7-33.糸口
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
7-33.糸口
「みなさんがどんな方なのかは、大体判りました。あなた方の世界。レムリアについても。ただどうして二つの世界が重なったのかが不明です」
賢者は率直に言った。
「私は古い文明の都で、未来予知学と言う魔法学を学びました。そこの教授の話によると、時間は過去から未来に流れていくのだが、その途中で幾つも分岐して行き、平行して違う未来が訪れる。場合によっては全く違う世界になる事もある。との事でした」
師匠が言っているのは、ナイラスのトト教授の理論だな。
「私たちのレムリアと、そちらのゴンドワナは、どこかで分岐してしまった。大陸の名前が違うと言うのは、かなり古代から分岐された様に思えるけれど、もしかして誰かが意図的にすり替えたのかも知れない」
なんでそんな事を?
「なんでそんな事を?」
賢者と俺は同時に同じ事を思ったのか。
「今のところ、分かりません。ただ、このもつれた糸を解く糸口はある様に思います」
「それは?」
「二つの世界に共通なものがあるのです」
「共通って?」
オコは思案顔だ。
「なるほど。それは余だな」
「その通り。そしてヴァルガ様が封じられたと言う神話と、封じた神々の名」
「つまり?」
俺は師匠に尋ねる。
「つまり、こっちのゴンドワナ神話に登場する、ヴァルガ様以外の神々はどこに行ったのか?」
「人間党の連中が始末したのでしょう」
と賢者が言う。
「確かに信仰されなくなった神々は、急激に力を失いますが、基本的に彼らは神界と言うところに住んでおり、人間たちが攻め入る事は難しいのです」
うんうんと頷いていると、急に師匠が俺に振って来た。
「君の方が詳しい。ヤクスチランの歴史を話してあげて欲しい」
そう言う事か。
俺は我々の世界では、海の彼方にヤクスチランと言う帝国がある事。そこは他のレムリアとは隔絶しており、悪しき人喰い神々に支配されていた事。
マヌカ・ケペックが立ち上がって民衆を率い、神界に攻め込んで、悪しき神々を滅ぼした事。を告げた。
「では人間党も同じ事が出来たのではないですか?」
賢者が当然の疑問を投げる。
「人間は絶対に神界に入れません。ヤクスチランの神界に人間が易々と攻め込んだ事は、俺も不思議だったのですが、最近理由がはっきりしました」
「それは?」
「人類の代表です」
「それはどう言う…」
「レムリアには、人類の代表と言う役職があり、神々と人間。更にはその他の種族との調整を果たしていました。彼がヤクスチランの神々の悪事を知って、神界への鍵を開いたのです」
俺はそんな鍵は持っていない。しかしマーリンにはそれが出来た。人間なのに神仙に片足突っ込んでいる存在だからである。
「ゴンドワナにはそんな人間はいましたか?」
師匠が聞く。
「どの様な神話でも聞いた事がありません」
「もし人類の代表がゴンドワナにいれば、人間党の独裁など許さなかったでしょう、つまり彼はここには居なかった。だから人間党は神界には攻め込んでいない」
「つまりシバヤンを始めとする神々は、今も神界にいる。と言う事じゃな」
「ヴァルガ様、シバヤン以外の神々の名を覚えて居られますか?」
「余を倒したサンディと…シバヤンの第一夫人。名を何と言ったか…。後は大東やバクロン、ナイラスの偉そうな神々。名が思い出せない」
レムリアの神話ベースでヴァルガを見、歴史も翻訳して理解していたが、それはレムリア世界がゴンドワナ世界に重なった。いやもう衝突したと言っていい。その時にヴァルガの頭に入りこんだ記憶かも知れない。
「やはり、レムリア世界とゴンドワナ世界はヴァルガ様で首の皮一枚繋がっているんでしょうね。そしてそこに待望の人類の代表がやって来た」
師匠が俺を前足で指す。
え?俺?
俺はマーリンと違って神界への鍵なんて持ってないし、通行証も持っていない。
「ウラナ殿、あなたが人類の代表なのですか?」
「今はね。ただ俺にはそんな力は…」
「鍵なら持っておる」
ヴァルガが首に下げた大きな鍵を見せる。
「余は神だから、神界への出入りは出来たし、眷族に通行手形を貸与する事も出来た。しかし余は敗れ、レムリア(@この世界)に封ぜられたわけじゃから、当然神界などには行けぬ。その象徴としてこの軛をかけられたのじゃ」
軛とは牛が耕作する時に首にかける農具だが、罪人の首枷にも例えられる。行動の自由を奪う。と言う意味だ。
「なぜ鍵の形をしておるのか不思議じゃったが、この為であったか。なるほどの、いつもは絶対首から外れない鍵が、そちに渡そうとすると外れよる」
ヴァルガは容易く、ミスリルを編んで作られた紐にぶら下がった鍵を俺に渡した。
俺の体より大きいじゃないか。
と思ったが、師匠が無理やり俺の首に紐をかけた途端、俺の体は元に戻った。
同時にオコと師匠も元の姿になった。
ちなみにヴァルガは狼のままだ。
「わわっ!皆さんは本当に人間だったのですね」
「この姿が人間と、知っておられるのですね?」
「あれ?そう言えばそうですね。変だな、一度も会った事ないのに、何で知っているのだろう?」




