50-8.謎のエリア
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
50-8.謎のエリア
俺たちはもう一つの情報を心斎に話した。
「ペンジクは行った事がありませんが、大山脈北嶺って、ペンジクなんですか?」
心斎が鋭いところを突く。
ペンジクと大街道地方は大山脈で仕切られており、大山脈の南嶺からペンジク海にかけてが、ペンジク国の領土だ。
「そうだな。ワタリガラスが間違えたか?」
「うちの子たちの方向感覚は絶対間違えないわよ」
社長がプライドに賭けて言う。
「となると…どういう事?」
大街道は一応チャガマン国が管理しているが、東の大東、西のクルタン国は常に利権を狙っていた。
クルタン国が滅亡してからは、それほどの脅威は無くなったが、大東は歴史的に常に西進を目論む帝国で、大街道北側のジョウザも侵略されかけた事がある。
この時は後に大通智勝如来と称えられた当時のボンが徹底抗戦を唱え、ボンの妖狐である戦狐の獅子奮迅の働きで、当時大東を支配していたアンゴルモア大王の軍勢を一歩もジョウザに入れなかった。
講和会議の際、戦装束で静かに控える戦狐の姿を見て大王は感動し
「この様な小柄な女性が、我が精鋭10万を退けたのか?」
と言って、ジョウザにはそれ以上攻め込まない事を約束した。
大王が亡くなり、ゴルモア軍が大東から退去したのちも大東はジョウザに様々な干渉を行い、歴代のボンの中で最も優秀と言われる(えっへんバウワー)俺がボンに即位すれば、ジョウザの伝統を破って子を成し、強大な帝国を築く覇者となるのではないか?と危惧して、ジョウザの安寧の条件として俺の去勢を要求してきた。
俺とオコがジョウザを逃げ出し、諸国を放浪して現在の状況であるのは、ひとえにこのためである。
ちなみに俺とオコは当時は仲のいい姉弟の様な関係で将来を誓った訳ではなかったが、今思えばジョウザを遁走したことは、二人にとっては良かったと思う。
結婚もできたしね※。
(生まれた体を失ったので、オコには申し訳なく思っているが)。
※ちなみにまだ紹介できないが(つうかまだ考えていない(汗))、メグルとオコの子供たち(複数)はいずれもそれぞれ進んだ分野で優秀な成果を上げたが、世界を統一するような、武人とか魔法使いは現れなかった。
メグルの後を継いで人代?
ふっふっふ。
それはどうかな?
それで大山脈の話に戻るが、レムリア最高峰が連なる大山脈の中央部には、かなり分厚い高原地帯が広がっている。
前述の様に大山脈の北からペンジクに入るのには西端のカイバラ峠を通るのが一般的だ。
直接大山脈の高原地帯を縫う峠道を通る方法もあるが、標高5000m以上で、酸素マスクがなければかなり厳しい。そしてそんなものはない。
もちろん馬車どころか、馬も使えない。
修行僧が徒歩で巡礼するルートなのだ。
ちなみに密教はこのあたりで誕生している。
大日如来というおそらく宇宙生命体と出会うのは、この過酷な高原の道を登って、酸欠状態で満天の星を見るくらいのアンビリーバボーな体験をしないと出来ないのだろう。
この高原地帯には盆地もある。
盆地と言っても京都盆地とかよりは遥かに高いところにある。
高原が標高1000m程凹んだ所。
という感じか?
ここには僅かだが山岳民族が住んでおり、厳しい自然の中で暮らしている。
この地方を訪れた修行僧の中で、一つの噂が広がった。
あまり文化の栄えていない山岳民族の集落が点在する中に、きちんと王国としての形を保ち、文化が高い幻の王国がある。と。
そこは花の咲き乱れる渓谷地帯で、人々は自給自足で幸せに暮らしている。
これが幻の王国
「ククドゥ」
の伝説だ。
この王国に辿り着くのは至難の技で、多くの冒険者がこの国を探して命を落とした。
俺たちがジョウザを去って(死んだ事にして)後、ジョウザ宮殿の侍女スジャが麓の泉まで水汲みに行き、魔法使いのメルと出会う話が第一部32話にある。
オコがコンコンの木の葉隠れ(認識阻害術)を使いながらスジャに話しかけ、スジャがその奇跡をジョウザで話した事を、ベンガニーが美しい短編小説に仕立てて、それがアクタ神賞を受賞し、ベンガニーは華々しく文壇にデビューするのだ。
この小説以降、スジャは聖女の様に称えられたが、この小説に感動したククドゥの若き王に見染められて嫁ぎ、本当にスジャは国聖母と称えられる様になった。
つまり幻の国ククドゥは実在する。
だが、この王がどうやってスジャにコンタクトして求婚したのか(そもそもどうやってベンガニー本を入手した)?
そしてスジャはどうやってククドゥに赴いたのか?
全く謎のままである。
ペンジク王室もこの国とは国交がなく、この地域はペンジクの北の要衝である大山脈の抜け道を明かす事になるので、国家機密扱いだ。
もしそんな高原地帯に茶畑が作れるとして、それはペンジク王ジャルディンII世も知らないはずだ。
だがワタリガラスたちは見ていた。




