進路希望調査(2)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
2-3.進路希望調査(2)
食事が終わって俺たちは店を出た。店と言っても布を張った天井に床にも布が敷いてあるだけ。と言う簡単な作りで、短い足のついたちゃぶ台みたいのに料理を載せて持ってくる。スープとナンと肉・野菜の煮込み。これだけだったが、干し肉と乾餅に比べれば天上の美味だった。
支払いの段になって少々手間取った。
元々俺の持ってる金は、例の何世代も前のスケベボンが残したヘソクリ。ボンは聖職だから給料がないが、どういうサイドビジネスで稼いだか、手金庫の中の金銀貨は色々な国の発行したものが混在していた。
ボンになるべく教育を受けて来た俺だが、周辺各国の通貨について学んでも、wikiで写真入りの画像を見るわけではないので、其々の貨幣価値がわからない。孤児院への寄付の時は一番大きい金貨を放り込んでおいた。
ダラからの買い物には、オコが使い慣れているジョウザのゲザと言う銀貨で支払ったのだが、今日の野菜などの買い物で使い切ってしまった。後はディルハムと言う西域の銀貨、デナリと言う西の辺境の銀貨、その他大東の匁銀だとか、南部のルピアとか、雑多に混ざっている。
店主は商会の両替公証人を呼んできてきちっと対価を受け取り、銅貨のお釣りを返してくれた。騙されない代わりに公証人の手数料は俺持ちだ。
オコも多少の給料の蓄えは持ってきたはずだが、これは使いたくなかった。いく先々の孤児院で使うに決まってるから。
そろそろ稼がねばなるまい。
広場では旅芸人の歌手が歌を披露していた。
気持ち良さそうに体を揺らせて聴いていたオコが、我慢できずに踊りだした。
「しなやかなる手足は柳の如くしなり、アラムの駿馬の尾に似たる髪は風を鞭打つ。細き腰の上の高き双峰は緩やかに踊り、紅き唇、アーモンドの眼差しは月に濡れる」
古歌に歌われるままの姿でオコが踊ると、地鳴りの様な歓声が響く。
俺は前に出て右手をかざす。
オコの頭上にぱっと大輪の火花が開く。
左手で天を指すと二頭の火龍が絡み合って、オコの背後から天に昇る。オコの踊りは釣られて激しくなる。殆ど空中を飛ぶ様に踊る。
先程まで歓声を上げていた観衆はあっけにとられて息を飲む。
やがて静かに歌が終わり、俺とオコがお辞儀をすると、もう割れん許りの拍手と大歓声。
「明日もやるのか?」
「旅興行をしないか?」
「幾らだ?」
最後のは、踊り子は売春をすると決めつけている下品な酔っ払いで、オコに蹴りとばされて観衆の笑いを誘っていた。
痛い程降る硬貨の雨。しかも銀貨も結構混じっている。男たちは天幕の下で茶を飲みながら、今後何十年もこの夜の事を自慢する対価を投げ銭したのだ。
歌手の楽団員たちが拾い集めた投げ銭を籠に入れて持って来た。歌手がざっと数えて1/3を取り、残りを俺たちに差し出す。
「これじゃそっちの取り分少なくないか?そっちは楽団員もいるのに」
太鼓、シタラの様な絃楽器、横笛と篳篥。大人数の楽団だ。
「取ってくれ。何時もの俺たちの投げ銭より百倍は多い」
歌手は高らかに笑う。
「それに、良いものを見せて貰ったので、俺の芸術魂に火がついたよ」
俺たちの知る由もないが、後に彼を座長として、クアイア(合唱団)、オルケスタ(大編成楽団)、そしてクライマックスの大花火を備え、大流行のベンガニー先生の作品を演ずる
「ギョウザ歌劇団」が大成功を収める事になる。
「旅芸人も良いなあ…」
1回芸を見せただけで1ヶ月分の食費は稼いでしまった。
コンコンは
「技芸天女。うむ」
とか考えているし、ラン子はタブラと言う複数の太鼓を手で叩く真似をしている。
漸く人通りもなくなり、ラン子に乗って旅立つ時が来た。
「そう言えば、ラン子ってどうやって元の姿に戻るの?朝の光で縮んで猫になったけど、今は陽も落ちてるのに虎にならないよ」
「それが此度の呪なのや。まだ子供やからな。走り続け過ぎたり、人前で戻ったりせんようにな」
コンコンはオコに変身解除の呪文を教えた。
「ムタボール!」
アラビアンナイトそのものだな。ラン子は縞のある獅子に戻った。
「あと、うちらが休む時は必ず帯に封じる様にな。子猫の姿では休息出来へんさかい」
街はずれの、道が分岐しているところに来た。
オコは旅の荷物を改めている。ダラで買った水袋は、ラン子の加入でそれ程長旅にならないので3つは道具屋で売って、代わりに大量の炭と鍋を買っていた。後は野菜や塩漬けの肉(干し肉程日持ちがしないが旨い)、調味料など。
「どっち行く?」
ラン子が南に行く道に進んで、俺たちを見た。
「そっち行きたいんか?お父はんに会いたいんやな?」
ラン子が頷く。
レムリア大陸の南部ペンジクは、独自の古代文明が栄えた場所だ。遺跡も多く是非行ってみたいが。
「ランに会いたいのか?」
ラン子は俺に近づき、香箱坐りして頭を下げる。頼みがある時は従順なんだな。と思ったが、さっき叱った事は結果的に良かったのかもしれない。
レムリアの大山脈の北側からペンジクに入るには西側ヘ迂回するしかない。東端は大熱帯林に阻まれ通過困難。西側の、標高が低い峠道を抜けて南部に抜ける。ここはカイバラ峠と呼ばれている場所で、低いと言っても峠道は1000m級の標高と言う難所だ。
この峠を目指して大山脈沿いに西南に進むのがこの支道で、やはり標高の高い難所が続く。
「サンディか…。神さんやからなあ…。わては行ってもええけど、人間のメグルやオコは会えへんかもしれへんよ」
「まあラン子がお父さんに会えるなら、俺たちはいいよ」
ラン子が俺の顔をペロリと舐める。
「へえ、ラン子が男はんを…」
ラン子の舌は、ザラザラしていたが、不快ではなかった。
『世の中には、経験してみなければ分からない事ばっかしだなあ…』
俺はちょっと嬉しくなって、思い切って宣言してみた。
「俺、自分の進むべき職業が判った気がする」
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