8-7.避難所
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
8-7.避難所
「確かにカイバラ峠越えは厳しい。しかし避難所なんてあったかなあ…」
大山脈の西端部の中でカイバラ峠の標高が一番低いので、みなここを通る。細い山道は厳しいが、山道を取り囲む様にして螺旋上に徐々に登って行く峠道であり、健康な人間ならちょっとキツイ位で済む。
バクロンやナイラスなどの西部レムリアとペンジクを繋ぐこの峠を多くの民族が通り過ぎ、
西方に起ったサンダル大王がペンジクに攻め込んだのも、侵入するアンゴルモア軍を
「象に乗った王子」
ジャルディンが撃退したのもこの峠だ(即位せずに戦死したこのペンジクの英雄に敬意を表して、サートはジャルディンII世を名乗っている)。
そう言えば古代の西の王がペンジク人を奴隷として連れ去ろうとして、大勢のペンジク人が崖から身を投げた。と言う伝説もあったな。
俺たちも同じように身を投げたが、巨大サンディに助けられたのだった。あの時は五娘がいたからサンディは助けてくれたのだな。
峠道は馬車がすれ違えない程狭いが、幸い降りてくる者は居なかった。パーサは傾斜をものともせずに登って行く。
峠の頂上にはペンジク側が建てた関所があるはずだ。貪欲王タンランが生きていた時は、この関所を巡って何度も攻防があったが、俺たちが前行った時はペンジク側の民兵が支配していた。
現在はペンジクはジャルディンII世によって統一されたので、ここにいるのは正規兵だろう。
ところが実際に行ってみると、関所は大変な事になっていた。
前は石を積み上げたいかにも堅固な砦だったが、なんか変だ。
ケバいのである。
赤、緑、黄色の縞模様に城壁は塗られ、乱立する色とりどりの旗。
ちょっとジョウザの宮殿の祭礼の日を思い出した。
長柄剣を持った屈強な武装兵が関所を守っているのは前と同じだが、頭に兜ではなく白い頭巾を被っている。
僧兵じゃないか?
北都比叡山とか南都興福寺では、荘園を守るため武装した僧を雇ったが、次第に横暴になり、権勢を誇った白河法王でさえ、
「鴨川(洪水を起こす)とサイコロの目と山法師(比叡山の僧兵)は何ともならん」
と嘆いたと言う。
これを抑えて男を上げたのが平清盛である。そう言えば平家の宿敵源義経の家来、武蔵坊弁慶も僧兵あがりだ。
「巡礼か?これより先は馬と車の通行はならぬ!」
兵が誰何する。かなり強圧的だ。
「そーけ。じゃあ馬はたたむでよ」
パーサがあっさり人間の姿に戻る。
俺達も馬車を降りて、ため息をつきながら馬車をよいしょとマジックバッグに入れる。
兵達は腰を抜かしている。
いやこれは比喩的表現で、辛うじて立っているが、魂を抜かれた様に呆然としている。
「おのれ、怪しの術を使う魔術師め。何者だ!」
「はい、僕は怪しの術が得意な魔術師です」
「毒も使うよね」
「あの最低な毒な」
もう兵達がパニックなので、俺が名乗る。
「こくみのえゆ、うらなら」
「聞こえんぞ。ちゃんと名乗れ!」
怒鳴りつけたのは、兵ではなく社長だ。あそこの会社、圧迫面接とかパワハラとか横行してるんかな?
「国民の英雄。ウラナだ」
ジャルディンから貰った徽章を掲げる。本当ならば、旗も貰ったのだが、恥ずかしいのでしまってある。
「残念だったなあ。国王の権威も、ここでは通用せぬ。ここは独立宗教法人、御降臨寺院だ!」
御降臨ってあれだよな。
「我らはヴァルガー様縁の者ぞ」
コンコンが声を張り上げる。
ヴァルガーはサンディの別名で、前述のとおりサンディはこの名を大変嫌がっているが、ゴンドワナから帰って来たばかりの俺には懐かしい名前だ。
「たわけた事を、御降臨の女神様の名を詐称する不届き者め。捕えよ!」
オコ、パーサ、ステル。そこで誰が戦うかジャンケンしてるんじゃない!しかも延々あいこって。
仕方ないので、俺が自慢の触手で。
「いやそれは英雄の名が廃る」
師匠が出て行って、素早く電流をキメる。
前にパーサが大東禁軍を全員行動不能にした体内電気みたいなものか?
「いや僕のはこれさ」
なんか緑色の透明な板を頭に擦り付けていた。
静電気かよ!
「エレキテルと言う東方の術だ」
レムリアにも平賀源内がいたのか?
「じゃあやっぱり夏には鰻を?」
「何の事だい?この術使うと、頭髪が薄くなるのが欠点さ」
痺れて動けない僧兵たち(寺院だから僧兵でいいんだよな)にオコが優しく尋ねる。
「あたし達、避難所を探してるの。案内してくれる?」
這って逃げようとする一人の僧兵の上着の袖とズボンの裾を一度に4本の矢で地面に縫い付けて、オコがにっこり微笑む。
「は、はい。ご案内します。が、これを着用願います」
何とか痺れから立ち上がった隊長らしき僧兵が差し出したのは、どう見てもマスクだ。
「避難所の中に、恐ろしい病気に感染した者が隔離されていますので」




