50-13.かの地へ
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
50-13.かの地へ
女王は心斎に王宮を離れる許可を与え、ウメダ一家は帰って行った。
ハツホ少年の印象はまさにエルフそのもの。
(俺とオコと師匠はゴンドワナで純正エルフを見ている。)
アマランタイン女王はレムリア最後の純正エルフだし、ウメダの父母はそれぞれハーフエルフだ。
つまり現在のレムリアで考えられる、女王以外の最もエルフの血が濃い存在がハツホ王子、そして程なく生まれてくる王女なのだ。
レムリア神の意味不明な非・人類種根絶計画によって、純血エルフはレムリアに存続する事が許されない。
アマランタインも相手がハーフエルフミックスのウメダだったからこそ子を得ることができた。
俺はパピーズたちと、レムリアとゴンドワナの境界を通過できる条件について議論していた。
ゴンドワナのエルフならばレムリア神の支配下にないので、もしレムリアに来ても子を成すことができるはずだ。
実際例の毛髪作戦で、パピーズにはゴンドワナのエルフやドワーフの毛髪をレムリアに持ち込む実験を依頼しようと思っていた。
だが今のところこの事はウメダには話していない。
彼はエルフ王国の再建のために、レムリア各地のエルフ系民族を集めて、壮大な先祖返り実験を行おうとしており、そこに本物のエルフを持ち込むことが本当に良い事かどうかは解らないからだ。
それにゴンドワナ生まれの生物がレムリアに入るのを許されたのは、パピーズのαたち。つまり4人の犬人の子供しかおらず、それはαとβの強い絆と犬神マルモシウスという両世界共通の神の存在が大きい。
となると、ゴンドワナのエルフをレムリアに連れてくる件については、まだクロウサギの呪いが解けていない賢者。つまりエルフの神シンダル王が許可する案件なのだろう。
アマランタインの周りの精霊たちも、エルフに人間の血が混じることには難色を示したが、いざハツホくんが生まれてみれば、もうジジ馬鹿ババ馬鹿を発揮して、今後色々教育が出来る騎士型とか隠者型とかの依代に乗り換えたい。というリクエストも来ている。
ウメダはエルフの血が入っている人々。そしてエルフの亜種と言えるダークエルフ。そして新たに今度発見された魔界のレッサー魔族であるムニンとフギンの末裔たちも含め、エルフを生物種としてより文化として捉えた王国を作りたい。
と言う構想を持っており、それには女王も賛同している。
そんなウメダにとって、心斎を家令に迎えることによって、まずムニン族の信頼を得て、彼らをエルフの一族として受け入れる事。
そのためには社長=ワタリガラス神コリナンクリンを彼らが信仰する事が必要だ。
と思っている(流石にシンダル王を先祖神にはできないから)。
なので男系のムニン族が女系のフギン族を見つけて一体になり、汎エルフ世界の一員になってくれる事。
それをウメダ公は願っている。
「まああまり期待せずに、大山脈に行ってみようか」
俺たちはワタリガラスのミタに従って、ゆっくりと進んだ。
途中までは、ミタはステルの頭にとまって案内し、心斎はトトムの首に掴まって行った。
「フレンドリィなワイバーン」
と言うものに深い感銘を受けた心斎は、トトムと友情を結ぶ事に成功し、ワイバーン恐怖症を克服した。
大山脈上空に達すると、ミタは自ら飛行して記憶を辿った。
心斎も自力飛行する。
それほど体重のない心斎だが、高度を飛ぶトトムの負担を少しでも減らすためだ。
『ミタって凄い飛行能力者だね』
と俺が念話を飛ばすと、社長は
『あの子は娘時代、調査兵団のエースだったのよ』
いや翻訳機能、その翻訳だと立体機動装置を使いそうだ。
ワタリガラスの中でも、大山脈の上を飛ぶ事ができるのは稀らしい。
高高度では浮力が得られ難く、呼吸も苦しいからだ。
そのため、彼らのロジスティックエリアには大山脈地方が空白で、だからククドゥも幻の王国だったらしい。
「クォカード!」
とミタが鋭く鳴く(そういう風に聞こえたの)。
『あそこだ。と言ってるわ』
二頭と一羽と一人は、雲の中に突っ込む。
驚いた事に、そこには雪に覆われた岩傀ではなく、遥か下を流れる渓流と、その両側に広がる段々畑。
つまり緑が広がっていたのだ。
まさか大山脈最高峰の地域に、こんな穏やかな農村風景があろうとは。
「なんべんも山ごえしたけど、こんなの見た事ないや」
「キョイ(御意という意味のトトム語)」
渓流には吊り橋が架かっており、段々畑と棚田で作物を作っている。
「米と、野菜。あとは茶畑ね」
社長が実業家らしい値踏みをする。
米と野菜は自給自足のためか。そしてお茶は…。
自己消費には面積が多い。
輸出しているのか?




