6-35.襲来
※第6部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
未婚のまま聖狐天の父となる。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。メグルとの結婚と子作りを夢見ている。弱者の味方で直情的。未婚のまま聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。メグルをあるじと慕う優しい幼女。第6章でついに進化を遂げる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
◯その他の主な登場人(神)
マーリン…大魔法使い。メグルに人間の代表を押し付けた。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥人。オルフェを拾って育てた師匠で女社長。
オルフェ…コリナンクリンの部下。元ヤクスチラン王子。
神官…通行者を記録するガタイのいい漆黒の神官。
イグルー…村長の孫。メープル朝の末裔。
パトニカル…ヤクスチランの主神。酒の神。
マヌカ・ケペックIII世…神聖ヤクスチラン帝国皇帝。
カヌレ…防衛隊長。
ジュラミン…大臣。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
6-35.襲来
「陛下、どうなさいましたか?」
「ちょっと狩りに行くぞ、付き合ってくれ」
「狩りに?獲物は何を?」
「でかい奴だぜ。ちょっとお爺様の弓を持って来てくれ」
カヌレは首を捻りながら宝物庫から巨大な弩を持って来た。
「お手伝いします。陛下ではとても一人ではお引きになれないかと」
「馬鹿にすんなよな!」
皇帝は弩を逆に床に立て、そのままぐいっと弦を弾いた。
「恐れ入りました」
「馬を引け!」
「して狩りはどちらに?」
「西の国境だ。友達が待っている」
俺たちは西の国境で大白熊を待つ事にした。
「ウラナ殿でしたか?」
カヌレが叫ぶ。
「これは鳥ジャガー王殿ではないか。今日は共に力を合わせて狩りを成就しようぞ」
凛々しい皇帝の姿であった。
『なんでわざわざ嘲笑られている言葉を使うのか?』
カヌレは不審に思ったが、巨大な弩を肩に担ぎ、いつもと違い背筋をピンと伸ばした皇帝の姿に、笑う者はここにはいなかった。
まあ俺たちは、中身がマーリンのおっさんである事はわかってたけどね。
「凄い弩弓ね。引くの大変でしょう?」
オコが興味を持ったようだ。
「姫君の弓こそ、誰も弾けなさそうな強弓ではないか。弩は引くのに足も使えるが、そちらは腕力が要りそうだね」
「あら嫌ですわ。私はオコ。そこのウラナの連れ合いですのよ」
なんかオコのテンションが変だ。
「私の父の弓は折れてしまった…」
「カヌレ!こちらの姫君に弓を!」
「ハッ!」
皇帝のテンションも変だ。そう言えば最初にイグルーを見たとき、占い師は
「サッカルム!」
と叫んでいたなぁ。伝説の王女に似ているのか?
カヌレが弱目の女性でも使えそうな弓を持って来たが、イグルーは満月の様に引き絞ってしまった。
「この弓では分厚いアザラシの皮下脂肪を貫けない」
屈強な兵士用の弓を持って来てようやく気に入った様だ。
どうも俺が出会う女性達は俺より屈強な人ばかりだな。
社長はコートの内側にズラリと仕込んだクナイと言われる手裏剣を手入れしている。
「空から援護するわよ」
師匠と俺は魔術の打ち合わせだ。勿論俺は支援系。師匠は足止めの攻撃魔法。
今回の獲物はあくまでもイグルーと皇帝に仕留めて貰う。オコにも止めを刺さない様言っておく。
「あしは力勝負もいいけど、ちょっとでか過ぎるで、猟犬の役やるで」
コンコンは大白熊の周囲に結界を張り、泉の神が遠隔で干渉しない様に結界を維持する。
「ランこは何したらいい?」
「進化前の不安定な体だ。今回は帯に入っていてね」
ラン子は不服そうだが俺は大白熊が倒れた場合、泉の神がラン子に入る事を狙う事を恐れていた。体調が不安定な獣は悪霊に憑かれやすいのだ。
「これだけ戦力が揃えば、シロクマの一匹や二匹、ヘッチャラだよね」
オコそれってフラグじゃないの?考え過ぎかなあ。
考え過ぎじゃ無かった。
五頭の大白熊がこちらに向かって来る。
「ふ増えてんじゃん。こりゃまずいな」
「ウラナ殿落ち着け。あれはまやかしだ」
皇帝が呼ばわる。
師匠が術を掛けると、4頭がキラキラ光り出す。
氷人形か。雪だるまみたいなものだな。驚かせやがって。
「邪魔だから始末しとくね」
オコが4本の矢を纏めてつがえて難なく氷人形を破砕する。大白熊の家来だったのか、穴熊が4頭逃げて行く。あれが核だったのか。
「さて後は真打やな」
コンコンがすっぽりと結界を被せる。これで大白熊の動きを止める事は出来ないが、息苦しそうだ。
このまま酸素を吸いだして、窒息させる事も出来るんだな。しかしそれではイグルーや皇帝の出番がない。
「バウバウバウバウ」
パーサが吠え立てながら大白熊の進路を真っ直ぐにする。
大白熊はその長い前足を振り回すが、パーサには当たらない。普通の犬であればそれでも皮膚を切り裂かれるだろうが、シバヤン製はそんなにヤワではない。
背中に社長のクナイが数十本刺さる
「効かんな」
とでも言いそうな熊だったが、背中に刺さった金属片に師匠が落雷を落とす。
「ぎゃあ〜っ!」
これは効いた様だ。慌てて大白熊は後退しようとするが、最近開発した俺様の拘束魔法で足を捉える。女性になぜか評判の悪い、ウネウネ触手だ。まあ5分は保つだろう。
「さあ両君、止めを」
引き絞った弓から、二本の矢が放たれる。一日で回復すると言う大白熊対策として、鏃には長年暗殺者だらけのバクロンで魔法省長官として戦って来たノヅリ師匠が、敵から取り上げた即効性の毒のうち最悪のやつが塗ってある。
矢はヒイフッとぞ飛んで、過たず大白熊の両眼を射抜いた。大白熊は悲鳴をあげる間も無くドウと倒れる。
既に頭の上半分が溶け始めている。
「最低に卑怯な武器だなあ」
「凄いだろ?良かったら作り方教えてあげようか?」
「結構です」
師匠を敵に回すのは止めようと思った。
「お二人の最初の共同作業やなあ」
コンコンが囃すと、オコとパーサの目がキラッと光る。ここにベンガニーがいたら大喜びだろう。
皇帝は勿論満更でもないのだが、イグルーも頬を赤らめている。
いや駄目だ考え直せイグルー、相手はアラフォーの引きこもりのおっさんだぞ!
後で聞いた話だが、皇帝マヌカ・ケペックIII世はイグルーの父に似ているそうだ。
ファザコンかよ!
「さて皆の者。では黒幕退治に参ろうか」
デレていた皇帝が、真顔になって告げる。




