7-16.隕石
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
7-16.隕石
不幸中の幸いだが、村人達は全員外に出ていた。歩行訓練と虫干しを兼ねて、イグルーとトマレが地上に連れ出していたので、その場に踞って怪我人は居なかった。
地下壕も天井は無事だったが、入り口が崩れて入れなくなっていたので、俺たちで修復した。
アヌビスは一人一人診察したが、びっくりしてお婆さんが一人転んだ以外は無事だった様だ。
アヌビスは引き続き診療したい(まだミイラから人に完全蘇生していないので、俺たちの治癒魔法は役に立たない)と言う事で、俺たちは再度隕石落下の現場に戻った。
先程は舞い上がった氷片と砂塵で煙幕の様だったが、大分収まっている。
比較的小さな隕石の落下だった様だ。
直径20m程の穴が開き、氷の層が無くなって地表が露出していた。
一般にクレーターの直径は隕石の10倍だそうである。
だから前世のメキシコ、ユカタン半島に約6600万年に落ちた。と言われる隕石、と言うより直径16kmの小惑星は直径160km程のクレーターを作り、舞い上がった砂塵が大気圏で太陽光を遮り、気温が急激に下がって恐竜絶滅の原因になったと言われている。植物が育たない→草食恐竜が絶滅→肉食恐竜も絶滅。と言うわけだ。
「アルマゲドン」
と言う映画が結構好きだったが(特にリブ・タイラー)、地球を破壊する規模の天体が衝突。となれば、核ミサイルを打ち込んだ位では何の役にも立たない。
話が脱線したが、件の隕石だか何だかの落下物。クレーターの中心まで降りてみると、実に漫画的な光景が広がっていた。
「足だねー」
「足だーまなだよー」
誰にも解って貰えない(当たり前)
ちなみにみんなが魔王を探し始めるので、起き抜けに
「朝だーまおー!」
と叫ぶのは自粛している。
漫画的光景。地面から足が二本生えている。
しかし長い。3m位あるなあ。人間じゃない。
魔王か?
やがて足がユラユラ揺れ始め、交差すると、
クルッと腰を捻って、ドリルの逆回転の様に体がせり上がって行く。
スポンと全体が抜け、バンザイをした女の子が飛び出して来た。
女の子と言っていいのか?
身長6m以上あるよなあ。
錐の様に地面に食い込んだだけあって、体の凹凸は余りない。顔も細長く目鼻らしいものはあるが、口はない。全体は銀色で、やはり銀色のミニスカートを穿いており、よくある宇宙人みたいだ。
しかし、これってアレだよなあ。
「なにこれ?」
オコが呟く。
「なにこれって、これはアレだがね。ナナちゃんだがね」
やっぱり。
「だからなによナナちゃんって」
「ナナちゃんはナンバーズの七娘だがね」
え?このでかいのが?
俺はシバヤンの神殿で、
「ナンバーズ勢ぞろいでお出迎え」
と言うのを何回か見たが、こんなデカブツは居なかったぞ。
「たりみゃあだわ。これはモビルスーツ。これを使うのがナナちゃんの特技だて」
最初見た時サンディのデカさに驚いたが、あれもモビルスーツと言うか着ぐるみだったな。
この子もそう言う能力をシバヤンから貰って居るのか。
やがてキャンプ用エアマットの空気が抜ける様に体が縮み始め、パーサ達と同じメイド服姿の少女が出てきた。
間違いない。ナンバーズだ。外観はパーサと余り違わない。顔もよく似ている。
ただ髪が、金髪縦ロールだ。
「ナナちゃん、髪染めやーたの?でら似合うがね」
「あらパービーちゃん、ご機嫌よう。シバヤン様が、個性が大切。とおっしゃいまして」
そう言うキャラがこの子に割り当てられたわけね。
「パービーちゃん」
「ププッ」
オコとステルが笑い転げている。
おそらく八娘だからパーちゃん。パーサはクローンだからパーBなんだろう。
オコとステルを睨みつけたパーサが
「そんで何しに来やーたの。こんなどえらけにゃあ大穴開かしてまって」
「ごめん遊ばせ。ちょっと用事で宇宙空間にいたものだから、速度が付き過ぎて、軟着陸に失敗したのですわ。誰もお怪我がない場所を選んだのですけれど」
宇宙空間で何の仕事を?
「アシになんかよう?」
七娘だから姉の筈だが、特に遠慮はない。そう言えば五娘にも最速王をかけたライバル心はあるが、姉とは思ってない様だった。
製作年代が近いのかな?
二娘の事は姉と思っている様だが、なんか偉そうにしている。二娘の方は歳の離れた妹の生意気に
「はいはい」
と従って可愛いがってる感じ。
一娘様(パーサがこう言うので俺たちもうつった)にはまだ面識がないが別格な感じで、サンディのみならずシバヤン宮全体の宮宰だし、パーサ達が生まれた時初等教育を施しているので、パーサ達には母の様な存在だ。ナンバーズの中ではパーサが一番最後に生まれ(クローン分裂)ており、一娘を尊敬しているみたいだ。
「用と言うか、貴女の遠隔装置が故障しているので、様子を見て来いと言われたのですわ」
「誰に」
ヤバイな。
「サンディ様にですわ。シバヤン様は"ほっとけ"とおっしゃったのですけど、サンディ様が心配されて、内緒で」
首の皮一枚。ってやつかな?
「サンディさんにお伝えください。近々パーサを連れて必ず修理に伺います。パーサの事は俺が責任持ちますと」
「わかりましたわ。近々修理に来られる由。そしてパービーの事はメグル殿が責任持って妻に迎えると」
「「違う!」」
「それな!」
「違うってパービー!」
パービーパービークスクスとオコとステルがまた笑い転げている。成功だ。重婚問題でまたオコと揉めたくない。
「もう、パービー言うなてナナちゃん!」
「あら?」
七娘の胸のペンダントが赤くピコピコ点滅している。
「もう時間がありませんわ。宇宙に戻らねば」
カラータイマーか!
しかし七娘が地上に落ちてから、3分どころか3時間は経ってるぞ。
巨大スーツ姿に変身した七娘は、確かにあのM78星雲から来た人にも似ていた。
「シュワッチ!」
とは言わなかったが、飛び立つ態勢になってから一度止まった七娘は、俺の方を振り向いた。
「忘れてましたわ。シバヤン様からの伝言です」
バレてたか?と思って緊張した俺に
「彼奴は人間を待っている」
と言う謎の言葉を残して、七娘は飛び去った。




