5-36.炙り出し
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-36.炙り出し
「その草とやらが誰か、どうやって調べるんですか?」
「そうだな。占いでもするか」
「うーらーないーっ?」
「そう馬鹿にしたものでもないぞ。三元さんが得意だよな確か」
三元は道士なので、いわゆる八卦見が出来る。
時代劇に出てくる易者のアレだ。
筮竹と言う細い竹串の様な棒を沢山手に持ち、半分に分ける。残った部分の数が奇数か偶数かで陰陽を定め、それを記した積み木の様な版木を重ねる事で、卦を占う。諸葛孔明もこれを作戦の決め手としたという。
レムリアでも大東に同じものがあった。
「ふむ、獅子身中の虫とな。まあ当たらん事もあるぞ」
「三元さんの八卦が当たらんならその辺の易者は全滅ですよ」
「待っておれ」
明らかに気を良くした三元が筮竹を取り出す。
「副将は?」
「東西南北に大佐を置き、北は…」
暫く版木を置いて、あれこれ考え、賽子も何度か振った後、三元は口を開いた。
「今のではない。五葉将軍のじゃ」
「さて。将軍の死後、何人かは引退し、一人は将軍の仇を追っていると言います」
「残ったものは?」
「赤心元准将のみと聞いています。五葉将軍が最も信頼し、遂準さんの後見でもある方。禁軍が宰相の新任車騎将軍人事を拒否出来たのも、この方の力と言われています。ですが最近引退されたと聞いていますが」
赤心とは"真心"の事で、この人の字である。五葉将軍の幼馴染であり、誠実な人柄で政界にも信奉者が多いと聞く。まさか?
「その者なら今回同行しておるよ。軍人ではなく顧問としてじゃが」
「そいつだ!」
「だがどうやって証拠を掴む?」
「罠を用意するしかないだろうね。三元さん、五葉さんと連絡つく?」
「造作ない」
なんかスマホにしか見えない石板を取り出し、耳に当てる。
「あ、五葉か?すぐ来い」
天下の車騎将軍をこの扱いだ。
旋風が起こり、五葉さんが現れる。
「姉さんなんですか?こっちは中京帝都で科学者狩りに忙しいんですが」
マーリンの呪いを解かれた五葉は、禁軍に姿を表したり結構神出鬼没である。
「その科学者じゃ。いよいよ奴らの陰謀を叩き潰す事にした」
「ほう、それはいいですね。で?炙り出し?赤心を?嘘だろう?」
「いや、赤心は恐らく既に鬼籍の者であろうよ。今おる輩さんは殭屍だろう」
「赤心…不憫な」
「殭の呪いが解ければ、そちらでまた腹心に迎えれば良かろう」
「そうですね。では私は何をすれば?」
「部下達にもう一度姿を見せてやれ。あと万一想定外の乱戦になったら、力を貸して欲しい」
「承知」
マーリンの弟子の中で、唯一魔術の才能が全くなかった五葉は、代わりに武術の達人だった。
「で、私が姿を見せるのは罠ですね」
「そうだ。五葉将軍が今度は禁軍全員の前に姿を現せば、裏切り者は必ず上に連絡しようとする」
「武士の情け。赤心は私が」
「いいじゃろう」
オコが遂準を呼んできた。五葉が声を掛けると遂準は跪き、涙を流した。
「隊長。ご無事で」
いや無事じゃないから。
実は前回遂準は五葉将軍を見ていない。ただ再臨を毛ほどに疑っていなかった。大した忠誠心だ。"隊長"と言うのは、五葉が若くて位が低い時からの呼び名で、古い部下はそう呼ぶ。
「実は赤心がな」
「まさか叔父貴が?でもそう言えば今回戻って来られてから、食が細くなられて」
大食いで有名だったらしい。
なんかヤクザみたいな呼び方だが、親(五葉)の弟分だから間違いないか。
「遂準さんには、不幸な事件だった同士打ちの時からの手打ちとして、今から宴会を開いて欲しい。オコさんメグルくん、一万人分の宴会料理と酒って、用意出来る?」
「出来るよ。なあ?」
「余裕よ。献立はどうする?」
オコは出番が回ってきて嬉しそうだ。まあ何万人分のランチだろうが、少しのパンと魚から分けてしまえる。そういう奇跡が、西南レムリアにはあるのだ。
まずプレートを土魔法で一万枚作る。
プレートにオコがパンと料理を盛り付ける。
俺が料理をすっと二つに分けて別のプレートに載せる。これを一万回繰り返すだけ。
味も薄くなったりはしない。
任務遂行派と帰還派の間は、まだギクシャクしていた。
ジャンプ漫画よろしく(最近は知らんけど)、男同士素手で殴りあって、ぶっ倒れて
「「アッハッハ」」
と笑い合えば親友になれるはずが、その前にパーサの電流で倒されてしまったので、変な感じだったのだ。
だが美味い酒。美味い料理。コンコンが伎芸天に頼んで侍天女を300人程派遣してくれたので華やかだった。
体育会系が上機嫌にならない訳がない。
「余興やれ、トンスラ、腹踊りやれ!」
「いやあれはもう飽きた。お姉ちゃん達、踊ってくれない?」
「踊りは別料金ですよ」
とか言って大騒ぎになったが、遂準が立ち上がった。
「おお!お頭が何か芸を?」
お頭って呼ばれてるらしい。遂準愛されてるな。
「いやそうじゃない。実はお客様をお呼びしていてな」
突然白馬に乗った五葉将軍が現れる。この馬は汗をかくと白毛が濡れて地肌が現れ、ピンク色に染まるので
『汗血馬』
と呼ばれた五葉将軍の愛馬で、将軍の死後飼い葉を食べなくなって後を追った。
「「「「「「「「将軍!」」」」」」」」
一瞬静まり返った一万の兵が正座した。
「久しいな。此度ははるばるこんな所まで、ご苦労だった。この後は都に帰れるぞ」
「将軍、ご指示を!」
「命令は生きている遂準が下す。またまみえる事もあろう。それまで一人も欠けるでないぞ」
「「「「「「「「オウ!」」」」」」」」
と言う声。一万が一つになった。
五葉は姿を消し、遂準は命下した。
「耐えよ。何が起こっても声を発せず、粛々と帰京する」
その後も夜まで宴会が続き(もちろんオコは踊ったさ。侍天女達にも追加料金を払った)、皆が寝静まった頃、
「はい、五葉が現れましたが、反乱を扇動する様子はなく、耐えよ。と」
「残念だよ、あーちゃん」
現れた五葉が都と通信していた赤心を幼名で呼び、その剣が一閃した。




