6-30.ヤクスチラン入国
※第6部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
未婚のまま聖狐天の父となる。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。メグルとの結婚と子作りを夢見ている。弱者の味方で直情的。未婚のまま聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。メグルをあるじと慕う優しい幼女。第6章でついに進化を遂げる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
◯その他の主な登場人(神)
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥人。オルフェを拾って育てた師匠で女社長。
アヌビス…ナイラスの神。
神官…通行者を記録するガタイのいい漆黒の神官。
イグルー…村長の孫。メープル朝の末裔。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
6-30.ヤクスチラン入国
確かに知り合いにそんな奴は一人しかいないが。
トラブルに口を突っ込んでくる事といい、やり方が中途半端(悪しき神を一体しか退治していない)な事といい、なんか奴っぽいなあ。
「とにかくヤクスチランに行って、皇帝に会おう」
「その前に、その怪物はどこにいるの?」
「村を破壊した後、ヤクスチランに向かいました」
「それはいつの事?」
「3日前です」
「熊が魔法でも使わない限り、まだ間に合うな」
輿は2人しか乗れないので、オコがワタリガラスコプターに乗り、俺とイグルーが先に行く事にした。
「この人が触ったりしたら、後で私に言い付けるのよ」
これは訳さずにいたら、社長が通訳しやがった。
「大丈夫です。ウラナ様は良い神様なので」
流石にこの状況で変な気持ちにはならんぞ。マスクの下が凄い美少女だったけど、
「結界の中暑いです」
と外套を脱いだら、凄い薄着だった。としてもだ。
輿の中で少し話をした。
ヤクスチランとは国交がないが、商人がたまに来て交易をしている事。大氷原にも一応四季があり、比較的暖かい北海岸では夏には地表が一部解け、野草や苔を収穫して乾燥させて、冬場に湯で戻して食材にする事。家畜はヤクルというトナカイみたいな(想像)のを飼っていたが、全部白熊食われた事。燃料は乾燥させたヤクルの糞と流木。と言う事だった。
グリーンランドくらいの感じかな?
「でももうその暮らしも終わりです」
家畜も村人もいない。
「大氷原には他に人はいないの?」
「会った事ないです。西からは人は来れないし、東のヤクスチラン人でわざわざ来るのは商人くらいで」
そう言えばオルフェがどうやって大氷原に来たのか?どの辺で社長に助けられたか、聞いていなかったなあ。
「もうすぐ到着だで」
人型のパーサが叫ぶ。社長、オコ、師匠の三人は速度が出ないワタリガラスコプターで飛んでいるので、半日程到着が遅れるだろう。
「神殿広場が見えてきた。前回はあそこに着陸しようとしたら、矢が沢山飛んで来たんだ」
「敵なのですか?」
「ちょっとした誤解だったのさ」
と、思い出し笑いしていたら、いきなり
「わっ!矢が飛んで来た!しかも本物の鏃がついてるぞ!」
前回は伝説の神と思われての儀礼的な弓射で、鏃には変な人形がついていたが、今回は黒曜石の鋭利な鏃だ。
結界を張り、矢を弾きながら着陸する。
大勢の槍兵が、ラン子の周りを囲んだ。
「災いめ、おとなしく縛に就け!」
隊長が叫ぶ。
「俺たちは災いなどではない。むしろ災いの接近を告げに来た。皇帝ヤクスチランIII世に謁見したい」
「馬鹿を言え!占い師殿が大氷原から災いが来る。と告げられたのだ。おまえたちは大氷原の方から来た」
「その占い師は災いは空を飛んで来る。と言ったのですか?」
「それは…。ええい屁理屈を申すな!」
「ここは一旦撤退した方がええで。下手に相手に怪我させたら、面倒な事になるし。社長が来るまで待った方がええ」
コンコンが囁く。俺も同感だ。社長ならばヤクスチランワインの取引で付き合いのある有力者もいるだろう。
だがイグルーが動いた。
「私、大氷原の村、村長の孫イグルー。皇帝に話がある」
イグルーが懐から古いペンダントを取り出す。
「ちょ、ちょっと待て」
伝令が駆けて行った。
「イグルー、商人以外に付き合いがあるのか?」
「ない。だけど私は、いにしえのメープル朝の末裔。この首飾りはその証」
なんだか知らないが、水戸黄門の印籠の様な効き目だ。土下座こそしないが、兵たちが槍を向けなくなった。
1時間程で伝令が戻って来た。
「大臣閣下が明日お取り調べになる。ここから離れるなよ」
隊長はそう告げて、部下たちに野営を命じる。神殿周辺には宿泊出来る建物はないので、兵士はテントを張り始める。
「じゃあ俺たちも用意するか」
パーサに手伝って貰って、マジックバッグから天幕を取り出す。3人と2匹には少し大きめだな。
「オコがいないので、簡単なものしか作れないが、焼いた肉でいいか?」
「焼いた肉。夏のご馳走」
冬は燃料節約(と多分ビタミン補給)の為、生肉を食べるそうだ。
「エスキモー(生肉を食う奴ら)」
とはカナダの先住民が、差別して言った名前だそうだが、野菜の取れない冬場に生肉を食べるのは、栄養学的に合理的だそうだ。
まあ世界的に寿司ブームになる前は、日本人も
「生魚を食う奴ら」
と言われていたわけだが。
今日は黄金のタレ風味にしよう。まあ勝手に前世の記憶で調合しただけだが、オコには大変評判がいい。
肉の焼けるいい匂いが漂うと、あちこちから堅いパンを咥えた兵士たちがわらわら集まってじっと見ている。よだれ出てるぞ。
「肉、喰うかい?」
「「「「「「「「隊長殿ぉ〜っ!」」」」」」」」
隊長がやって来た。兵と同じパンを食べようとしていたところの様だ。兵より良いものを食べてないのは、なかなか立派な隊長だな。
「肉は沢山あります。よろしければ一緒に食べませんか?」
「だが私は君たちを災い扱いした」
「気にしませんよ。間違えられたのは二度目なので慣れました」
「二度目とは?」
「鳥ジャガー」
「おお!」
と隊長は驚いたが、周りの兵たちは爆笑だ。
「た、隊長。ひひっひー。こんな最新のギャグが言えるのは悪い人たちじゃあありませんぜ」
兵隊の一人が笑いをこらえながら言う。
俺、なんか面白い事言いましたっけ?




