Xデー(1)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-24.Xデー(1)
朝食前に式の司がやって来た。儀式全体を取り仕切る重要な役で、今回の即位通過儀礼全体に目を配り、かなりお疲れのご様子だ。会社で言えばそれ程役職は高くないが、"宴会幹事ならあの人"みたいな人柄の中間管理職タイプである。
「侍女達をこちらにお回し頂き、誠に有難うございました」
「役に立つのですか?」
「やはり若い娘さんが係員をしてくださると、儀式に華を添えます。特にあのベンガニーと言う娘は役に立ちます。次は何をしたらいいか、これはどういう仕組みか、言わなくても聞いてきて、仕事を自分で作ってこなしています。全て記録に残している様で、あれは将来式の部署につきたいのかと」
そりゃそうだろう。後で儀式の様子を作品にきっちり再現しようとしているから。就活ではないと思うよ。
「それで主上。発火石は本当にご用意しなくてよろしいのですか?」
あの好色ボン以来、通例になってしまった派手な炎や爆発音を起こす素材である。
「構いません。薪や燃える水で、通常の橋に届くまでの炎で結構です」
「しかし…。それではいささか見劣りがしますぞ。修行とはいえ、1000人の前で行う顕行ですから」
一般信徒がこの行を見学する事は無いが、前例のないほど優秀なボンの即位とあって、僧のみならず宮殿で働くほぼ全員が見届ける事を希望してしまった。追加の観覧席を設けたり司は大忙しで、それだけに盛大にしたいのだろう。
「心配をかけてしまったね。皆をびっくりさせたかったのだが。絶対に秘密にしてくれますか?」
俺はあえて14歳の少年らしさを出して、イタズラっぽく笑った。
「秘密は厳守いたしますが」
「実は私は、光、火、風魔法にちょっと詳しくてね」
「高名な魔法の老師が太刀打ち出来ないと伺っています」
「そう言うものを綜合して、ちょっと綺麗な爆発と色取り取りの火花をお見せしようと思っているんですよ」
「それは楽しみでございます。ですがそれ程の威力では、主上の御身が危険なのではございませんか?」
「だからこれらの魔法を仕込んだ護符を、橋の中央で行の決め句を叫んだ後に、後ろに向かって投げ入れて、悠々歩いて渡り切るつもりです」
決めの文句は"サーフ・カラニ・ヴァラ・マン(心頭滅却)!"と、決まっている。
「なるほど、主上の歩まれる後から素晴らしい光と炎の祝福が上がる訳ですな」
司はボンを見直した。勉強の出来る、真面目で誠実なだけの子供と思っていたが、どうして大演出家としての才能がある。政治には民に解りやすいツボ(演出)が大切だ。
「あと秘密と言いましたが、ベンガニーには教えていいです。どうせゲヘナの薪の組み方からなにから、知りたがるだろうから、"こんなにショボいんですか?"とか煩く聞いて来るに決まっているからね」
司は、主上はベンガニーの性格を分かっておられ、好意的に育てようとされているのだな。と感心した。
(しかし何の事はない。これは式の司を守る為である。ゲヘナ装置の薪・燃える水の量、井桁の組み方。発火石は使わなかった事。これらはベンガニーなら必ず資料として詳細に記載するに決まっているので、司に落ち度がなかった事の証拠となる)
式の司は、ちょっと元気になって帰って行った。
俺の計画では、
誤って橋から俺たちは墜落、
と見せかけてイリュージョンの護符と身がわりの骨を落とす。
爆発と激しい火花に大混乱の会場から、木の葉隠れの術で脱出。
そのまま宮殿を出る。
と言う段取りな訳だ。
いよいよ当日。
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