。奴隷の持ち主、娘を買った奴隷商人、全てこの世から消された。だからシュニアも奴隷解放を止められなかった。その後当然起こる不満をシュニアは分かっていたから、手を打とうとしたのだが、その矢先に事件が」
「な!」
「奴隷商人の組織が、報復のため陛下を爆死させようとした。シュニアが思い切りサートをつき飛ばし、サートは複雑骨折の重傷で済んだが(自分で治せるからね)、シュニアはそのまま意識不明」
「大切な人を2人も」
「私がその組織を壊滅させに行ってきます」
オコが拳を震わせる。
「もう俺がやったよ。事件後シュニアは誰も見ていない。俺にも見せない。医者?国の最高の医師団よりも、サートの治癒魔法の方が上だよ」
お気の毒な陛下…。仕方がない。何か手助け出来るかな?
「ウラナ殿、どうか陛下をお助け下さい」
ラカンタが跪いて頭を下げる。この男、サートと言ったり陛下と言ったり、コロコロ変わるが、幼馴染の弟分を思う気持ちと陛下への忠誠と、両方痛い程伝わる。何で俺?と思ったが、万策尽きているのだろう。
「やってみやーて。いざとなったらシバヤン様とパトゥニー様に頼ろまい」
パーサが小さく囁く。陛下の惨状はこの自動式侍女人形にも響いた様だ。
「ウラナ様なら何とかしてくれます。私も助けられたのです!」
いや助けられたのは俺の方だが。しかし咄嗟に作った"ウラナ"だが自然に使ってるな※
「溺れる者が掴むには頼りない藁ですけど、何か出来るかも知れません」
※藁の現地語はインド・ヨーロッパ語族共通の
「ストロー」
本を発表する時、後に俺はペンネームを
「ウラナ・ストロ」
とした。西域圏では
「ウラヌストゥルス」
と訛って翻訳されている様だ。
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