オコの想い。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-5.オコの想い。
ジョウザからダラまでの荷馬車の旅に比べれば10日は短いのだが、あの時はメルやタンジンがいて退屈しなかった。一回山賊まで出たし。
あの時は荷馬車の保存食で食いつないでいたが、今回はまず自前で食料を確保しなければならない。
泉は2日に一度ぐらいの距離で地図上の泉ポイントが見つかって給水出来たが、一度枯れていて慌てた。
コンコンとラン子(子猫バージョン)が周辺を嗅ぎまわって
「ここ掘れわんわん」
したので、俺がレンガ状の塊を掘り出す土魔法で100個分程彫り進んだら、水が湧いて来た。
掘り出した土は日干しレンガだと浸み出す水で崩れるので、火魔法で簡易的に焼きレンガにして周りを囲んだ。しばらくすると汚れも沈殿したので皮袋に詰めた。
(のちに湧水量の多さからカナートが掘られ、地域では有数の農場が出来たそうだ)
オコは弓作りを諦めたらしい。主上を守る技としてサバイバル的な訓練も受けているオコだが、弓弦だけは作れない。米空軍のサバイバルキットにはこのためのケプラー繊維のストリングスが入っているそうだが、そんな便利なものは持ってない。何百kgという張力に耐える弦を作るには、丈夫な繊維を撚り合せるか大型の動物の足の腱が必要だが、調達は難しそうだった。
結局オコの狩りは小石を投げて鳥を落とすか、手槍を投げてウサギ等を狩るかになった。原始的だが確実な方法で、左右の手に石を持ち時間差で投げて、避けようとする鳥を落とす技は見事だった。手槍も命中率は高かったが距離が出ないので、二股の枝を使って"投槍器"を作ったが、距離は出るが精度はイマイチとの事だった。
ラン子は箱入り娘なので無理だったが、コンコンの宿主の狐の狩猟本能は獲物の発見に大いに役立った。
オコは村に着いたら弓矢を売って貰うつもりだと言う。
狩りが終われば食事の支度。
土魔法で毎度簡易的な竃を作り、灌木の枯れ枝(ラン子が一本づつ咥えて拾って来てくれた)と、持って来た貴重な炭に火魔法で火を点ける。
ウサギと鳥の処理はオコがお手の物だ。ジョウザに捧げられた供物には、狩人からの喜捨もあったからだ。
1.ラン子の速度に目を回しながら到着。
2.天幕を張る。
3.朝食。
4.狩りに出る。
5.昼食。
6.日没まで天幕で寝る。
7.起きて夕食。
8.天幕を畳む。
9.ラン子に乗って出発する。
キャンパーのお手本の様なルーチンの繰り返し。
流石に飽きる。
オコは体が動かせて楽しそうだが、俺は今まで習った魔術を全部おさらいしたり、コンコンに新しい術を教えて貰ったりして過ごした。
何日目かの昼下がり、俺は天幕に入ってうとうとしていた。ラン子はすっかり定位置になった俺の横で、もうぐっすり寝ている。
「しかしこれでは長老のご指令が」
「あの子は小さい頃から目先の事しか考えん子やった。メグル殿をお守りして旅を続けねばならんお前が、身重になってどないする?」
「しかし私がメグル様の種を宿す事に、妖狐の里の未来がかかっていると」
「妖狐の里など滅んでもかましません!言うても簡単には滅んだりせんけどな。メグル殿が異世界から持って来はった"ちいと"たら言う恩寵は、一代限りのもので、子孫に継がれるものではおまへん。あの馬鹿娘(長老)は勘違いしてますねん。もっともあんたとメグル殿のお子たちは、いずれも傑物に育つて占いに出てる。楽しみやなあ」
「でも…」
「メグル殿は恩寵を受けてはるので、普通の人間の何倍か寿命が長い。この眷族の体は殺されへん限り、メグル殿が亡くなるまでは滅びる事はない。旅に100年かかったとしても、あんたらバリバリピチピチの現役や。焦ったらあかんで」
「ひゃ、ひゃくねん…」
「ものの例えや。旅を短こうするためにラン子を借りて来た」
「でも…最近メグル様を想う気持ちが止められなくて」
「若いしなぁ…。そや!帯にあんたの発情が収まる呪をかけといたるわ。辛抱堪らんくなったら擦っとき」
「お義母さま、そんなあけすけな言い方!」
メグル殿だのメグル様だのお義母様だの、普段のタメ口はどこ行ったって感じだな。
「オコよ。こたびの随行は、レムリア様の御意思。ゆめゆめ忘れてはあきまへんで」
「あい」
ん?レムリア様って誰?
話が終わってオコが天幕に入って来た。
真っ赤な顔で一心に帯を擦っている。
いきなりかよ。
『この旅が終わったら、結婚していっぱい子供作ろうな』
俺は死亡フラグを心の中で呟きながら、ねぼけたフリをしてラン子の反対側に横たわったオコをギュッと抱きしめる。
オコはいい寝顔で眠りについた。
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