6-3.さよならラン子(3)
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
6-3.さよならラン子(3)
「もう一回やってみ」
「あい」
ラン子の口から炎が出る。
炎?
「うまく無いねえ。氷の息は出るのかい?」
「あい」
口から吹雪が出る。
「どっちも中途半端だねえ」
「あい」
「これは…どうしたもんなんだか。亀卜の婆をもう一度呼んでおくれ」
「承りました」
部下の虎が退出する。
ラン子はやはり母の白虎の所に居た。
「困ったねえ、このままメグル殿の所にも置けないし」
「いやですいやです!あるじさまがいい」
「いけない!お嬢の呪が解けた!」
白虎が指を鳴らすと、ラン子は眠りに落ちた。「婆来たか。すまんが今一度占って欲しい」
歳老いた亀だった。玄武の手の者には占いを能くする者が居ると言うが、そう言う占い師なのか?
「白虎様。嬢様の何を占うのでしょうか?」
「将来を」
「見えませぬ」
「婆でもかい?」
「嬢様の未来には濃い霧がかかっております。漠然と行方を占っても、何も見えないのです」
「ではなんならいいんかい?」
「もっと絞った未来なら、或いは」
「例えば?」
「嬢様は将来何になるか?」
「成る程、炎を吐くのは西の獅子。氷雪を吐くのは白虎軍だな」
「然り。では占います」
亀は何かの骨を焚き火にくべる。しばらくすると、ピシッと骨にヒビが入る。
「どちらにも向かわず。先はやはり霧に」
白虎は頭を抱えてしまった。
「ゆるく無いねえ。何を占ったら、判る事があるやら」
「このまま時が経つと、嬢様が嬢様で無くなってしまいます」
「嬢が嬢で無くなる。下級の者の様にか」
「命令を聞くだけの獅子に」
「それでもメグル殿のお役には立とうが」
「いやですいやです。かあさまたすけて!」
目覚めたのか?悪夢を見ているのか?ラン子が叫ぶ。
「婆よ。ではこれを占って見て欲しい。嬢はメグル殿と結ばれるか?」
もう一度骨をくべる。
「然り」
「やはり婿殿にお会いするしか無いな。今夜はこれで終わろう」
「ランこはあるじとむすばれるのですか?オコおねいちゃんはどうなるの?」
やはり起きていた。想いが強すぎて、催眠術に掛からないのか?
「判らないよ。何も判らない。今はお休み」
再びラン子の頭が沈む。
「嬢の記憶を消しておかねば」
音声だけが流れる。
「そう言うわけなのさ。明日会いに行くね婿殿。したっけ」
録画してたの、知ってたのか?
「コンコン、これどう言う事なんだろう」
「天帝様と白虎の間になんぞ起こったのやろか。天帝様がラン子を下賜された時は、特に期限は設けられなかったんやが…」
「とにかくこのままでは、ラン子はなんかおかしくなる。って事よね」
「白虎さにも判らせん事なら、ラン子がでら特殊って事だろがね」
「特殊?」
「西の獅子王と東の白虎のハーフなんて他におらせんで」
「成る程な。と言う事は、ランに聞けば何か判るかも」
「そう言う思って、サンディさには許可得といたで。ランさはこっちに向かって出発しとる」
相変わらずの超ダンドリ娘だ。
「とうさまが…」
聞かれてしまったか。どこから?
「かあさまにあってたのに、なんできおくけされた?」
最初からか。結界張っても神仙級には意味無いか。
ラン子は、全然納得が行かない!と言う顔で拗ねている。
「おばんです。おじゃまするよ」
「ラン子、元気でやってたか?」
紬を粋に着こなしたラン子の母、白虎と、
ペンジクの高官風の白いハイネックのスーツを着こなした中年のカッコいいおじさん。これが獅子王ランの変化か。
二人が同時に別の入り口から現れた
「ラン君!」
「シロ!」
なんか偶然再会した高校時代のカップルみたいに叫んで、二人はまるで国技館の様に猛烈なハグをする。
「なあシロ。まずはちょっと別室で」
「だーめ。今は発情期じゃ無いの」
年中のべつまくなしなのは人間だけだ。
「そんな事よりお嬢が」
「聞いた。大変らしいな」
いや、何が大変なのか聞いて無いんだけど。
「ラン子のご両親。俺たちはラン子の事を、空を飛ぶ便利な乗り物。とは思ってません。旅の大切な仲間なんです。何が起こってるのか、さっぱりわかりませんが、どうかこれからも一緒に旅を続ける様に、お願いいたします」
オコ、コンコン、パーサも頭を下げた。
「おおきに。でも、うーん、弱ったなあ…。わしらも何が起こってるのか判らんのや。ただ、そうやな。わしら猫妖怪族が、どうして色んな力を持ってるか。そこから話そうか」
「その辺は西の獅子はんも、東の虎はんも同いなん?」
「違いがあったら、途中で口挟むっしょ」
白虎が幾分頬を上気させて、ランを見つめている。ラン子は母にぴったりくっついて甘えている。
ここから、俺たちとラン子が別れなくてはいけないのか、それともどんな形であれ一緒に旅が続けられるのかが決まるのだ。
「最初に言わんならんのは、これがラン子に当てはまる話なんかは、わしにも判らんちゅうことや」




