8-12.箱庭
※第8部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
聖狐天の父となる。
オコ…メグルの妻の元妖狐。メグルとの子作りを夢見ている。弓の達人。弱者の味方で直情的。聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ステル(ラン子)…鳥ジャガー神。ラン(獅子)とヘレン(白虎)の娘。メグルをあるじと慕う優しい少女。第6章で進化を遂げ成体、幼体(子猫)以外に猫耳娘の形態をとる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。コリナンクリンの恋人。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥神。運送業ワタリガラス商会の女社長。ノヅリの恋人。
◯その他の登場人物(神)
イグルー…大氷原の村の娘。村長の孫。メープル朝の末裔。
パナ…元八娘のパー子。人間となってアルディンの妻となる。
アルディン…バクロンのイザン朝第五王子。王位を捨ててパナと結ばれる。
◯ペンジク4神
シバヤン…南レムリア最高神の一人。破壊と創造の大神。
パトゥニー…シバヤンの第一夫人。慈悲と再生の母。
サンディ…シバヤンの作った美少女人造最終兵器でシバヤンの第二夫人。
キャーリー…シバヤンとパトゥニーの娘でサンディの妹。人生崖っ淵の最後の希望。漆黒の美少女神。
◯ナンバーズ
一娘…最初に生まれた自動式侍女人形にしてシバヤン家の宮宰。シバヤンも頭が上がらず、ナンバーズ全員に恐れられているスーパー秘書。
五娘…ナンバーズにしてキャーリーの親友。レムリア最速。
二娘…ナンバーズだが、現在は聖狐天の部下になっている。武芸の達人でメル、オコ、御供の師。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
8-12.箱庭
「見てもいいですか?」
「いいとも。俺の自信作だ」
それはレムリアによく似た大陸の模型だった。
精緻ではあるが、特に目新しさはない。次々と新規な発明をし続けたシバヤンらしくはない。だが、
「これって、どんどん吸い込まれるよ。ステルが飛んでる時はこんなにならない」
「そのままどんどん吸い込まれてごらん」
体を乗り出して、覗き込んだステルが
「わぁー、見える見える!」
俺も覗き込んで見た。どんどんズームアップの様に、拡大されて行く。
こう言うのアニメのオープニングによくあったよな。地球から日本へ。そこから関東平野、東京と進んでやがて主人公の家へ。今は3Gで比較的簡単に描けるらしいが、昔は一枚一枚セル画で興してたんだから、大変だったろう。
そのままラムのUFO(テンちゃんのお母はんだったかもしれん)が諸星家の二階に突っ込む。と言うネタもあった。こう言うネタの元祖は多分メル・ブルックスの新サイコで、窓越しに主人公を映し、そのままズームアップして、最後にカメラが窓ガラスを割る(ズームレンズじゃなく単焦点だった)。と言うネタ。
とにかく本当に地面に激突するんじゃないか?と思わせる急速なズームアップだ。
やがて一つの村に辿りつく。
村がどんどん拡大されて、広場の真ん中に井戸があり、
釣瓶井戸を手繰って、水を汲んでいる若奥さんの大きく開いたブラウスの胸元に、ズームイン!
「おお!」
「どこ見てんのよ」
オコはこの手の事には異常に勘がいい。
「いや別に。それより見てみろよ!まるで人が人の様だ」
「ちょっと何言ってるのか判らないんですけど」
「とにかくオコも見てみろよ。凄い精巧だから」
「確かに凄いわね。あ!今スリが財布を狙って!ちょっと行ってくる」
「オコ落ち着け。これはフィギュアで出来たジオラマだ」
「そうだった。てへ。しかしまるで生きてるみたいだね」
てへって言う奴初めて見た。
「これは商売になるわね。非現実娯楽施設作ったら大評判だろうな。ああもうめちゃくちゃにお金の匂いがする!」
「どうやろ?ベンガニーランドとかを妖狐の里に作る言うんは」
「良いわねえ。早速企画書を」
「ちょちょまちょちょまが飛んでるよ。あれ?このちょちょま、お家より大きいぞ!」
ステルそれ蝶々違う。それモスラや。
「おーいみんな帰ってこーい。金儲け考えてる場合じゃないぞ。家より大きい蝶。スリががさっと財布を。これは何か妙な世界だ」
師匠が顎に手をやっている。名探偵モードだ。
確かに変だと思った事がある。村人の顔が良く似ている事。しかも彫りは深く、美男子だ。生前の俺みたいなくたびれたデブは一人もいない。
女性もナイスバディの美女。
今思えば、ジオラマに置かれた人間が動くのも変だが、人々の顔が…あれだ!
タミヤの戦車シリーズでジオラマ作る時に使う兵隊さん人形。アメリカ軍とドイツ軍があった。
女の方はF1カーの模型を作る時に華を添える、
「レースクイーン」
「どこかの女王?」
「いや何でもない。よく出来てるけど、動くフィギュアなんだ」
「わてが見たのは狐人の里やった。まるで聖狐天祭の時の妖狐の里みたいに、娘達が狐耳と尻尾生やしもって」
「アシは目で狼人と競走しとった。ああお兄ちゃんも連れて来たいでかんわ」
「気がついた様だな。これは俺がコツコツと買ったり作ったりした大陸丸ごとのジオラマだ。俺の命より大切な宝物だ」
「何で大きく見えるの?」
ステルが聞く。
「それはね。ズームの魔法をかけているからだよ」
シバヤンが赤ずきんのお祖母さん(中の人が狼)みたいな事を言う。
「ふーん。シバヤンおじちゃん、楽しい?」
「楽しいぞ。夕飯後これを夢中で作っていて、夜が明けてしまった事が何度もあってな」
なんか結末が読めてきた。シバヤンとの夜を凄く重要視している方がお二人ほど…。
「余りに没頭して構わなかったので、パトゥニーとサンディの怒りを買ってしまい」
ほら言わんこっちゃない。
「この小屋を隠されてしまった事がある」
「シバヤンおじちゃん怒った?国、滅ぼした?」
まるで大魔神だが、ステルの人物評は的確だ。
「いや、流石に俺も反省していてな。ジオラマの事は綺麗サッパリ忘れて、仕事に励んだのだ」
これ、神話で聞いた事があるぞ。
「小さいおじさん」
事件だ。詳細は伝わっていないが、大雑把にはこう伝わっている。
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小さいおじさんの伝説
ある時働かない大神を懲らしめようと、民が大神の一番大事にしていた宝物を隠してしまう。
反省した大神は真っ当に働く事を誓う。
だがこの大神の体の大半は毒気で出来ており、反省して毒気が抜けた大神は、小さな小さなおじさんに萎んでしまった。
小さいおじさんは民の家を巡り、善行を施したのだが、こんなに小さな妖精みたいなのがお前らの大神か。と他の国に嘲笑され、民はもう一度元の姿に戻って欲しい。と大神に頼み込む。
宝物を返して貰って元の姿に戻った大神はまた時々仕事を怠けたが、民はますます大神を信仰したと言う話じゃ。
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「何故か二人が泣いて謝って、このジオラマを返してくれたのだ」
そりゃ小さいおじさんでは…。いやこれ以上はよそう。夫婦のプライバシーだ。
「見ての通り、この箱庭世界ゴンドワナは、俺の理想とする人間、魔物、その他の人種が共存して生きられる世界だ。大きな声では言えないが、エルフ、ドワーフ、獣人や魔物がレムリアで絶滅したのは、何とも承服出来なかったので、こんなささやかな現実逃避をだな」
なんか判る気がする。だからと言ってレムリア創造神様には神々も逆らえないしな。
「もしかして、パナの依代のハーピーのフィギュアは、この箱庭から?」
「左様さ。ハーピーのいたところを、皆がわかる様に目印を付けておいた。覗いてごらん。見えるか?道の向こうの気球が」
いやレムリアには気球なんてないのだが。と気づいた時は遅かった。
ぼやけていた気球がはっきりするのを、一生懸命見ていた一同の背中をシバヤンが
トン。と押した。




