50-16.ファーストコンタクト
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
50-16.ファーストコンタクト
「どうしたの?パーサ」
オコがびっくりして訊く。
「アレ!アレだがね」
パーサは手をバタバタさせている。
「そうそうアレアレ」
ステルも一緒に手をバタバタされる。
「「うた!」」
「歌?」
「そう、昨日心斎さが唄っとった歌だがね」
つまり、誰かがレッサー魔族の求愛の歌を歌っている。という事だ。
「どこで?」
「うーんとね…」
ステルはキョロキョロ見回し
「ここ!」
と岩壁を指差す。
「何もないけど?」
師匠が早速木槌を取り出し、岩壁をコンコン叩き始める。
「なんや?わてになんか用か?」
いやそれは文章上でないと難しい。
「この辺から空洞になってるな」
「じゃあこの中で歌ってると?」
みんな耳を岩に付ける。
「なんかすごい音がするね」
ゴトン、ガタン
と言う音が聞こえ、確かに小さく歌が聞こえる気がする。
「空洞と言ってもかなり分厚い岩で覆われているな。音が外に漏れないわけだ」
「中の人にコンタクト出来ないでしょうか?」
「何かの合言葉、というか合図があるんだろうな」
皆が心斎を見る。
「合図ですか…。うーん。あれはどうだろう?」
心斎は師匠から木槌を受け取ると、思い切り岩壁を叩いた。
「タンタタタンタン、タンタン」
俺の世代の日本の子供なら、メロディごと思い出せるリズムだ。“、”の部分には四分休符が入る。
俺たちの世代より後になると、このリズムというモノへの感性は俺たちより研ぎ澄まされている。
言うまでもなく
「太鼓の達人」
の影響だが、俺たち世代だと仲間内で机を叩いて
「今なんの曲だったか?」
を当てる遊びがあった。
これ、イントロ当てクイズなどに比べると、かなり難易度が高い。
まずは出題者が曲からイメージするリズムと、回答者が曲からイメージしているリズムがうまくマッチしないと袋小路に入ってしまい、どうしても合致しない。
正解を言っても
「ええ?そういう風には聞こえなかったよー」
と言うトラブルも起こる。
高校の時、この遊びに百発百中に答える女子がいて
「あいつ、エスパーじゃないのか?」
と思った。
歌謡曲から急にクラシックに変えても当ててしまう。
多分、リズムに対する感性が大変鋭い人だったのだと思うが、今はどうしているだろう?
世界的な打楽器奏者とかにはならず、多分普通のおばあちゃんになっているんだろうな。
合言葉は合っていたらしい。
「はぁ〜い」
と声がして、岩壁がガバッととびだし、静かにスライドし始めた。
ワンボックスカーのスライドドアみたいな仕組みだ。
中は結構大きな空洞で、天井の高さは5mくらいある。
中にはあった!
でっかい水車で梯子がかかっている。
水車の上には手すりが付いており、上で小柄な女性がびっくりしてこちらを見つめている。
「どなたですか?」
その女性は魔界語で言った。
つまり翻訳機能が働く俺と、心斎とタエとタニエしかわからない言葉だ。
あ、パーサも最近解析が済んだと言っていたな。
他のメンバーにはタエとタニエが同時通訳していた。
「ムニル族の心斎です」
心斎はきちんと姿勢を正して挨拶をする。
頬が上気しており、今まで思っていたより結構心斎が若い事がわかった。
アラサーくらいか?
実年齢は1500歳位と言っていたが、魔族はエルフより長寿なのだろうか?
「フギン族の紫陽花です」
彼女は答えた。
「ここはフギン族の皆さんの農園ですか?」
「はい。そうです。よくここまで来られましたね」
「ステルにのってきたんだよ!」
元気に自己紹介する。
「そしてこのワタリガラスが見つけました」
社長が肩に乗ったミタを指差す。
「まあ、鷲も越せぬという大山脈を。可愛い子」
ミタは紫陽花の差し出した手に飛び乗る。
「いつまでも秘密を暴露したままには出来ません。そちらに参りますわ」
紫陽花は水車の上からふわりと飛び降りる。
普通だと骨折しそうな高さだが、翼を広げて軟着陸した。
エルフ基準だとかなり小柄だ。
140cmあるかないか。
心斎はエルフの標準よりはかなり小柄で150cmくらいしかないので、同族の女性ならこれくらいなのだろう。
翼を拡げた姿は日本のアニメに出てくる天使の様で可憐だ。
そして彼女は優雅に片足を引き、特徴的な礼をする。
「ようこそいらっしゃいました。フギン族の国、ククドゥへ」




