7-13.救出と準備
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
7-13.救出と準備
タロとジロはこの村の橇犬のリーダーで、兄弟だ。
深い裂け目に落ちて、一体どうやって脱出出来たか?
と言うと、他の犬達が運動会の組体操みたいに犬ピラミッドを作って、そこを駆け上がったタロとジロがなんとか地表を掴んで這い上がったとか。
他の犬ではそんな体力がないので、人間に救出を頼むように託されたらしい。その後も氷原熊(普通のバージョン)と遭遇したり、結構危険な目に遭いながら数日掛かって辿りついたと言う。
一緒に裂け目に落ちた魚がかなりあって、すぐ餓死はしない様だが、だんだん裂け目に海水が浸水してきている様だ。
「急ごう!」
俺たちはステルに乗ってパーサの後を追う。
大氷原の橇犬は、目印になる目標が殆どないので、本能的なGPSの様な能力を持っている。帰巣本能の進化したものだが、この二頭はリーダー犬だけに、特に優秀だった。パーサはそのデータを直接脳に取り込んでいた。こいつ有能だなぁ。
最高速で走るパーサを、ステルが俺たちを乗せて追尾する。
海上でもこれが出来たら簡単だが、確かにパーサが全速力で走った後は、雪かきした線路みたいに削れて行く。
これでは海氷は割れるな。
3時間で海岸に辿りついた。確かにでかい氷山がぶつかっている。大氷原白熊を封じた塚を壊したのも、こんな氷山だったのだろう。
見渡すと、幾つも海岸に氷山が押し寄せてぶつかっていた。
「ここだて。犬の匂いがする。生きとるで」
着陸したステルから降りたパーサが言う。
海岸部の地盤は地震で不安定になっており、大規模な魔法を使うと、地割れが塞がる可能性がある。と俺と師匠の意見は一致した。
「一本釣りやな」
パーサがアヌビスのまま地割れに飛び込む。
ステルが先程着陸した時に、かなり地揺れがしたので、ステルの力は借りられない。
結局全員でロープをそろそろと引っ張った。
縛り付けられた犬が一頭ずつ上がって来る。
慎重にまたロープを下ろし、これを繰り返して結局24頭が上がって来た。
最後に人型のパーサが、4匹の仔犬を抱いて上がって来た。先に上がって来た母犬が駆け寄って乳を飲ませる。どうも下でお産があったらしい。
「ちょっと我慢しやあよ」
マジックポーチから大きな天幕を出し、犬達を乱暴に放り込んで即席の袋を作る。
ワンワンキャンキャン言っていたが、パーサが一声吠えると大人しくなった。
勿論仔犬達は輿の中だ。
行きはパーサの最高速に付き合ったので、低空飛行で俺たちも輿に入るまでも無かったが、
帰りは仔犬がいるので俺とオコとコンコンは輿に入った。
師匠と社長はワイバーンを呼び寄せて、後から追いかけると言う。
天幕の袋を掴んだステルは、そこそこのスピードを出し、帰りは2時間で到着した。
天幕を解くと、犬たちが転げ出て来た。流石にフラフラしている。イグルーが駆け寄って、介抱したり餌や水をやったりしている。
タロとジロも心配そうに犬たちの様子を見ていたが、やがてみんな元気になると全員俺たちのところに来て
「伏せ」
の姿勢になった。仔犬も真似している。
「感謝して、メグルさに忠誠を誓っとるんだがね」
イグルーも跪いている。
「これで回復した村人たちに美味しい魚やアザラシを食べさせる事が出来ます。犬たちは好きにお使い下さい。ありがとうございました」
これで橇犬の件は解決だ。
後は橇を調達しなければならない。
イグルーに相談すると、速度を上げるなら一人乗りの競技橇が良いとの事。
「まだ人が多かった頃はお祭りでレースがあったらしいですが、荷物が余り積めない競技橇は使われなくなりました。まだ倉庫に一台くらいあるかもしれませんよ」
見に行ってみると、壊れた橇が放置されていた。
「よく乾いた流木を使って軽く作るので、レース中に壊れる事がよくあり、それもレースの醍醐味だったそうです」
俺はこの橇をヤクスチランまで運んで、馬車職人に弓を作る丈夫な木で3台作って貰った。
この後ヤクスチランの一番南の大氷原に近い所で、貴族や裕福な市民が橇遊びをするのが流行したらしい。
試走は上手くいき、俺とオコと師匠は犬たちとの連携をイグルーに教えて貰った。タロとジロ、その息子達が先頭になり、二列ずつ計6頭。もう少し大きな橇だと8頭立てが多いらしいが、軽量でスピード重視の競技橇は6頭立てが普通だそうだ。
計18頭。残りの8頭は老犬や授乳期の母犬もいるが、イグルーの狩猟・運搬用橇の為に残しておける。
前に小荷物を置くスペースがあり、子猫と子狐と小ワタリガラスが収まる。その後ろに俺とオコと師匠が立つわけだ。競技の時はマッシャーと呼ばれる乗り手と前に置く荷物の合計で、橇の重量を同じにしてレースしたそうだ。
パーサは犬達より少し早く"歩いて"、行き先の氷の状態を確認する。
ステルも一緒に行きたがったが、中型への変身でも結構体重があるので断念した。悔しがったステルは、成人猫モードを研究中らしい。
とにかく少し橇を浮かせて走るだけでも、飛行体とみなされ結界の餌食になる可能性があるので、犬達の筋力に頼るしか無いのだ。
基本訓練に一週間くらいかかったが、だんだん港が氷に包まれてきたので、海上でも訓練した。
皇帝が視察に来て試乗したり、橇の修理でヤクスチランヘ行ったりしているうちに、村人達も回復して来て、包帯グルグル巻きのまま歩きまわる様になった。
なんかミイラ男(女もいるが)全国大会みたいな有様だ。イグルーと、無傷に近かったトマレが甲斐甲斐しく世話をしている。
面倒だからと包帯を取りたがる村人もいたが、
「完全に傷が治り切らないと傷だらけの身体になる」
とイグルーに言われ、我慢していた。
そうこうしている間にアヌビス先生の往診日が来た。




