パトゥニー
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-15.パトゥニー
「お母さん…」
俺はつい呟いてしまい、慌てて口を押さえた。
俺の母は前世ではとっくに他界したし、薄情にも俺を売ったジョウザ近辺の両親など記憶もほとんど無い。
ところがこの方の前に出ると、溢れ出る母性に圧倒されつい母と呼んでしまった。
「あらまあまあ、ほほほ。そなたはガルーダ(朱雀)の血筋ですね。ガルーダはわたくしの眷属。母とよんでくれて良いのですよ」
このお方がシバヤンの第一の妻。黄金の顔パトゥニー様なのか。
「朱雀還流と申す旅行家の卵で御座います」
熟女と言うには若い姿。アラフォーという感じか。そしてオコでも恥らう程の美貌(オコ痛い!)何人も子を成したとは思えないグラマラスな肢体(痛っ!)。黄金の肌は、かつてシバヤンに色黒を指摘され(シバヤン、それ言っちゃダメなやつ)、黄金に輝く美肌になったという(黒い老廃物がキャーリーになった)。
「あと、そなたは妖狐殿の転生体ですね。妖狐殿は息災ですか?」
息災も何も初代も先先代もとっくに死んでるのだが。
「へぇ。今は100年ほどお休みしてはりますけど」
「そう、我らには百年後など明日の様なものです。そちらの縞獅子はランの娘ですね?」
「あい、ラン子ともうします」
「偉い、よくお返事できたね。五娘を運んでくれてありがとう。ご褒美に飛べる様にしてあげよう」
「ああパトゥニー様、おおきに有難う御座います」
ランが感涙にむせんでいる。
パトゥニーが青い瓶に入った飲み物を持って来させ、玻璃の杯に注ぐ。黄色い泡が立ち上る。
「パトゥニーの名において、聖牛アルファタウリの魔力を注ぐ。ラン子、汝に翼を授ける」
ラン子が飲み物を飲み干すと、
てってれー!
縞獅子が翼獅子になった!
グリフィンは獅子と鷲の混血と言われ、鷲のDNAが強い鳥の顔を持つものが多いが、ラン子はレッドブ、いや聖なる飲み物の力によってグリフィン化したので、顔は獅子のままである。
「わーい!これでもっとあるじのおやくにたてます」
「ラン子良かったなぁ、ええ話やええ話や」
感涙にむせんでいるランにコンコンが貰い泣きしている。
「そして、??そこな娘よ、そなたは?」
「元妖狐の転生体。今は朱雀還流が妻、オコと申します」
オコ言い切った!さっきから武装を解いたサンディ(美少女戦士)や、パトゥニー様(黄金の美女マダム)に鼻の下を伸ばしている俺に切れたらしい。シバヤンとサンディのバカップルぶりにも刺激されたか?
「思い出した!あなた、今話題の聖狐天ね。神ギルドに登録すると霊力が増すわよ。今お友達紹介キャンペーン中なの。わたくしに紹介させて」
いきなりフレンドリーな口調に。しかしこの世界、冒険者ギルドは無いのに、神ギルドはあるのか。
パトゥニー様の暴走は止まらない。
「オコちゃんとメグル殿は夫婦?結婚式は?まだ?それはいけないわね。早速式をあげましょう」
「恐れながら、これなるメグルとオコは、旅を成し遂げるまで夫婦事は封じられて」
「いいじゃない。そんなの既成事実を作ってしまえばいいのです。早速シバヤンとわたくしを仲人、サンディを証人として、黄金妃殿で式をあげましょう!」
どうもパトゥニー様は月下氷人趣味がおありらしい。
シバヤンが帰ってきてからも、パトゥニー様の口撃は止まらない。
「何を着て行こうかしら?黒留袖、いや総絞りのサリー?」
慈愛の女神パトゥニーの出自は”山の娘”。子供時代は真っ黒に日焼けして、野山を駆け回っていたらしい。黙っていればそんな御転婆にはみえないのだが、突進力半端ない。
「パーニー、ちょっと落ち着きなさい。あちらの家にはあちらの家のご都合と言うものがあるのだよ」
パトゥニー様をパーニーって呼ぶの可愛い♡
シバヤンはこの糟糠の妻を大事にしている。彼は若い頃最初の妻を失い荒れに荒れていた所を、妻の転生体であるパトゥニーのメンタルケアで立ち直った過去があり、深く妻を信頼しているのであった。
「お姉様、メグルさんには彼の御方からのご指令があるため、オコちゃんはまだ身重になれないのですよ」
彼の御方?例のレムリア様ってやつか?
サンディはシバヤンの最愛の妻だが、一応正妻のパトゥニーには一歩下がった立場をとる。かつてアスラ大魔王に対抗して最強のクローンサイボーグ美少女戦士サンディが作られた時、身体要素の殆どを提供したのがパトゥニーだったので、母でもあるのだ(ややこしい)。
なので、サンディはパトゥニーをお姉様と呼んで敬っている。
「あらあらそうなの?じゃあ仕方ないわね。じゃあオコちゃんにはこれを上げる」
差し出したのは、やっぱり
「神ギルド入会申込書(友達紹介特典付き)」
だった。
「あのう…夫も入会出来ないんですか?最近マンジュボーサットとか崇められ始めてんですけど。
「文殊菩薩ってあなただったの?うーんそっちは醍醐互助会の担当だから…」
それは大丈夫です。
「まああなたは、もう一つの大きな称号を得る事になるわよ。お楽しみに」
右の頬を…の方かな?非暴力運動家とか?
「あと旅行家としても功績を残すから、お頑張りなさい。これは後世に、あなたの本にインスピレーションを受けた画家が描いた絵よ」
空中に現れた絵は
「地理学者(フェルメール画)」だった。
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