城郭の中
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-26.城郭の中
夕方に起き出した俺たちは、城郭入場者の列に並んだ。これから数日間、天幕で宿泊し、夜は城郭の中で過ごす。と言う日程で見学しようか?と話し合った。オコは城郭内の店を回るのを楽しみにしていた。
「首飾り、ピアス、腕輪、足輪、鼻輪。ふんふん」
鼻輪は止めとけ。あんまり俺好きじゃないと言うと
「なんでよ、この町の女はみんなしてるじゃん」
「他所は他所。うちはうち。あれってキスしにくそうじゃん」
「ほう、そなたはキスしてくださると」
しまった、まだしてなかった!
「まあそれは例え話だ。それに南レムリア以外の国では、鼻輪は奴隷の印だぞ」
働こうとしない奴隷の鼻輪に紐をつけて引っ張る折檻があるそうだ。痛そう。
そう言えばここナランダーには奴隷がいない。奴隷みたいに働かされてる人たちはいるが。
何でも現国王が奴隷を解放したが、結局その人々はいちばん安い賃金で働かされ、財産である奴隷の様に保護もされないので、かえって生活は苦しくなったと言う。奴隷解放を英仏の協力を得るための手段として使ったリンカーンが、暗殺された原因の一つだな。
城郭の中は外の街の雑多さとは違い、大変清潔だった。外出は夜間は禁じられていないが、余り出歩く用事もない。買い物は外の街の方が安いので、店もそんなに繁盛してなかった。観光客向けの店も多い様だ。
オコががっかりして店から出てきた。
「城郭内製造って書いてあるのは高いけど、あんまり細工が良くない。外のバザールの方がまし」
職能階級制の弊害だろうか、手先の器用な者が飾り職人になる訳ではない様だ。ダガムリアル激怒だな、こりゃ。
夕方城郭に入ると、長い柄の付いた団扇を担いだ男達が、疲れ切った顔で歩いて来た。上流階級の人が昼間に眠るために、窓の外から日中ずっと風を送る仕事だと言う。
「風魔法使った方が合理的だろうに」
「ここも魔術師たら、高いんだて。それにあの人達が仕事無うなってまうのは、あかすか」
パーサが説明する。パーサは(分裂前)よくシバヤンの命でナーランダーを訪れた事があるそうだ。
「国王さもなあ、最初は改革を頑張ってみえたけど、最近ちーともやる気にゃあみたいだなも」
天幕の中でパーサが現国王について簡単に説明してくれた。
まあ、会う事のないお人だからな。フラグじゃないよね。
パーサによると、現国王はなんと外の街出身だと言う。前国王の妃の一人だった母親の父、つまり外祖父が謀反の疑いで一族もろとも城郭を追放された時、母親の王妃が身籠っていて、外の街で生まれた7番目の王子だと言う。
王子は王位継承の資格もなく、友達と外の街で自警団の様なものを作り、治安維持に活躍していた(この自警団は後に国王の近衛騎士団になる)が、6人の兄達が王位継承のドロドロや、流行り病で次々と亡くなり、王宮から迎えが来る。と言う徳川吉宗みたいな暴れん坊国王らしい。
二十歳で即位した国王も、今は額の生え際が気になる29歳。改革も奴隷制度廃止の様に無理も出ており、ちょっとお疲れのようだ。それにしても自動式侍女の情報収集は徹底してるな。
「特にお妃に、お子が産まれせんのを気にしとりゃぁす」
周りは側室を勧めるが、外の街時代からの幼馴染の妃以外は娶る気がないそうだ。
オコが目をうるませてブンブン頷いている。
ところで一介の旅人が王宮に入れるはずもないので、王朝の歴史を綴る博物館と動物園や庭園を見て回ると、もう見る物が無くなってしまった。なんか刺激の少ない退屈な街だ。
合衆国の首都ワシントンD.C.やオーストラリアの人工首都キャンベラの様な政治の中心なのだろう。
博物館は1日かけて回ったが、これは見応えがあった。今の国王はジャルディンII世を名乗っているが、ジャルディンとは、レムリア全土にその名が轟いている、
「象に乗った王子」
アンゴルモア大王に一歩も引かず、カイバラ峠を死守した歴史上の偉人。即位せずに戦死した王子の名だ。現国王がII世を名乗ったのは、それ程のビッグネームを背負う覚悟だろう。立派だと思うが、ちょっとタンジン的な暑苦しさを感じるので、お近づきになりたくない方だな。
今のところ改革は余りうまく行っておらず、折角解放した奴隷も、生活苦から貴人と終生雇用契約を結ぶ者が多いという。それは結局奴隷だな。
「多分なあ、大東だとこうはならんのや。古今、大改革をした王様は多いけどな。改革が続いて行く未来が見えへんと、だーれもついてきはらしまへんのや」
大東だと必ず後宮が後継ぎを生産するから、継続の夢が見れる訳か。
「立派な王様じゃないの。幼馴染に愛を捧げて生涯奥さんひとりだなんて」
オコは完全に感情移入しており、ジャルディンII世を応援する気だ。
さてもう見学するものもないので、そろそろお暇しようかな?と思っていたある日、夕方起きだすと街が大変賑やかだった。
「ああ、今日から祭りか」
「ねえ、これ見てからナランダー発とうよ」
「そやな、祭りの期間は夜でもぎょうさん人が詰めかけるらしので、ラン子見られるといかんしな」
と言う訳で俺たちは出発を一週間伸ばすことにした。思えばこれが、いや愚痴はやめよう。
この祭りは年に一度の収穫の祭り。ここでは稲は二期作で収穫されるが、この時期は豊穣の女神パトゥニーの誕生祭として、特に盛大に行われる。パトゥニーさんは結構面倒見がいいので、毎年祭りのどこかで、ちょっとだけ姿を表すそうだ。
広場で前夜祭が始まっていた。賑やかな音楽。軽業。手品。蛇の芸(レッドスネークカモーンの奴だ)そしてインド映画ばりの美女ダンサーの群舞。
そしてセンターで踊るのは、勿論オコだ。
あれ?
「我が主よ!炎と火花を!」
オコが叫ぶ。
やだよ面倒になるぞ。
コンコンとラン子が俺の足をぐいぐい引っ張る。
「あ!それて、タリフの町の奇跡でしょう。有名だで観たかったんだわ。ちょっとやってまえん?」
パーサも無責任に煽る。
いいのか?絶対に面倒な事になるぞ!知らんぞ!
結局オコの跳躍に併せて、盛大な花火と、巻き上がる火柱を上げてやった。サービスで花火の中にパトゥニーの御顔も。
「うぉおおおおおおおおっ!」
一万人以上集まった観客(主催者発表)が、唸るような声を上げる。パトゥニーの御顔を花火で描いた時には倒れ伏して拝む人々。踊りが終わると、顔に痣が出来そうな投げ銭の嵐。実際ブラックカードはボンダイで返したので、その後一年の旅費になって有難かった。
地元興行主のオファーは全て断って、夜明けに眠りについたのは良かったが、俺の予測通り、厄介事が翌日早速やってきた。
この踊りの熱狂の中、一人微笑んでいた男がいたのだ。
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