19-2.事件の状況
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-2.事件の状況
ラースの王宮でナイラス国王プトマス95世に謁見する。
随分やつれていた。
ラメンの事を心配しているのもあるのだろうが、物理的に有能な宰相が働けないと、全ての行政的決定が王の所に来て、超多忙らしい。
「ウラナ殿、このままだと3メタルのナイラス公演は中止せざるを得ないかもしれません」
それほど異例の抜擢で宰相に据えたあの青年が、有能だということだろう。
俺はリュナとヒデノリをすぐナイラスに派遣し、代理でコンサート準備を肩代わりさせる事を約束したが、政治の方は他国人が立ち入る話ではない。
会見している間にも次々と国王に色々な稟議が寄せられており、とてもお忙しそうなので、早々に退出した。
「まずはシオ・ラメンを起こさないとな」
意識さえ戻れば、ベッドの上からでも指揮は取れるだろう。
国王の承認の元でラメンが行っているのは、新しい画期的な政策で、それだけに守旧派の貴族や神官たちには評判が悪かった。
ラメンは鎖国で傾いた経済を立て直し、すっからかんになった国庫を再び潤すべく、なり振り構わず多くの産業を国有化している。コンサートでも興行団体を国有化している。
当然既得権益を持つ貴族、神官達からの反発は大きい。
カライ大佐の独裁時代、同じ様な試みがあったが貴族や民衆の抵抗で、財政改革は頓挫した。
しかし大佐の独裁に不満を持つ多くの民衆や貴族の支持を得て王政が復古してから、プトマス95世の改革は早かった。シオ・ラメンは
「軍には女がいない」
と言うだけの理由で軍を志願した変わり種で、主計准尉として当時のサスル大尉の部下だったと言われている。
やがて大尉がプトマス95世として即位するとすぐに財務官に軍から引き抜かれ、その後財務大臣→宰相へと異例の大抜擢をされた逸材だ。
病院に行くと、ものものしい警護だったが、どの魔法兵も師匠の顔を見て、緊張して敬礼した。
レムリア最強のナイラス魔法軍をたった一人で壊滅させ、再教育センター教官として軍を再建した伝説の男だから。
病室に入る。
今までシオ・ラメンの方からオコたち女性陣には距離を置いていたが、動けないので遠慮して次の間で女性は待機する事にした。
となると俺と師匠だけが病室に入る事になる。
考えて見れば、ビッグセブンって女ばっかだなあ…。
なんか、なろう小説のハーレム系主人公の様だ。
(メタ要素アリ)
だがそんな忖度など完全無視の存在がうちにはいた。
「シオちゃ〜ん」
俺の脇を凄い速度ですっ飛んで行くものがあった。
ステルだ。
そう言えば前回訪問した時も、ステルはシオ・ラメンにいつもの超社交的な態度で遊んで貰っていたなぁ。
「大丈夫?シオちゃん」
ベッドのラメンに抱きつく。
ステルは子供なので(実年齢は俺たちより歳上だが)、女でも大丈夫なのか。
「んんん…ステルちゃんなの?酷い目にあったわ」
俺たちの前では官僚的口調を崩さない宰相が、プライベートではオネエ言葉なのか?
「って言うか、意識戻ってるじゃん!」
「ワシが来たんじゃ、精神の常態異常など何ほどでもないわ」
行方不明と思われていたマーリンが立っていた。
「先生、お戻りになっておられたのですか?」
師匠が声をかける。既にマーリンがこの件に関して独自に行動した事は明らかなので
「どこほっつき歩いてたんだい!」
とかは聞かない。
「セイコβが珍しく爆睡していたので、しめしめ。束の間の自由じゃ!と思っておったら、突然セイコβの探知針が最大まで振り切ったのを感じた」
マーリンは常にセイコβに監視されていたので、告発されても申し開きが出来る様にセイコβを逆探知していた。
セイコβの探知任務はマーリンの監視だけでなく、大御所勢の襲来についても油断がない。マーリン自身がセイコβの探知をモニターしていて異常に気付いたのだと言う。
「普段は妹の気が緩んでいても、忌々しい姉の方が補うのじゃが、二人とも疲れて爆睡していたようだ。流石にコンサート終了まではガキ共の訓練課題を緩和してやらねばならんかのう。軟弱なやつらじゃ」
パピーズは学生の立場での参加なので、マーリン先生の与える日課をきちんと果たしていたらしい。
しかしマーリンはセイコαを姉と呼ぶのだな。
ちょっとほっこりする。
「それでワシはセイコβの探知針が示した場所に急行したんじゃ。ベールを被った女が、穴に入って行く所じゃった」
シオ・ラメン暗殺と言う任務を終えて、大御所のアジトに戻る所だった様だ。
「暗殺…」
「うん死んでおったよ。ワシが蘇生させたが」
俺たちは絶句する。
「それでマーリンはその女を追って、空間の穴に入ったのですか?」
「そんな危ない事、する訳が無かろう。何が待ち構えているかわからんのに。うっかり戻れなくなってコンサートが終わってしまっていたら、貴様の頭を100回叩いてでも時間を巻き戻した事じゃろう」
いやそんな私用で俺たちの恩寵を使わないでほしい。
「シオ・ラメンが何か知っとるじゃろうと思って、急ぎ現場に戻り、彼奴を蘇生させた。意識が戻るに先ほどまでかかったが」
「なぜセイコβは先生を見失ったのですか?」
そう言えば行方が分からないと言っていたな。
「セイコ達が自分を責めておったのでな。護符の力を借りた」
マーリンが懐から真っ二つに割れた護符を出す。
「あれらは兄達に相談なしに動いてしまう所があるでな。空間の穴に飛び込んだりしたら大事じゃ。ワシが行方をくらませば、軽々には動けんでな」
ではマーリンは逃げようと思えばセイコ達の監視を振り切れるのだな?これはマズいぞ。今までの前提(因業爺を縛り付けて使役)が崩れる。
「そんな長時間は無理じゃ。長いと二度と手に入らん貴重な護符がことごとく吹き飛ぶし、魔力も尽きて冥界に戻らんといかんくなる」
今のマーリンにとって一番怖いのは、3メタルコンサートに参加出来なくなる事らしい。オタクの鑑だな。
俺は前世の同僚が夏コミに参加する為に、必死に残業と休日返上で有休を稼いでいた事を思い出した。しかも同時に同人誌出版を準備しながら。
「それでな。ラメンのやつ、今際の際に『ついに予言された女が来た!』と叫んだそうじゃ」
「それは黒ベールの女の事ですか?」
「たぶんな。そしてワシもあの後ろ姿には見覚えがある」




