決行前々日
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
1-21.決行前々日
翌朝、ヨウコは朝早くから水汲みに出かけた。厨にある一番大きな甕(人の背ほどの高さ)に全部水を満たすのだそうだ。
「ご精が出るねえ」
「新しい体が思う様に動かない。これ位しないと慣れない。」と汗を拭きながら答える。しかし
「週末ハイキングコース。キャラバンシューズ以上必要。初心者用と言っても遭難する事もありますので、山を舐めないで下さい」くらいはある急坂である。一体何回往復すれば、一杯になるのか?
「昼までには終わるでしょう。それにね」
とヨウコは一つ呪を解く。背中に背負った大きな麻製のズタ袋が現れる。
「練習でもあるの」
「大したものだ。しかし凄い汗だな」
額の汗を拭いてやる。
「沢山着てるからね」
腹に長い布を巻きつけ、胸は別の晒で押さえつけている。それでも隠せない大きさに、侍女軍団は決定的にテンションが上がり、母乳が!とか大騒ぎしている。
「いよいよ秒読みだな」
「ゲヘナの支度が始まったわよ」
ゲヘナは地獄の業火。祈りの炎(護摩壇)は普段は祈祷所に設けられるが、ボンや修行僧の為に期間限定で火が焚かれる。初代ボンは火山の火口を渡って火渡りの修行を行ったが、それを模した修行をする為の施設である。
直径20m、深さ10m程の穴の底で盛大に火を燃やし、儀式の時は西方の燃える水を用いて、地表に届く炎を上げる。円の中心に細い橋が渡してあり、ここを経を唱えながら歩いて渡るのだが、修行するに相応しくない者は炎に飲み込まれる。と言われている。
「もう一度、複合魔術のイメージトレーニングをしておこう」
俺は秘密の部屋に篭った。
昼餉の時間になり自室に戻ると、ヨウコが盆を持って現れた。
「もう終わったのか?」
「楽勝よ。それよりちょっと暑い。脱いでいい?」
眷族への転魂以来、遠慮がなくなっている。開き直ったみたいだが、あまりあけすけだと困惑する。もちろん結界は張ってあり、侍女たちが来る事はないが。
「お前…もうちょっと慎みというものをだな」
「いいじゃん。先先代と一緒に、生娘かどうかまで確認したんでしょ。今更」
「見てねえよ!」
「なんかまだ、自分の体って自覚がないのよねえ」
ジョウザには湯に浸かる習慣はない。竃風呂で汗を流し、ヘチマタワシの様なもの(多分同じもの)でゴシゴシ擦ってから水をかける。これが沐浴だ。
昨夜からは念には念を入れ沐浴所は使わず、俺が初級の水魔法で頭から水をかけ、風魔法で乾かすだけにしている。
見なくてもこの程度の魔法は使えるからな!
「あー気持ちい。ちょっと背中掻いて」「背中だけだぞ。前は絶対見ないからな」
俺はお尻も見ない様に手探りで背中を掻いた。
「晒で巻くとおっぱい潰れちゃって…可哀想だわ。肩も凝るし、大きいの羨ましいかったけど、苦労もあるのね」
おい、両手で持ってこっちに見せようとするのやめろ!
「ここが汗かくのよね。知らなかったわ」
だからもうちょっと慎みを…。
「あーあ、俺が見慣れると、お前の体に飽きちゃうかもなあ…」
慌てて布を巻き始めた。
天使役の14歳の俺が
「見ちゃえよ。見せたがってるじゃん」
と誘惑する悪魔役の前世の俺に勝った。
前世の14歳の俺は見たいばっかりだったのになぁ。真面目な奴…。
旅に出たらブラジャーみたいの探すか。加齢で垂れて来たら困るもんな。
俺が。
いよいよあと 二日
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