54-13.深海王
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
54-13.深海王
シンカイと言う名の悪党。
と言えば前世の中国史好きは、どうしても
「秦檜」
の名を思い出す。
大唐帝国が滅亡した後、五代十国の戦乱が続き、最終的に宋が中国を統一した(10世紀)。
しかし程なく北部の女真族(満州民族)が北部を簒奪し、金を建国する。
宋王朝は南部に逃れ、中国は北部を金、南部を南宋が支配する時代が来た。
南宋の宰相秦檜は、強硬派の岳飛などを誅殺し、恐怖政治を敷いて、対金:宥和政策を実行した。
その後も金と南宋の対立する時代が続くが、12世紀に入ると、テムジン(チンギス・ハン)のモンゴル軍が金の国境を脅かし、金はモンゴルと南宋に挟まれる形で滅亡し、さらには南宋もモンゴルに滅ぼされ、テムジンの孫フビライは、中国を統一して元を建国した。
南宋人は元の支配下では、元金の人(漢人)に対して南人と呼ばれて差別を受け、元寇の時も船団の多くを提供した。
南宋の人々としては、もっと早めに金を滅ぼしておけば…、と言う思いはあったのだろう。
金に対して宥和政策をとり、英雄岳飛を誅殺した秦檜に対しては
「裏切り者」
と言う印象を持ってしまいやすい。
秦檜には秦檜の計算があったろうし、金の軍事力は南宋を凌駕していたので、徹底抗戦を叫ぶ岳飛たちは邪魔だったのだろうと思われるが、とにかく後世の秦檜への評価は低く、中国南部では秦檜と妻の像を置き、殴ったり蹴ったりする。と言う風習がある。
なのでシンカイと聞いて、裏切り者というイメージを持ってしまうのは、前世の中国史好きには止むおえないのだ。
『その深海という男は、強欲な暴君なのですか?』
「いや、それほどでもない、ごく普通の、金に目がない小物だったのだ。ところが、我が逮捕される半年ほど前から、彼奴の態度がおかしくなり始めた」
『おかしく?』
「左様。我を値踏みするような、見下す様な。たった一つの島の支配者であるくせに我への手紙が、どんどん無礼になっていった」
『無礼に』
「"たかが宰相の分際で国王に対し不遜である"とか、"大義であった。褒めて遣わす。余がレムリア皇帝になりし時には、臣下に加えて遣わす"とか、誇大妄想が爆発しだしたのだ」
『まるで人が変わった様に?』
「まるで人が変わった様に。あまりに酷いので交渉を打ち切ろうか、と思っておった頃に我が捕縛された」
なるほど。
『それでその事を若きコウジャンに?』
「魂が体を離れると、遠方にも簡単に行ける。我は朱雀国内を彷徨っておったが、そのうち妙な噂を耳にした」
『噂?』
「青島の深海が、青龍軍の旗を押し立て、海を渡って、大陸側の朱雀国・大東の国境線付近を制圧した。と」
そんな報告は聞いていない。
朱雀国の外交を担当しているのは、神仙の愁艶姉妹だから、そんな大事な情報を知らないわけがない。
だが姉妹は慌ただしく大東に旅立って行った。
朱雀国王宮では、深海によるクーデタという認識はなく、単なる地方反乱と捉えて、この機に乗じて大東が国境を越えて来ない様に向こうの外務担当と協議しにいったのかもしれない。
大体こういう地方反乱のリーダーは大言壮語タイプが多い。
だがもし?
『あなたはこの深海なる権力者に、何か禍々しい物が取り憑いているのでは?と思ったのですね?』
「その通りだ。流石に上位のお方は察しが違うな。我が現地で集めた情報によれば、深海は既に別の名を名乗っておる」
『どの様な名を?』
「聞いて驚くな、なんと『天蓬元帥』さ」
ここまでで元孔雀宰相の供述は終わった。と言う。
レムリアの東部地方では、かの斉天大聖孫悟空の物語は大変人気がある。
スミティはこの名を聞いて、即時にデータベースから同じ名を検索したが、小さい時から斉天大聖の物語を聞いて育ったり、最近では水簾洞の金絲猴であり、売れっ子漫画家の
「魔光仙女先生」
ことマコちゃん作、ベンガニー先生原作の
「少年孫行者」
の大ヒットで、そのストーリーを知らぬ者はない。
悟空の仲間で豚の妖怪
「猪八戒(猪悟能)」
は愛嬌のあるギャグ要因として人気があるが、同僚の蟻地獄の妖怪(河童は誤り)
「沙悟浄」
と並んで大事なサブキャラだ。
そして大罪を犯して天界から落とされ、豚の妖怪になる猪八戒の天界での名が
「天蓬元帥」
と言う天の川の水軍の指揮官なのである。
「ブタのおじちゃんがこんなところに?」
この報告を聞いてステルが叫ぶ。
だがそんなはずはない。
八戒は技芸天事務所で、舞台監督として毎日多忙な日々を送っている。
次の3メタル公演+映画上映の準備で忙しいはずだ。
「八戒さんじゃないね。別の豚だろう」
先代孔雀宰相がここまでコウジャンに伝えたかった事。それは
尋常ならざらぬ悪霊が深海に取り憑き、地方反乱のリーダーレベルでは有り得ない大言壮語を吐かせている。
と言うことだろう。
「豚は豚でも別の豚が八戒さんの前職を騙っているんだな」
該当する豚は一頭しかいない。




