カイバラ峠(2)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-11.カイバラ峠(2)
人間の歩く速度は時速2〜4km/h位、この傾斜の登りだと身体強化された十割増しメグルでせいぜい2km/h。オコは俺をツヅラに乗せても4km/hは出せる。遠慮なく乗せて貰い、時々俺が降りて俺のペースで歩く事も交えて、殆ど長い休み無しで7時間で山頂近くまで来た。
凄いぞ俺の嫁!
山頂には道を塞ぐ砦があり、ここが国境になっている。長い歴史上の経緯で、南レムリアのペンジク側が砦を守っていた。
ペンジクの政情も複雑で、他民族国家の為千kmも離れた首都の力は辺境のカイバラまで及んでいない。地元の民兵組織が砦を占領している。つまりタンランの兵に比べ、砦の守備兵は余り統率が取れていない。しかし500人位しかいなくても砦に篭っている限り、何万の兵でもこの道を登るしかないので、砦は落ちないのだ。
ところが俺たちが到着した頃にはクルタン兵が続々と押し寄せて来たので、砦の司令官は本部に確認する事なしに、慌てて砦から弓矢で攻撃を仕掛けてしまった。クルタン兵は応戦の指示がないので、ただ矢を避けようと右往左往する。
この砦の近くの崖は
「死の谷」
と呼ばれ、古代に西域のある王が南レムリアの民を奴隷として連れ帰ろうとした際、多くの奴隷が死んでしまい、仕方なく谷底に投げ捨てたと言う深い谷だ。
その崖際辺りに、俺たちは木の葉隠れで隠れていた。ところが整然とした二列縦隊で登って来たクルタン兵が矢を避けて一時的に膨らんだ為、俺たちはかなり崖っ淵に追い込まれた状態で、やみくもな砦兵の矢の雨を受けてしまった。
最初にどんくさい俺が腕に矢を受けてうずくまる。助けようと駆け寄ったオコの足に矢が刺さり、オコが転ぶ。俺もコンコンも辛うじて術を解かなかったがツヅラの蓋が開き、5子ちゃんがツヅラから飛び出してしまい、コンコンの術の範囲を外れた。
「いたぞ!手配書通りの自動人形だ」
歓声を上げてクルタン兵が殺到する。俺たちも押されて5子ちゃんのところへ近づく。
「行くぞ!」
峠道で敵に囲まれた時、最後の手段として崖から飛び降りる事はオコ、5子ちゃんと打ち合わせ済みだった。
5子ちゃんは急いでツヅラに戻る。この時点で5子ちゃんの姿が消えて敵兵は狼狽するが、何重にも取り囲まれて居るので逃げ場はない。
オコが俺に負ぶさる。
そして俺は飛び降りる。
落下の加速度は、崖の垂直の壁面に最大級の嘉門を掛ける事で殺す。コンコンが木の葉隠れを掛けているので、俺は嘉門に全集中出来る。
ある程度落下速度が収まったら、強力な風魔法を下に噴射して軟着陸。
のはずだった。
ところが嘉門では落下速度が下がらない。
崖が凸凹しており、嘉門が上手く当たらないのだ。よく映画で主人公が崖から滑り落ちて蔦を掴むが切れて、また別の蔦を掴み…と言うシーンがあるが、あれよりももっと早く落ちてしまう。
シミュレーションだけで実験できなかったのが失敗だった。だがまだ手はある。
500m程ある崖の半分位落下したところで、オコが叫ぶ。
「ムタボール!」
飛び出したラン子は俺たちを上手く咥えて振り回し、背中に乗せたが、振り回した反動で5子ちゃんがツヅラから転げ出て飛ばされた。
嘉門で引き寄せる力はもう俺には残っていなかった。
ゆっくり降りて行くラン子の背中で、俺は祈った。
「地元の神様、どうかお宅の娘さんを守ってくれ!」
自動人形が地面に叩きつけられる、ガシャッと言う音が聞こえ…
ないなあ?
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