6-20.ネゴシエーターの旅立ち
※第6部の主な登場人物
◯旅の仲間
メグル(ウラナ)…主人公。元ボン76世(未)。旅行家志望。生真面目な15歳と結構浮気症な66歳が同居している。"国民的英雄"に加え、"改革者"の称号を獲得。更にマーリンから"人類の代表"を押し付けられる。
未婚のまま聖狐天の父となる。
オコ…メグルの婚約者。自称妻の元妖狐。メグルとの結婚と子作りを夢見ている。弱者の味方で直情的。未婚のまま聖狐天の母となる。
コンコン…先先代妖狐。子狐と伎芸天女の童女に憑依できる。
ラン子…翼獅子。ラン(獅子)とヘレン(白虎)のライガー。メグルをあるじと慕う優しい幼女。第6章でついに進化を遂げる。
パーサ…元八娘2号。シバヤンから譲渡され、メグルの侍女となった名古屋弁美少女。諜報活動に大活躍。自称第二夫人。大型肉食獣アヌビスに変身出来る。
◯その他の主な登場人(神)
聖子ちゃん…メグルがシバヤン達やダガムリアルの協力で作った聖狐天。
メル…元暴風の魔女メルハバ。剣士メル・ファとして、聖狐天を守る。
先先先代妖狐…鼎尾の銀狐。後見として聖狐天に仕える。
二娘…ナンバーズの一人。武神として聖狐天を守り、メルに剣を指導する。
シャミラム…元モヘンジョの北風の巫女。宮宰として聖狐天に仕える。
ノヅリ…バクロン第3王子。魔法省長官を辞し魔法修行の旅に出る。メグルの師匠。
シバヤン…南レムリア最高神の一人。
コリナンクリン…ワタリガラスの鳥人。オルフェを拾って育てた師匠で女社長。
サスル大尉…ナイラスの軍人。後に国王。
カライ大佐…ナイラス軍人政権の指導者。
プトマス94世…失脚したナイラス王。サスルの父。
アヌビス…ナイラスの神。
トト…進化猫。未来予知学教授。
ルナ…トトの子。未進化猫。ノヅリの飼猫になる。
アルテミス…トトの子。未進化猫。ノヅリの飼猫になる。
タクライ…トトの妻。ルナとアルテミスの母。
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
6-20.ネゴシエーターの旅立ち
嫌なこった。と言いたいところだが、ここでわざわざシバヤンがナイラスに行くわけにはいくまい。
最古代文明を誇るナイラスからしてみればペンジクの神々など子供扱い。しかし現状ペンジク神界は、大東、バクロンと共に三大勢力と言っていい。
プライドがぶつかり合って、例の四年に一度のオリビア山の会議以外、神々が顔を合わせる事はない。しかも鎖国以来、ナイラス勢は顔を出さなかった。
「メグルさ、頼むわ代わりに行ったってちょ」
シバヤンが去った後、パーサが拝む様に言った。
どうも意識がシバヤンと入れ替わっている間、向こうでパトゥニーから散々頼まれたらしい。
シバヤンは昔オリビア山に来ていたアヌビスの美しい走りに魅了されて、速く走る獣と言うとアヌビスしか思い付かなかったそうだ。
信者である人間の都合で鎖国して、その副作用で冬眠状態だったのをメグルが解いたのだから、謝るの下手なシバヤンが行くより、俺が言った方が感謝を感じて許してくれるのではないか?
との事だった。
そんなに上手く行くかなあ…。
とにかく急遽明日のヤクスチラン出立は取りやめになった。
天帝に
『ラン子の進化はこちらに任せて貰う』
事を認めさせるために、コンコンはワタリガラスコプターで大東に向かった。途中で白虎が迎えに来るはずだ。白虎からもやんわりと(児童虐待だもんね。母としては言いたい事もあるだろう)言って貰おう。結果的には、前述した様にコンコンの名演技もあって一件落着した。
さて俺とパーサとオコは新国王サスルの元に行った。
「国王は、神界に渡る方法をご存知ですか?」
俺たちは事情を説明した。
「私は神々にお会いした事はまだありませんが、父ならば」
前王はまだ引退旅行に行ってなかったので、すぐ来てくれた。だが格好はすっかり釣り師だ。
「神界に行く?わしも若い頃に一度即位の挨拶に行ったきりで、その後鎖国になってしまったからなあ。良ければサスルを挨拶に連れて行ってくれんか?」
「それは構いませんが(却って有利かも)」
「ナイラス川の中域にアプベル神殿と言うのがあってな。そこに神界に行ける門があったはずじゃ」
「父上、アプベルは」
「砂に埋もれて居ろうな」
発掘には時間がかかる。俺の頭の中にはモヘンジョの夕陽が浮かんできた。
「ナイラスの魔術師で、風魔法に秀でた方はおられますか?」
「どのくらいの?」
「毎秒1500t程の砂を吹き飛ばすくらい」
「前はカクト殿が風の使い手であったが、亡くなられてからは」
「僕も舞い上がった砂を運ぶのは出来るけど、吹き飛ばすのはそんなに一度には無理だな」
当然俺も師匠の術を盗んでいるので、同じだ。
「オコ、聖子ちゃんに連絡取れる?」
「出来るわよ。誰を連れて来れば良いの?」
「北風の巫女シャミラム」
結局聖狐天ファミリー全員が来てしまった。
「パパ、ママ!」
と飛びついて来ると思えば、今回は威厳を持って現れた。
「こ、この方々は!」
ナイラスは鎖国していたので、聖狐天信仰は入って来ていない。
「初めまして、独立系神の聖狐天と申します」
この時の思い出を、サスルことプトマス95世は回顧録にこう記している
「余が幼き頃より信心して来たナイラスの神は、正しい者に幸せを。悪しき者には天罰を与える厳正な神々であった。しかしこの時見た聖狐天様は慈愛に溢れた女神様で、余がナイラス王で無ければ、そのまま信者になりたいと思う程だった」
その後ナイラスにも聖狐天教会が出来、国王も訪れる事があったと言う。
さて、シャミラムの同行は承諾された。聖子ちゃんはじめ他のメンバーも行く気満々だったのだが、俺が止めた
「ナイラスとペンジクの争い事に、中立の聖狐天が出て行っても役に立たないよ。もう少し実績つけてからじゃなきゃ。今巻き込まれるのはまずい」
同時に天帝と繋がりが深いサンコンと、シバヤン眷族の二娘にも遠慮して貰った。
一応シャミラムのボディガードとして、メルが付いて行く事になった。
こうして、俺、オコ、ラン子、パーサ、の4人と
師匠と社長(クリン社長は結局師匠を許したが、その代わりもう離れない♡と言った)、
サスルと護衛の役をかって出たカライ退役大佐。
本来王一人でアプベル神殿に参らねばならない決まりだそうだが、軍事政権が解散した直後で世情が物騒と言う事で、神殿の入り口まで付きそう事になった。元々気心の知れた上司と部下(サスル大尉)なのだ。
そしてシャミラムと護衛のメル。
メルハバの大暴れは鎖国中の事なので、王もカライも恐れはなかった。
船に乗ってラースを発つ。
ラースは地下都市になる前は元々ナイラス川の河口近くにあった町で、川の中心に文明の発祥の地があり、そこに残されているのがアプベルの神殿だ。
「ウラナくん。船に乗っている間に、ナイラスの神々についておさらいをしておこうか」
師匠が話し出す。
「王様、カライさん、間違ってたら訂正してね」
➖➖➖以下師匠の話➖➖➖
「古代ナイラスには大きく分けて三柱の神があった」
「太陽の神ラーと、天空の女神ヌトと大地の神ゲブ。ヌトとゲブは夫婦で、間にオシリス、イシス、セト、ネフティスといった子供達が生まれ、オシリスとイシス。セトとネフティスは兄妹で結婚していた」
オコ「げっ!」
俺「しっ!兄妹婚はナイラスの伝統だ」
オコ「サスルも妹さんと結婚するの?」
サスル「私の婚約者は大佐の姪御さんですが、結婚前に父と養子縁組みして、妹という事にします」
「だがネフティスが本当に好きだったのは長兄のオシリスだった。ネフティスはあの手この手でオシリスを誘惑し、ついに酒を飲ませて一線を超えた」
オコ、パーサ「「おお!」」
好きだねえそう言うベンガニーロマンスの不倫もの。
待てよ?オコまさか?
「ばーか。私はあんたの浮気の方が心配よ」
「兄弟の間は不和になり、結局セトはオシリスを殺し、四人は地上を去って冥界に行き、オシリスは冥王となります。他にも色々神々がいてごちゃごちゃするんだけど、大雑把に言ってこう言う流れ」
王「大体そんな感じですね。王朝も七回変わっているので神々も多く、ラーも何度も別の名で呼ばれています。アプベルに都があった頃はアモンでした」
「そしていよいよ今回に関係ある所だけど、オシリスとネフティスの不倫の子がアヌビスで、セトの怒りを恐れてイシスが匿って育てていた」
オコ「寝取られたのにイシスって親切ね」
俺「イシスとネフティスは仲の良い姉妹だったらしい」
オコ「二人でオシリスお兄ちゃんを想ってたのね」
パーサ「ちょっとセト君が可哀想だがや。兄貴と何かと比べられとったんだろう?嫁まで寝取られてまって」
ラン子「オシリスにいちゃんもてもて。いけめん?」
俺「まあ頭は鳥だけどね」
「で、オシリスが殺された時、アヌビスはバラバラにされた父の死体を集めてミイラにして冥界に復活させた。オシリスは冥王になり、イシスと共に冥界を治めた。イマー神の化身の一つだ」
俺「大東やペンジクでは閻魔。醍醐教では地蔵菩薩だね」
「アヌビスはミイラ作りの神となり、ナイラス人はミイラとなって埋葬される。また冥界で天秤を使って死者の心臓が羽毛より重かったら地獄行きと言う無茶振り裁判の手伝いをしている」
パーサ「地上と冥界を行き来するだで、足が速ゃあ犬科なんきゃ?」
王「心臓と言うのは例えで本当は霊魂なんですよ。0gの物なのに悪い事すると重くなると言う」
「太陽神ラーは地上にオシリス兄妹が居なくなったので、アヌビスをビジネスパートナーにしている。ナイラスの未来予知学ではラーを陽、アヌビスを陰として未来を占う」
そこ!オコとパーサ!カップリングしなくてよろしい。
「つまり、こう言う不義の子で、実の父を義父に殺されて、葬儀屋さんで、冥界の裁判所補佐官で、ラーの仕事仲間。こう言う神の所に会いに行くんだよ。我々は」




