54-19.戦象がいなくてよかった。
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
54-19.戦象がいなくてよかった。
この古代ギリシャの戦闘で、有名な戦術がある。
論理は簡単で
「敵より長いファランクスを用意する」
と言うもの。
兵の実力が互角であれば、正面衝突で縦列が長い方が最後に生き残る道理だ。
生き残った部隊は、他の部隊の後ろに付けば、さらに列が長くなる。
こういう非情な戦法は当時から批判もあったが、戦術としては正しい。
最前列の兵は死ぬ事が確定しているので、どんな気持ちだったのだろうか?
兵士の戦意を鼓舞して戦わせる司令官は、絶対この事実を兵に知らせず戦わせる事が必要になる。
「ただこの軍の弱みは自在に動けないところだ」
「あやつられてるから?」
ステルが訊く。
「小津の様なきめ細かい傀儡魔法ではなく、横一線『行け~っ!』で激突するだけだ」
有名な某異世界転生アニメでは主人公が前世の聞き齧り知識で
「ファランクス突撃ぃ~っ!」
と横一線に突っ込んでいて、椅子から転げ落ちたが(※イメージです。"新婚さんいらっしゃい"の桂三枝のイメージで)、そんなマンパワー・スキル頼りの戦闘だ。
「でもその先は白兵戦になるわね」
とオコが言う。
「そうなるね」
「じゃあ、意識のある人間の勝ちじゃない?」
「だからこそのシミュレーションだろうな」
「なるほど。筋肉に記憶させるわけですね」
とメルファ。
戦闘では反射神経が勝負を決める。
二娘の訓練では、繰り返し型を体に覚え込ませることに多くの時間を割いてきた。
「その通りだね。意識のない木偶人形でも筋肉が覚えていれば、結構手強い相手になる」
師匠が頷く。
もちろん熟練の戦士なら倒すのはわけないが、味方と敵の比が100:10000なら遂には倒されてしまう。
結局この豚伯爵のやり方はいわゆる
「人海戦術」
と言うやつで、軍師と言われる戦術家の最も嫌う馬鹿馬鹿しいやり方だが、広々とした平原では威力を発揮する。
なので前世のペルシャ帝国では大いに威力を発揮した。
この突撃作戦では、中には象を導入した戦術もあった。
だがアフリカに生息するアフリカ象は気性が荒く、使役には適さない。
カルタゴのハンニバルがアルプスを超えてローマに攻め込んだ第二次ポエニ戦争でハンニバルが連れて行った象部隊39頭は殆どがアフリカ象で、あまり細かい作戦は立てられなかったと思われる。
結局ハンニバルの象部隊はアルプス越えの寒さとローマ側の耕作地や村を焼き払って退却する作戦で餌が乏しく、ほとんど役に立たなかった。
一方で、インド象が生息する東南アジアでは戦象は実用化されタイのアユタヤ王国では
「象に乗った王子」
が敵を打ち負かし、後に国王に即位する物語が語り注がれている。
レムリア世界では、朱雀国と大東の国境付近にはそれほど広い平地はなく、狭隘な山道を通って盆地に入る様な戦場が多かったので、仮に象を使う様な戦術があったとしても、よく訓練されたインド象でなければ使い物にならなかっただろう。
つまり偽大東禁軍の、横一線に突っ込む戦術は、あまり訓練ができないアフリカ象の
「行っけぇ〜っ!」
みたいな戦法みたいなものだ。
言ってみれば倶利伽羅峠で木曾義仲が夜間に牛の角に松明をつけて突っ込ませたみたいなもので(兵士の兵隊も怖かったが牛も怖かったろう)、お利口な戦術とは言えないので、あまり怖くない。
やはり敵の主力は天使兵だ。
もしドロシのあの傀儡魔法の瞬間無力化が自在に打てる様になれば、全然怖くない。
まだその方法は見出されていないので、ガチンコでぶつかるしかないか…。
やはり、なんとかラグナロクが終わる前に、豚伯爵を仕留めておかねば。
(事情により19話も短めです。18話を飛ばしていた(汗)。ご了承ください)




