54-14.天蓬元帥
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
54-14.天蓬元帥
西欧ではカニカマの事を
「Surimi」
というらしい。
語源はもちろんすり身で、タラ、エソ、その他白身の深海魚などをペースト状にしたのがすり身。
つまりカマボコ、ちくわ、ハンぺんなど練り物の原料である。
余程の高級食材店でない限り、自前ですり身を作るところは少なく、冷凍のすり身をベースに、せいぜい鯛などの高級魚を加えて差別化しているのだ。
ヨーロッパでも蟹は高級食材でその雰囲気を手軽に味わえるカニカマは大歓迎され、サラダや寿司ブームに乗って大事な食材の一つになっている。
賞味期限が短いので当然現地での生産になるわけだが、この時消費者に
「原料は蟹ではありません。魚のSurimiを使っています」
と説明する過程で、この言葉が印象づけられ、カニカマという商品の名と誤解されたままになったらしい。
寿司の事を
「Kome!」
と言う様なもので、変な話なのだが、そうなってしまったのは仕方ない。
なぜこの話から始めたかと言うと、中国人が日本に来て驚くのは日本人が動物の事もその肉の事も
「豚」
と表現することだそうだ。
中国では豚の事は
「猪」
と書き、豚肉も猪肉と書く。
日本では猪肉は本当にジビエになるが。
ちなみに野生の猪の事は逆に
「野豚」
と表すが、十二支の
「亥」
を当てる事もあるようだ。
日本では猪と言うと野生動物の方を連想するが、生物学的には家畜化された猪が豚なので、あまり変わりがない。
これは日本には豚肉を食べる習慣がなく(つまり家畜としての豚はおらず)、中国との貿易のあった沖縄県や九州地方の鹿児島、長崎などでだけ豚が輸入され、明治になると西洋から豚を食べる文化が本州にも入って来たので、動物も肉も豚になったのだ。
あと本格の中華料理店に行ってずらりと並んだお品書きを見て気づくのは、中国では豚肉料理の事を単に
「〇〇肉」
と表現し、牛肉や鶏肉と区別する事。
つまり豚は中国では古代から続く代表的な食材だったことが分かる。
西遊記に登場する人気者の猪八戒は、天界の最有力武官の天蓬元帥が罪を犯して下界に落とされ、豚の子に転生した妖怪で、有力な家に養子に入って主家を潰したりする暴飲暴食のエロ豚妖怪だったが、観音菩薩に教化されて仏門に入り
「八戒を守る誓い」
を立てた事から猪八戒のあだ名がついた。
本当の戒名は猪悟能である。
八戒とは
殺生・盗み・淫行・嘘・飲酒・香水・歌舞・高い寝台に寝ない(床にせんべい布団の意味か?)・正午過ぎたら食事を取らない。
と言う戒律で、肉食は戒めていないが、仏教僧なので原則肉食はしない。
八戒は日本のアニメ等ではしばしば戒律を破って暴飲暴食するが、肉食はしていないはずだ。
西遊記は、実在の唐時代の僧である三蔵法師玄奘が単身天竺に渡り、梵語(サンスクリット語)を学び、仏典を持ち帰って漢語に翻訳する。
と言う大偉業を成し遂げた事を物語にしたもので、余りにもアスリート及び学問僧として人間離れしているので
「観音菩薩が三蔵法師を助けるため猿の妖怪を派遣した」
と言う言い伝えが生まれ、それが西遊記として成立する時に
「キャラ的に弱い」
と言う事で三体に分裂したのが猪八戒と沙悟浄なのだ。
レムリアの八戒さんも基本は西遊記を踏襲している。
三蔵法師のお供をして天竺から戻った時に、3匹は元職に復帰が許されたが、全員ドロップアウトしている。悟空はハナから断って水簾洞に戻ったし(斉天大聖と言う称号は天帝から与えられたものではなく、自称だったので復帰するなら馬小屋の番人)、沙悟浄は元々天帝が大切にしていた玻璃器をうっかり落として割った罪で落とされ、完全な人間不信に陥っていたので、復帰しても続かずにまた引きこもっていたところを八戒に技芸天事務所に誘われた。
八戒も銀河水軍の元帥という、実は敵など数億年も来ない閑職に飽きて、早々に退職して、技芸天事務所の舞台監督と言うクリエイティブな仕事に張り切っている。
名前からの洒落でブタカンを名乗っているが、実際は総合プロデューサーにあたる重職だ。
なので別人が天蓬元帥と名乗るとすれば、レムリア人の誰もが猪八戒を連想し、それはイコール豚の事。
魔界での人生を誇りに思う豚伯爵にとって、またとないサブリミナルな称号ではないだろうか?
『間違いないな』
『確率は67%です』
懐かしい確率表現でスミティが答える。
この宇宙生命体の作った人工インターフェイスプログラム(※そういえば"涼宮ハルヒの消失"が絶賛再上映中ですね。当時は映画館から客の半分が『長門は俺の嫁!』と呟きながら出てきたものだった)だったスミティが、人間の感情アルゴリズムを獲得して行く過程で、確率表現は少なくなっていった。
「つまりこの妄想男を放置すると、本当にレムリアを統一する皇帝になってしまう可能性があると」
『まあその可能性は低いでしょうが、失敗してもより可能性の高い個体に憑依し直せばいいのですから」
鹿の王も銅居上人から、東国武士の圖田幌鰭に乗り移り、改姓した清腹幌鰭は大御所として東国制圧寸前まで行っていたな。
「第一ステップで食い止めよう」




