7-12.タロとジロは生きていた
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
7-12.タロとジロは生きていた
前から時々思うが、パーサってもしかしてシバヤンじゃなくて、レムリア様が作ったんじゃないか?と感じる時がある。パーサは完全自立型のオートマタだが、一応現在の主人である俺の指示で色々やってくれる。だが先乗りの偵察任務では、俺の判断を確認していては間に合わない時がある。そんな時、自己判断で一番俺の利益になりそうな行動を取る。これはコンコンにもオコにも出来ない。
以前三元さんの祠の村付近で、大東の大軍が同士討ち状態(ただし丸腰)になりへたばっている時に、この異常行動をとった軍隊を足止めする必要があると判断し、体内電気を使って、全員を行動不能にした事がある。
「逃がさん様にだがね」
と涼しい顔をしていたが、結果的に赤心と言う幹部の裏切りを遅らせ、そのあぶり出しに成功している。
この時点でこの大軍が何者かも、味方が誰で裏切り者が誰かも不明だったのに、結果的にいい方に導いている。
なので俺はパーサの行動を束縛しない。
「もしお前の勝手な行動で俺たちが窮地になったらどうする?」
「絶対ぇあそー言う事はにゃあて」
「だが万一?」
「そう言う時は切腹だがね」
まあ腹切ってもパーサは死なないけどね。
とにかくそれぐらいの覚悟で動いているので、俺も覚悟を決めて信頼しいる。
だが、今回ばかりは
「ラッキーな偶然だなあ」
とは言えない後味の悪さを感じる。
考え過ぎかも知れない。しかし俺の生涯が一編の演劇だったとして
「デウス・エクス・マキナ」
がパーサだった。と言う設定はあり得るのではないか。デウスはギリシャ語で神。マキナは機械だ。劇中主人公が絶対絶命のピンチになった時に、まるで機械仕掛けの様に突如神が現れ、問題を解決する。と言うギリシャ演劇の手法から来ているらしいが、予め定められた様に運命を動かして行く登場人物を指す様になった。
この世界で運命を司っているのは、どうやらレムリア様と呼ばれる創造神で、この意思には誰も逆らえないし、誰の願いも叶えない。誰も話した事がないし、姿も見た事がない。これは人間も神々も同じだ。
もしレムリア様が俺に何かをさせたいとして、そのお膳立てをパーサにさせたいなら、シバヤンの遠隔監視が邪魔ならば遠慮なく断ち切るだろう。
「頭、痛くない?パーサちゃん、大丈夫?」
ステル(人型)が優しくパーサの頭を撫でる。
「でやぁじょうぶ。ありがとね」
「もう、本当にパーサはおっちょこちょいなんだから。気を付けなさいよ」
オコは全然何も疑わない。こう言う所が大好きだ。
「うんそだね」
どっちかと言うとオコの方が失敗が多いが、パーサも家事ではドジっ子メイドな時があり、ちょっとあざとい演出じゃないかとも思う時もあるが、これもオコは疑ってない。
大好きだ。
「まあ好都合…いやこっちの話やけど、通信が切れて、大旦那様は心配しはらんのかいな?」
「シバヤンさも四六時中監視しとる訳じゃにゃあでよ。基本はほったらかしだて。あと、他所に預けとりゃあす二娘姉さんには監視付けてにゃあ。聖狐天様の動向をスパイするのは協定違反だでな」
独立神の聖狐天には、ペンジク、大東、バクロンからそれぞれ二娘、先先先代妖狐、シャミラムが派遣されているが、聖狐天を自陣営に誘導する事とスパイ活動する事は禁止と合意されているらしい。
「もしメグルさが正式に文殊菩薩を名乗りゃあたら、アシのドラレコも外してまえるでよ」
いやそう言う事は考えてないし、シバヤンに見られて困る事はしてないから(今までは)。
ここはパーサの機械仕掛けの神機能を信じて、今までの経緯と、作戦を打ち明ける事にした。
「そう言う事かね。残念だけんど、ムーの事もマウリア島の事もアシらの既存記憶装置には焼きこまれてにゃあわ。ナンバーズではアクセスできすか」
ナンバーズは作られる時、共通の知識を事前に刷り込まれる。各国の歴史だとか文化だとか言語だとか。だからパー子もペンジクの大商人の娘パナを演じる事が出来たのだが、神々と同程度の知識を得る訳ではないらしい。
「制限付」
なのだそうだ。
「まあシバヤンさにはシバヤンさの考えで封印してござるに違いにゃあでなあ。でも今の主人はメグルさだで、アシは無許可で上陸もいいと思うがね」
いいのか?そんな簡単で。
俺は社長の利益の為に動く気はないが、封印を解いたりせずにヤクスチラン←→ペンジク航路を確立する事は、文明の進歩に意義があると念う。特にヤクスチランにとっては、一気にではなく一部を開いて徐々に交易が始まる事は、大国の植民地化を防ぐ効果もあるだろう。
何よりもパーサの怪我に、運命の意思を感じる。ゲームで言えばフラグが立ったのだ。
「荒れる海のせいで船では辿りつけないし、空からは結界にぼよよんと撥ね返される」
ステルが嬉しそうな顔をした。
「だが島に行っては行けないと言う禁忌はない。はず」
「行けるもんなら行ってみろ。って言うなら行ってやろうじゃないの」
オコは意気軒昂だ。まあ俺たちはいつもフラグ立てられて、そこに懸命に立ち向かって来た。
嫌いじゃないよ。そう言うの。
「メグルさ、これ渡しとくで」
ポンと手渡された二個の玉。
「え?これ…」
「目ん玉だがね。怪我した時取れてまって」
どんな大事故だよ。強化オルコン製の頭蓋じゃ無かったか?
「今普通のスペア目玉が入れたる。シバヤンさが遠隔で自己修復コマンド使うかも知れんで、これメグルさのスペシャルマジックポーチに入れといて」
時間の停止するあの中なら、シバヤンの遠隔操作も届くまい。
「よーしそれじゃまず橇を作るか!」
「橇?船じゃにゃあて?」
「海の凍結を待って犬橇で行く」
「犬は居るの?」
「そこはパーサに」
「ステルも引くよ!」
「それは無理やな。ステルやパーサでは蹴る力が強すぎて氷が割れてまいますがな」
多頭数の犬で引くしかないのか。しかし俺、オコ、コンコン、ステル、パーサ、師匠、社長か。ステルとパーサは犬橇の速度に合わせて
「歩く」
として、社長が子ワタリカラス姿でコンコンが子狐なので大人3人。
大型の橇が必要だろう。
「いつ溶け出すかわからへん氷を、魔法で補強しながらの旅や。そんなに急いでは走れへんで」
かなり沢山の引き犬が要るなあ。
大氷原村の橇犬は、大白熊が襲った時に村長が鎖を解き放ったと言う。食われてしまったのか、一頭も戻って来ていない。いずれヤクスチランから仔犬を貰ってくる。とイグルーは言っていた。
「皆さーん、いいニュースです!」
イグルーが二頭の犬を連れてきた。
「タロとジロが帰って来ました」
なんだこの都合のいい展開。
でも二頭だけなのか。
「ちょっと待っとりゃあ」
パーサがアヌビスの姿に変身し、二頭に近寄る。
3頭はグルグル回って匂いを嗅ぎあったり、尻尾を振ったりしていたが、やがてパーサはメイド姿に戻った。
「方言がきつくてコミュニケーションに手こずってまった。みんなで海岸に避難する途中、氷山が衝突して来て、地割れに落ちてまったらしい。タロとジロだけがなんとか脱出できたんだと」
あれから随分日にちが経っているので、他の犬の命が危ない。




