54-15.北へ
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
54-15.北へ
コウジャンには先代に言われた通り
「もう悪夢を見る事はない」
と告げたが、聡い彼はある程度悟っている様だった。
特に俺たちが北部の大東との国境線を視察したい。と願い出た時には、もう何が起こっているのか確信している様子だった。
「主上が幼少でおわしますゆえ、ここは人代様にお縋りするしかございません。何卒朱雀国をお願いいたします」
と深くお辞儀をした。
その朱雀王だが、まだ卵から孵ってすぐの幼鳥だったが、謁見が叶った。
王はもう籠の中には入っていなかった。
既に本人に朱雀王としての自覚が芽生えており、勝手に飛び去ったりはしないで、玉座代わりの止まり木に止まっている。
「伯父上、わざわざ大義です。此度はまた、コウジャンの頼みをお聞き届けいただき、ありがとうございます」
朱雀王が俺を伯父上と呼ぶのは、俺が前回の功績で朱雀王から
「ガルーダ元帥」
の称号を得ているからで、ガルーダはペンジク神界で紅い翼を持つ神鳥。大東の朱雀と同一視されている鳥なので、敬意を表したのだ。
「コウジャン殿の頼みであればなんでもない事。しばらく見ないうちに、陛下も成長されましたね」
一同、結構驚いていた。
成鳥には及ばずとも、止まり木に止まっていたのは、ポヤポヤの毛に包まれた雛鳥ではなく、まだ華奢だが美しい冠毛を持つ紅色の若い不死鳥だ。
そしてその語り様は、うちの500歳幼児よりも全然しっかりしている。
王は小鳥の囀る様な声で続ける。
「北部に悪い虫が発生している様です。あと二年ほど成長していれば、朕が自ら遠征いたしますが」
「いけません」
とオコが口を開く。
「今度の虫は、常世のものではありません。魔界から来た強力な悪霊と思われますので、陛下の御身が汚れます。私たちにお任せください」
「かたじけない。やはりこの世界の存在ではありませんでしたか。朕は朱雀国の王ですが、天帝神界の四神でもありますので、一度四神会議を開こうと思っております。現世の方は伯父上、いや人代殿にお任せしてもよろしいでしょうか?」
朱雀王の立場は複雑なので、おいそれと現世には干渉できない。
かつてのアンゴルモア大王の朱雀国侵略においても、天帝が不干渉を貫いたので、易々と侵略を許しそうになり、人間である愁艶姉妹の活躍でやっと大東兵を追い返す事ができた事を、前王の記憶を持つ陛下は悔やんでいた。
宮殿を辞し、コウジャンに別れを告げる。
「我々は、敵と思われる悪霊の痕跡を青島に見出しました。もし悪霊に魅入られて裏切った朱雀兵がおりましても、我らが解放したのちは、寛大にお迎えいただければ幸いです」
と、曖昧な表現だけして朱雀の都を出発し、大東との国境地帯に飛んだ。
もう一帯は明らかにおかしな気配が蔓延していた。
とにかくどんよりした曇天。
ところどころに戦闘の跡があり、兵士の死体が転がっている。
折れた幟物は薄黄色。
つまり大東軍だ。
ここで朱雀軍と大東軍の戦闘があったのか?
いや勝ったはずの朱雀軍の兵舎には紅い幟はなかった。
「青い旗?」
青い幟には黒々と
「青龍近衛軍」
の文字。つまり青島の民か?そして旗の方には
「天蓬元帥」
の文字。
「あれはどこの軍だ?」
と俺たちが誰何していると後ろから
「翼院、常念、萍寄…全て朱雀軍の将校です」
「お前たち、朱雀王様の紅旗はどこへやった?」
と声が聞こえる。
振り返ると、軍装に身を包んだ愁艶姉妹だ。
いつもの小妖精の様な姿ではなく、軍の先頭に立ってアンゴルモア大王の軍を追い返した時の、凛々しい姉妹の甲冑姿だった。
「これはただの反乱ではありませんね」
と師匠が言うと、二人は頷く。
「公には大東領青島県の知事の反乱。と言うことにしていますが、既にかの者の兵は、朱雀軍国境防衛隊を飲み込み、大東禁軍と激突」
「両者とも多大な損害を出し、痛み分け状態で一時休戦しております。これは戦争です」
「禁軍が?」
確かに皇帝を表す黄色の旗・幟は大東軍最強の禁軍だけに許される下賜品だった。
それと互角の戦いを繰り広げるとは…。
「青島県知事の名は深海で間違いありませんね?」
と俺が言うと姉妹は
「流石、情報が早いですね」
「今は天蓬元帥と名乗っています」
「やっぱりおかおが、ぶたなの?」
とステルが言うと
「乱心する前は普通の人間でした」
「今は兜を被っていてわかりません。ステル様はなぜ豚だと?」
「だってテンポウゲンスイでしょ?はっかいおじちゃんとおなじなまえだもん」
「なるほど、どこかで聞いた名だと思いました」
「少年孫行者の…」
姉妹が生きている時代にはもちろんベンガニーの小説も、魔光仙女の漫画も無かったので、簡単には連想できなかったらしい。




