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6-22.アヌビス(1)

転生したら転生してないの俺だけだった

〜レムリア大陸放浪記〜


6-22.アヌビス(1)


「よくぞ参った。ナイラスの正統王よ。軍事革命が起き、王朝が倒されたと聞いて、もうこの儀式は不要になったかと思っていたぞ」

荘厳な口調が似合わない感じの細身の青年だった。いやまだ少年と言った方がいいかも知れない。

頭はアヌビスだ。

「では継承認定の儀式を執り行う。サスル」

「はい」

「我、ナイラスの大地の主神代行者アヌビスは、汝サスル・プトマス・サンディリアをナイラス王プトマス95世として認む」

「ありがとうございます。国王の重責を果たせる様不惜身命努力します」

なんか横綱任命みたいだ。

「ではプトマスよ。下がって汝の忠実な部下と共にラースに帰りなさい。あの者も短期とは言えナイラスを背負ったのだから、父王と共に労わる様に」

ほう、軍事政権を正当に評価してるんだな。麻薬漬けの先王が治め続けていては、タンランが死ななくても早晩ナイラスは滅んでいただろう。

サスルは帰って行った。ちゃんと帰りは地下鉄の小さめの駅みたいに、下りエスカレーターになっていた。


「さて」

アヌビスの頭部が人間の顔に変わった。サスルに似た細面で、後頭部の長いナイラス人独特の頭部だ。

「君たちは聖狐天の関係者に、マーリンの後継者。ワタリガラスの獣神か。凄い豪華メンバーだなあ」

あれ?何で知ってるの?

「アヌビスさんって、今起きたばかりじゃないんですか?」

相変わらずのオコの直球だ。

「寝てられないよお。ナイラス人は鎖国してたって死ぬからね」

アヌビスはミイラの神だから、死者がちゃんと正しくミイラになるか監視する仕事がある。

「おや?君は聖狐天ちゃんのお母さんか。オリビアの会議で、本物に逢えるのを楽しみにしてるんだ」

アヌビスは懐から聖狐天の神像(フィギュア)を取り出す。ここにも隠れファンが。

「このフィギュアはマルブの教会で求めた物なんだ。おや!貴方はウラナさんじゃありませんか?まさかこんな所で、原型師の方にお会い出来るなんて!拙者感激ですぞ」

なんだこのフレンドリーオタク。口調はノヅリ師匠に近いんだけど、師匠は引きこもりオタク系だ。

「なんか失礼な事考えてるだろ。ナイラス殿はレムリアの諸国に行かれるのですか?」

「ナイリンでいいよん、ノヅッチ。休みが取れればね。たまに冥界からマァトが来て代わってくれる時にふらっと旅行するんだ」


「マァトさんって、彼女さんですか?」

相変わらずオコは容赦ない。だが、今回はパーサは話に乗ってこない。やっぱり緊張してるんだな。いつ断罪の手が来るか。

「そんなズケズケ聞くもんやおまへんえ」

「いいんだよ聖狐天ちゃんちのおばさん。マァトとはそう言う関係になりたいなとは思ってるけど、大事なビジネスパートナーのお嬢さんだからね。僕でも慎重になるよ」

マァトは太陽神ラーの娘で、冥界で冥王オシリスを手伝っている。正義の神と言う位置付けで、オシリス殺しのセト神の冥界裁判も担当した。セトは悪神だが、父ラーの命の恩人と言う側面もあり、彼女の尽力でオシリスとセトの兄弟は和解出来た。中々有能なキャリアウーマンなのだ。


「おばさん…」

コンコンはまだこだわっていたが、アヌビスには全く他意はない。子供が20歳の女性を"おばちゃん"と言う様なものだ。

「僕はねえ。小さい時からセトに追いかけられて、イシスお母さんの元に預けられて、色々転々として。知らない人と仲良くする癖がついてるんだけど、いざ生涯の伴侶を決めるとなると、躊躇してしまうんだよ。特に太陽さんの社長さんに嫌われたら仕事貰えないからねえ」

なんか分かるなあ。親が転勤が多くて、転校する度にまず方言を覚えて、相手に合わせて、と言うのを繰り返してた友人がそんな感じだった。アヌビスって、産んだだけで殆ど会っていないネフティスよりも、育ててくれたイシスを母と思ってるんだな。


「いっしょうけんめいおねがいしたら、マァトさんのおとうさんもゆるしてくれるとおもうの」

「お嬢ちゃんはいい子だね。天帝さんとサンディさんの眷族の子か。おやおや?お嬢ちゃん。ちょっとお腹を見せてご覧?」

事案だ!大人たちは血相変えて、メルなどは真っ赤になってグラムを抜こうとしている。

「落ち着いて、元暴風の魔女さん。変な意味じゃないよ。グラム抜けないでしょ?」

本当にこの神は、毎朝トーストとべーコンエッグをコーヒーで流し込む時に"神界タイムス"に隅から隅まで目を通している様に(いや神界タイムスなんてないけど)、神界の事情通なんだな。


疑う事を知らないラン子が、ころりと寝転んでお腹をを見せると、アヌビスは優しくラン子のお腹を撫でた。

「ほらこれこれ。ここ見てよ」

みんなが覗き込むと、確かに。

「縞が消えてる」

「消えてるだけやない。消えたところに斑点が」

「やっぱりヤクスチランに行かないと」

「そうだね」

「ヤクスチランか。ワインの産地だよね。僕も一度行きたいな。行ったらデュオニソスによろしくね」

デュオニソスはギリシャ神話の酒の神で、パトニカトルの事だ。あの酒の神はレムリア諸国で、最古の神の一人に数えられている。

ナイラス図書館の古い文献に、ヤクスチランのワインが上質なのはデュオニソスがいるから。とあるらしい。

レムリア各地ではヤクスチランワインは大変高価だが、それは運ぶ方法がないためで、実は貴重なワインを運び、大儲けしているのはクリン社長の会社だ。


読者の皆さんはもうなぜラン子に斑点が出てくるとヤクスチランに行かなければならないか、もうお判りだと思う。メグル達が初めて彼の地に足を踏み入れた時の話である。


「さて、ここにいる皆との話は済んだ。後はいよいよ本題であるが」

アヌビスの体が数倍大きくなり、頭が犬科の動物のものになった。


「そこの自動人形(オートマタ)。こちらに来よ」


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