7-25.大陸の名前
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
7-25.大陸の名前
次の朝、俺たちが磯の魚で作った味噌鍋で朝食をとっていると、例の七人がやって来た。
「ふお〜っ!何という芳しい香り」
「食うかい?味噌仕立ての磯鍋だ」
もちろん味噌も妖狐の里製だ。俺は信州味噌が好きなんだが、蓬莱流はしっかりした豆味噌だ。
「うーむ。網にかかっても捨ててしまう、か様な小魚が、この様に芳しい鍋物になるとは…。貴方は高名な料理人の方ですか?」
「そんな大層なもんじゃないさ。俺の郷の家庭料理だ」
「旦那の故郷はどちらで?」
「大分遠いところさ。ところでこの島は本当にレムリアっていうのかい」
「島じゃなくて大陸ですって」
「ごめんごめん。レムリア大陸に間違いないですか?」
「はい、間違いないです」
どうも話が噛み合わない。
「君は、いや名前は何とおっしゃるのですか?」
「私はこの町の鍛冶屋組合を束ねるドクと申します。こちらはグランピー、ハッピー、スリーピー、バッシュフル、スニージー、ドーピー。そう言えばお名前をお聞きしていませんでした。最初犬人が何処かで狩って来た珍獣だとばかり思い」
「これは失礼しました。俺は旅行家のウラナ。妻のオコと俺の師匠の魔術師ノヅリ先生だ」
「旅行家と言う職業があるのですか?初めてお聞きしました。さぞかしゴンドワナ大陸の隅々まで旅されたのでしょうな」
「ゴンドワナ?失礼ですが、レムリアとゴンドワナと、大陸は他にありますか?」
「西のアトランティスと東のムーは、どちらも海に沈みました。私達はムーから来たのです」
あの役所で、俺がこれから行く来世はレムリアと言うのだと、お姉さんから教えられた。
その時俺は、レムリアは現在の地球の大陸が別れる前に、一つに固まった状態の大陸の名だと思った。
だが実はそれは記憶違いだった事を、後から思い出した。
歳はとりたくないものだ。
大陸移動説で有名な一つに固まった古代大陸名は
ゴンドワナ。
レムリアは大西洋のアトランティス、太平洋のムーと並ぶ、インド洋にあった。と言われる沈んだ大陸名だ。
レムリア様なのか、その前の転生の役所なのかははっきりしないが、人や物の名前を決める時に俺の前世の記憶を元にしている気がする。例えばさっきの七人のドワーフの名前は、多分白雪姫の相棒達だが、そんな名前俺は覚えちゃいない。例の夢の国に行った時にでも見ていたのだろう。本人はすっかり忘れていても、一度は記憶したものなら、ほじくり出してくる様だ。
一方俺がしっかり記憶したものは、間違っていてもそのまま出てくる事もある。多分脳内で固有名詞が翻訳される時に、色々複雑な変換作業があるのだろう。
最近では言葉の暗示するものを探して楽しむ様になってきた。
そう言う訳で、この島が彼らにとってはレムリアで、俺たちの知っているレムリアがゴンドワナ。と言う事らしい。
ややこしい事極まりない。
「そうすると、俺は君の知ってるゴンドワナから来た事になるな」
「伝説とばかり思っていましたが、ゴンドワナにはまだ人間が住んでいるのですね。てっきりシバヤンに滅ぼされたとばかり思っていました」
何だって?
「シバヤンって言った?」
「知らないんですか?彼の大魔王ですよ」
グランピーが部屋に入って来た。いつも怒った様な顔をしているが、話してみるといい奴だ。
「ネゴロス様が面会されるそうだ」
このネゴロスと言う名前から、俺は昨日から正体当てゲームを密かに楽しんでいた。
根来?忍者か?まさかね。
ロード・オブ・リングスにレゴラスと言うエルフが出てきたので、エルフかも知れないな。
ドワーフが出てきて、犬を犬人と間違えた。と言う事は、ここは逆さまの国かも知れない。
人間以外の種族が栄え、人間が滅んだ世界。外のゴンドワナではなく、この島をレムリアと呼んでいる。
そしてシバヤンが大魔王。これは若くして最愛の妻を失い、荒れに荒れていた頃のシバヤンなら、相応しい称号だろう。
「シバヤンが大魔王なら、ヴァルガは何なのよ!」
随分我慢してくれていたが、パーサの作り主を悪く言われて、オコはもう我慢出来なかったようだ。
「シーっ!大神の真名を口にする事は禁じられています。貴女のおっしゃる世界の上に輝きわたる大神さま(御代とこしえに!)は、我らレムリア大陸の民に常に慈愛の心をお示し下さっております」
逆さまだからヴァルガが神なのか。
「ではネゴロス様の執務室へお通り下さい。くれぐれも先程の様な不躾な行いをなさいません様に。ネゴロス様は、そう言った行いを取り締まる立場の方ですゆえ」
ドクにお礼を言って、ドアをノックする。
「入れ」
直裁な男の声。
「失礼します」
俺たちが入って行くと、
執務用デスクの椅子に、忍び装束のエルフが座っていた。




