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7-3.トマレ

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


7-3.トマレ


修復は難航している様だ。イグルーもアヌビスも地下壕の様子は見せてくれないので、予定の3日を過ぎても終わらない理由はわからないが、どうも足りないパーツがあるらしい。

パーサが慌ただしく大氷原に飛び出して行っては何かの包みをアヌビスに届けたりが、何回もあった。

イグルーが疲れた顔で地下壕から出てきた。

「大丈夫ですか?」

「トマレが見つからないのです」

トマレと言うのは一番歳が若い少女で、大白熊が襲ってきた時比較的早く姿を消していたそうだ。

「大白熊は丸ごと飲み込むという事はしないので、断片でも残っているはずなのですが…」

俺は、戦争の被害者の様に傷を負って亡くなった死体が、何人も並んでいる様子を想像していたが、考えてみれば大白熊は腹も減れば喰うだろうし断片みたいになってたのだろう。それを丁寧に集めてきたイグルーの心情は察するに余りある。しかもそれをなんとか繋ぎ合せて配置してあった。アヌビスはさらにきれいに接合して行った。


父親のオシリスが叔父のセトに殺された時(これはオシリスが悪いのだが)、セトは兄の復活を恐れてオシリスの体をバラバラにして河に捨てた。息子のアヌビスはその断片を拾い集めてミイラにし、父オシリスを復活させた。

なのでナイラスにミイラ師は多いが、バラバラの死体をミイラにできるのは、神ナイラスだけだ。

「私は哀れにもトマレは完全に細かく噛み砕かれてしまい、集めた破片の中にいるのだと思っていました。でもアヌビス様の精密な作業の中で、他の村人の遺体は8割方修復が終わり、足りない所をパーサさんが探してくれたのですが、トマレの体は全く見い出せなかったのです」

アヌビス化したパーサの鋭敏な嗅覚でも見つからなかったそうだ。

「どうやって探したんだ」

「そら血の匂いがするとこを掘っただがや」

おかげで他の村人のご遺体は80%以上集まり、イマー様の認める復活の条件を満たしている。残りは大白熊が食ってしまったのだろう。という事だった。


「何か、そのトマレちゃんの持ち物とか、ありますか?その子は血を流さなかったかも知れないので」

ステルが進みでる。

そうか!レムリア最高峰からダガムリアルを探し出したのはステル(当時ラン子)だった。

イグルーが、小さなコートを持ってきた。

「こんな小さなお子が…」

涙もろいコンコンが涙ぐんでいる。

クンクン嗅いだステルが、鳥ジャガーに変身して、ホバリング状態から一気に上空に舞い上がる。

なんだこの運動性能。しばらくしてステルは、ある方向に一直線に飛んで行った。

「凄いですね」

イグルーが感に堪えぬ様に呟いた。

大氷原の民の中にも鳥ジャガーの事は言い伝えられているそうで、空の王者と讃えられているらしい。

間違いなく父母を完全に超えたな、ステル。


「見つけたよー、お風呂の用意してー」

遠くから声がして、ステルが飛んできた。

ほっぺたが膨らんでいる。

着陸して、口の中から少女を吐き出す。

「冷たくなってる。お風呂に入れてあげて。生きてるよ」

ステルがいう。傷を付けず、保温を考えて、口の中に収めて飛んで来たらしい。ナイス判断だ。

「あー不味かった」

おい。

「冗談だよ。食べてないから」

俺が真顔なので、ステルが心配して言った。

わかってるよ。冗談言う様になったんだ。

それが嬉しいんだよ、大きくなったんだなあ。

少女に戻ったステルを抱きしめそうになり、オコの視線に気づく。なんだよ。父娘の愛の表現じゃないか。

「「「怪しい」」」

「あはは怪しいあるじ!」

ステルが喜んでいる。


トマレをお風呂に入れ(もちろん俺は追放されている)、清潔な衣類に着替えさせる。

「心臓は動いているし呼吸もしてるけど、意識が戻らないなあ」

「眠ってるの?」

「魂が抜けている感じかな?」

魂が冥界に行っていれば、心臓も止まるだろう。

「ステル、トマレちゃんはどこで見つけたの?」

「どこって、雪の下だよ。うつ伏せで」

普通その状態では助からないだろう。凍死体か?

「息はしてなかった。でも心臓が動いてたので、急いで口に入れて運んで来た」

仮死状態か。危ない所で体が温められ、息も吹き返したのか?


「とにかくマッサージを続けていきましょう」

氷の家に作った救急ベッドに横たえて、室温を上げる。

夜になってもトマレは意識を取り戻さなかった。

「これは長丁場になりそうだね。交代で体を温めましょう」

「メグルさ、エロい事しちゃだめだで」

いや俺はロリコンじゃねえし。

まあ服は着ているので、全員公平に当番を決めた。


で、深夜俺の番が来たのだが

「あの気候で屋外の雪の下で何日も。それでも心臓が動いてるって、おかしいでしょうが」

他に誰もいない病室で、俺はトマレに話しかける。

「仕方ないなあ」

トマレの目がぱちっと開いた。

まだ体はうまく動かせないようだ。

「イマー様との交渉は上手く行ったんですか?」

「うむ。村人の魂は全員冥界に達しておったわ。イマー様は、アヌビスによる修復が6割以上成功すれば、魂を返して復活ができると仰せられた」

余裕でクリアーだな。


「なるほど。それで修復を待っておられたと」

「あの馬鹿者が、記録の神殿で享楽にうつつを抜かしておるので、わしは冥界から戻って何か器を探さねばならんかった。ちょうどこの娘の死体があったので、上級回復魔術で、体だけは蘇生して、中で待機しておったのじゃ」

「なぜあなたがこちらに?」

「魂が戻るには現世に術師が居なければならない。泉の巫女たちの場合はパトニカトルがその役を果たしておったがな。簡単に言えば縁者でなければ難しいのじゃ」

だからマーリンはイグルーに体を貸せ。と言ったのか。


「で、これからどうするつもりで?」

「とりあえずこの娘に化けて」

「いや無理でしょう。イグルーはこの子が小さい時から一緒に暮らしています。ばれますよ」

「いやそれでは、召喚が難しいぞ」

「大丈夫ですよ。もうあなたの本性は俺たちはわかってます。今トマレの体に乗り移ってる事がわかっても、出て行け。とは言いませんよ

「ふん、わしの何がわかったというのじゃ」

「マーリンは初恋の思い出を大切にする優しい人だという事を」

「やめろー!お前、言葉の呪で、今わしを縛ったな!油断ならぬ奴じゃ!」


まあそういう事にしておこう。素直じゃない爺さんだ。

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