11-10.狼の森(1)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
11-10.狼の森(1)
翌々日まで様子を見て、白銀丸は村人に簡単な感冒薬の作り方と、病魔に負けない体力を作る薬や食物。そして今一度公衆衛生の大切さを教えた。今回使った父・絞陀秘伝の薬は、材料も容易く手に入るものではなく、治癒魔法を併用する必要があり、用法を間違えると危険なので、もし同じ様な重篤な患者が出たら、ウプウアウトを通じて自分を呼んで欲しい。と告げた。
村人は狼の森で入手可能な薬草を使った白銀丸の感冒薬で大抵は治ってしまい、この薬は白銀丸の名を取って
『シロネール』
と名付けられて、この村の特産品になった。
偶然だが、薬の材料の薬草の一部が、ナイラスではこの森でしか取れないものだったので、ナイラスの薬師達も作る事が出来なかったのだ。
「では、いよいよ森に入ろうか」
「かしこまりした」
ウプウアウトは、ここに降りた直後から狼達と連絡を取っていた。
ぶっちゃけ遠吠えである。
「この奥に先祖を祀った塚があります」
ウプウアウトが案内する。
やがて森の木がない広場の様な所に出た。
100頭以上の狼が伏せの姿勢でウプウアウト神を待っている。
「若、おかえりなさいませ。サラ様にはお会い出来ましたかな?」
一頭の年老いた狼が挨拶するが、明らかに四本の足で立っているのがやっとの有様だ。
老衰と言うより病気か?
「とりあえず、村の感冒とは違いますね」
白銀丸が所見を述べる。
咳とか発熱はなく、ただただ力が入らないそうだ。
やっぱりなんらかの毒か呪いの影響だろうか?
白銀丸が老狼たちを診察しているうちに、俺たちは、狼の集落を見学した。
集落と言っても建物があるわけではない。
大きな木の枝を倒して、葉の付いた枝を交互に被せる事で原始的な住居の様なものを作り、子供や老狼はそこで寝ている。
これが狼たちの文化なので、人の基準で家を建ててやったりするのは良くない。しかしこれでは、雨が降れば濡れてしまうだろう。
「裂谷には洞窟がいくつもあって、雨をしのげました。そしてここよりは雨が少なかった」
ウプウアウトが説明する。
アヌビスはじっと何かを考えていた。
「先祖たちは、ナイラスでは雨が多い方のこの地方で、どうやって暮らしていたんだろう?」
「実は5km程離れた山に洞窟があり、雨や真冬の時はそこで暮らしていたそうです」
その洞窟は今もあるが、狼達が裂谷に避難していたうちに森と山の間に新しい街道が開通してしまい、アンゴルモアの脅威がなくなった後も、森では暮らせない。との判断だった様だ。
「やっぱりそうですか」
「間違いないと思いますよ」
ナイラスと師匠が、何事か話している。
白銀丸がやって来た。浮かない顔をしている。
「まだ原因はわかりませんが、一応強壮剤を投与し、治癒魔法を使いました。ただ」
「ただ?」
「どんどん体温が下がってしまうのです。おそらく体力を支える力が流出しているのではないかと」
「呪いだと思う?」
「呪いなら結界で防げそうな気もするのですが」
「体内に何かの毒か呪いが?」
「もう少し調べないと判りません。パーサさんのお力をお借り出来ませんか?」
パーサらナンバーズは、自動式侍女人形と言う職務の関係上、かなり精巧な医療検査キットを内蔵している。
通常は対人用だが、パーサはアヌビス体型へのグレードアップ時に犬猫用のキットも搭載した。
俺は特定周波数笛を吹いた。
3分後にパーサが走って来て、侍女体型に変化した。
「遅くなってまった。色々あってよ。後で話すで」
全然遅くないのだが、半径5kmなら1分以内に駆けつけるのがパーサの矜持だそうだ。
「ああ、これ体内になんかおるで」
「寄生虫か?」
「虫よりもっと小いしゃあ」
「虫下しを処方しましょうか?」
「あかんて。消化器官だにゃあ。これ、肝臓に住んで、栄養を吸い取っとる」
手術で取り除くか。
ナイラス一の執刀医もいるし。
「卵は産んでにゃあ。生殖機能はにゃあようだに」
なに?
「まずは体を冷やさない様にしなくてはいけません。体力が落ちて死に至ると」
「どうなるの?」
「おそらくこの虫は体外に出て、次の宿主の体に入り込みます」
増える事がない代わりに、おそらく永遠に生き続けるこの虫は、そうやって生き延びるのだろう。
「パーサ、この虫の事、知ってるの?」
「似たものは見たことあるでよ。一娘様の害虫見本瓶にあったで」
「へー知らなかった。なんて虫?」
「神喰い虫」
アヌビスだけが、顔面蒼白になった。




