神界へ
2部の登場人物
メグル…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。
コンコン…先先代妖狐。子狐に憑依中。
ラン子…縞獅子。ラン(獅子)と白虎(虎)のライガー。
5子ちゃん…謎の自動人形。
南レムリアの神々
サンディ…クローンサイボーグ美少女戦士。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-13.神界へ
崖の上では突如顕れた巨大な女神に、両軍とも圧倒されていた。
クルタンでは女神サンディの姿までは知られていないが、その巨大さと美しさ、そして漂う絶望的に危険な香りにクルタン軍は恐怖した。タンランの命令は絶対であるが、他国の者が崇拝する神に攻撃を加えるのは、その神のみならずその国を敵に回す事になるのでとても出来なかったし、矢を射かけたところで何程の効果が有るとも思えなかった。
「ヴァルガー様だ!女神ヴァルガー様が光臨された!」
砦からは大歓声が上がる。ヴァルガーは戦と殺戮の女神。だが"これで勝てる"などとは誰も思わない。神々が人間の戦に肩入れする事はないからだ。しかしヴァルガー神が人間界に光臨するなど、この地では100年に一度あるかないかの奇跡だ。すぐに砦に祠を作り、ここを聖地とせねばならない。
砦を守るペンジク人たちにとって、目の前のタンランの軍勢などどうでも良かった。
「ヴァルガー神だと?!」
クルタンの司令官ダリウスは驚愕した。犯し難いその姿から、いずれ名のある神の眷族かとは思っていたが、まさか女神ヴァルガー本尊とは!
南レムリアの関わってはならない殺戮と破壊の神と言えば、まずシバヤン。そしてその妻であるヴァルガー。クルタン軍人ならそう教えられる。神々が国家紛争に介入する事は無いが、誤って逆鱗に触れる様な事があれば、都市、いや国一つ簡単に滅ぶ事は古代の歴史が物語っている。
「撤退だ」
「撤退ですか?主上にはなんと申し開きを」
副官は上司が全て責任をとってくれるだろう事に安堵しながら一応言った。タンランをタンランと呼ばないのはこう言う公式の場だけである。
「タンラン?我らを捕えて罰する力など、あ奴には残って居らんわ。クルタン国軍全師団がここに居るのだからな」
ダリウスは兵に一旦帰国を命じ、最悪の事態に備えて家族や恋人と穏やかに過ごすように。そして司令官の名において命が下れば、再集結する様命じた。彼ダリウス自身は、幸運にも命があれば日頃後見している王子を擁立し、タンランを廃する事も考えていたが、いずれにせよタンランが無事に済むとは思えなかった。
王がこの大軍を差し向けてまで得たかった自動式人形は、女神自らが10本ある手の一つで受止め、愛おしそうに見つめているのだ。タンランは人間の分を超えて殺戮と破壊の女神と悪縁を結んでしまったのだから。
こうして、首都防衛軍と近衛隊を除くクルタン全軍の約9割にあたるこの遠征軍は、この作戦をまるで無かった事にしたいかが如くに、あっと言う間に撤退した。
「人間共はおとなしくなった様だな。砦の上で一部妾の信者が騒いでいる様だが。さて、急ぎ五娘を我が最愛の夫シバヤンの元に連れ帰るとしよう」
レムリア南部では、配偶者を臆面もなくこの様に公称する。
「今回の功労者だった4名は女神サンディの名において、神界に招待する。ついて参れ」
この地の民が"天界"と呼ばず"神界"と呼ぶ理由が判った。俺たちは雲の上に昇天したのでは無く、いきなり神界に伝送されたのだ。
そこは今までいた地上と何も変わらないなかった。ただ今までそれなりに鮮やかだと思っていた世界が、突如本当の鮮やかさを現した感じ。
前世の俺は中二の時に近視と診断されその後ずっと眼鏡男子だったが、初めて眼鏡を掛けた時の見える世界の変わり様。そんな感じだ。
砦の歓声も撤退して行くクルタン軍の足音も、いや鳥たちの鳴き声さえ何も聞こえ無かった。
「ではラン、頼んだぞ」
「ゆっくり行きまっせ。客人は後部座席に座ってぇな」
神界の規模はレムリア大陸と全く同じ規模なので、移動手段が必要らしい。出来ない事は無いらしいが、サンディは瞬間移動より威風堂堂とランに乗って進む事を好んだ。
そしてランはラン子の千倍程の速度で飛ぶ。
「とうさま、すごいすごい!」
神界には風とか空気という概念すらないので(俺は呼吸してなかった)、気にせず幾らでも速度を上げられるのだ。
レムリア南部のペンジク地方と同じ景色を早回しの様にランは進み、やがて首都ナランダーと同じ場所の王宮に着いた。
「神々は住居内部は作るが、敷地建物は信者の住む家そのものなのだ。往年に比べればいささか手狭ではあるが、了見せよ」
いやいやこれは、見た事もない大宮殿だよ。
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