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7-19.パトニカトルの決意

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


7-19.パトニカトルの決意


「ああ、よく来たんだよ。ウラナさん御一行と見知らぬ異国の神」

パトニカトルは相変わらず一杯やって上機嫌だ。

「お初にお目にかかります。ナイラスの神アヌビスと申します。パトニカトル様は父オシリスや女神ハトホルと知己であった。とお聞きしています」

「別の名前だったけどねえ。オシリスさんがビールを発見し、ハトホルさんが作り始めた時、お手伝いしたよ。ハトホルさんは大酒飲みだったから、よく飲み比べした」

ハトホルは太陽神ラーの娘で、ラーが人類を滅ぼすために地上に送ったが、ラーはその事を後悔して酒の作り方を人々に教え、人々は

「赤いビール」

をハトホルに捧げたので、ハトホルは酔い潰れて人類抹殺計画を忘れる。と言うグビ姉の元祖みたいな女神である。

怒ると怖いが、滅茶苦茶美人らしく、オシリス始め多くの神々と浮き名を流したと言う。

あれ?アヌビスとも…。これはパーサには内緒にしておこう。


「世界最古の神パトニカトル様にお会いできて光栄です」

「いやいや最古は言い過ぎなんだよ。レムリア様から比べれば、赤子みたいなものなんだよ」

それはそうだがレムリア神は誰も見た事がないし、誰の問いにも答えない。実際に会える神々の中では酒神パトニカトルは最古で、レムリア各地で様々な名で呼ばれている。

「ああ、そう言えばアヌビスさんが大氷原の民を蘇生させてくれたんだってねえ。皇帝から聞いているよ。ありがとうね。あの人達がヤクスチランを去るのを残念に思っていたんだよ」

大氷原の民は元々メープル朝と言うヤクスチラン皇族だったので、パトニカトルも心配していたのだろう。


「実はパトニカトル様が、我々には未知の大陸のヤクスチラン帝国神界にお住まいという事が、先日ペンジク神のシバヤンの耳に入りました。その知らせはバクロンや大東にも伝わり、ぜひ久しぶりに知己を深めたい。と言う願いが、私どもに殺到しまして」

「それは厄介だねえ。おいらはもう昔の面倒事はこりごりなんだよ。オリビア山にも、二度と行きたくないんだよ」

つまり、ヤクスチランから出たくない。と言う事だろう。パトニカトルは世捨て神なのだ。最古の神と言う栄誉を捨て、酒の力で政治を操ろうとする怪しげな信徒教団からも袂を分かって、この地に隠遁したと言う。


「アヌビスさん、あんただって酒の上で出来た子。とか言われて、嫌な思いしてたんだろ?おいらは楽しくお酒を飲んで欲しいだけなのに…」

酒の上の過ちは、全部酒の神のせいにされる。それが嫌で、ヤクスチランでは邪悪な土着の神々の下で馬鹿にされながら暮らしていたという。

「馬鹿者の方が悪者よりましだからねえ。そしてそこのウラナさんのおかげで、馬鹿者と言う人もいなくなった。だからおいらの幸福を壊さないで欲しいんだよ。懐かしい神々が会いに来るのは構わないけど、おいらはどこにも行きたくないんだよ」

悲しい生い立ちをズバリ指摘されて、アヌビスも共感したようだ。だがアヌビスに即答する権限はない。

「持ち帰り検討(サークルバック)します」


「よしなになんだよ。それからね」

パトニカトルの形相が変わった。

「ヤクスチランと大氷原の民は私の愛する子供達。この地を蹂躙するものあれば、私は全レムリアの眷族を引き上げる。と諸神、諸王に伝えよ!」

まるで別人のような威厳だ。

『眷族って?』

俺は師匠に念話で聞く。

『酵母菌だ』

それは困るだろうなあ。発酵と腐敗は紙一重。酒が出来ずに腐った汁が出来る訳だ。

俺は某アニメの、菌が全身にくっついた酒屋の爺さんを思い出した。


「なんちゃって。さあ難しい話は済んだ。再会とし初対面を祝して、宴会だよ」

侍女たちが山海の珍味を運ぶ。パトニカトルはとっておきのワインを開ける。

みんな大いに飲み、騒いでいる中で、

おや?社長が黄昏てるぞ。

「あたしは利益ばかりを考えて、ヤクスチランや大氷原の事を考えてなかった」

武力ばかりでなく、経済力でも大国とヤクスチランでは比較にならない差がある。

特に経済戦争は目に見えないだけに厄介だ。


俺は生前高校生の時、愛媛の親戚を訪れた事がある。

朝テレビのローカル番組で

「もう直ぐ完成!本四架橋」

と言う特集をやっていて、愛媛の人々の悲願。と言う感じで、大歓迎の報道だった。

しかしその後数十年たって訪れた街は、シャッターの閉じた商店街。親戚の商売も畳んでいた。

橋が出来たら、皆対岸の広島県に買い物に行ってしまい、地元産業は大打撃を受けた。

曲がりなりにも地方都市として栄えていた地元が完全に本州資本に負けたのだ。


「俺がヤクスチランを訪れたのは、『この地を開国せよ』とのレムリア神の導きだと思っていたんです。でもこのままレムリア諸国とヤクスチランが自由に行き来出来る様にして、本当にいいのか…。レムリア神は俺にどうしろと言うのだろう」

俺にも落ち込みが伝染した。

「占ってみるかい?」

師匠が懐から2匹の子猫を出す。

いつもそこで飼っとるんかい!

白猫のアルテミスと黒猫のルナがクルクル回り出す。

そして2匹が融合してパリンと割れて…


「北西か」

やっぱり行くしかなさそうだな。マウイヤ島に。

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