50-6.ウメダと心斎
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
50-6.ウメダと心斎
「一体何をしたらここまで消耗するのかしら」
後を治癒魔法ができるタエに任せて、オコは神聖魔法の施術を終える。
「いや、オコさん。ハツホ坊の時もこんなだっただろ?」
ああそうだったな。
エルフのアマランタイン女王が胎内で子を育てるには、人間よりもはるかに長い時間と労力を必要とする。条件が伴わないと、胎児は生育せず、そのまま母エルフに留まる。
婚約者ナンバの死という大きなストレスの中で、ハナテンは知らぬ間にウメダを宿したままチャガムⅣ世の元に嫁いだ。
そのため、後に生まれたウメダを人々はチャガムⅣ世の子と信じて疑わなかったのだ。
ウメダとアマランタインの最初の子ハツホが生まれる時には、夫妻は一刻も早く(人間並に)生まれる事を望んだので、ウメダは昼夜アマランタインに精力と精神の安定を注ぎ入れ、無事に彼女は妊娠期間を終えたのだった。
「そうか、エルフの父親は辛いね」
と俺が言うと
「なんもなんも。なんくるないさぁ」
と南北入り混じった方言でウメダは答えた。
「今度ぁもし姫さんなら※母さまに似て、でら別嬪さんだろなあ」
パーサが言う。
※その後パーサは女王に面会し、7つの威力バージョン幾つだかの
「超音波探査」
で、生まれてくるのは王女である事が確定した。
「まあ父親としては、五体満足であれば顔はどうでもいいけどね。出来れば父親似であって欲しいよ」
「そうなの?おかあさんにの方がかわいいのに」
「いや可愛すぎて俺がどうかなっちゃうといかんからさ」
これは、成人しても一向に美しさに衰えがなく、貪欲王タンランに誘拐されて命を落とした母ハナテンの様にならぬ様、ウメダが心配しているのだ。と思ったが
「女王陛下の思春期を思うと、娘には同じ道を歩んでほしくはないんだよ」
自分の妻を陛下と呼ぶウメダは語る。
「幼児期をすぎると、エルフは一挙に成人するんだ。その時期から陛下はベールを必要とする様になったようだ」
そうか。
アマランタインは、成人後はベールなしでは人前に姿を現さなくなったのだ。
最大で60%ほど美を減ずるベールを被ってさえ、世界級の美女を3割増しに凌駕する美女なので、ベールなしでは争いが起こるためだ。
ウメダだって麗しのハナテンの子なのだから、結構なハンサム(ちょい悪系だが)だから、父親似でも相当可愛い子が生まれてくるのは約束されているが、ウメダの言いたいことはよくわかる。
俺は今その結果を知っている訳だが、結果的に王女はベールを必要としなかったが、ウメダはどうにかなっていた。王女は理知的な美貌で両親の夢であるエルフ王国設立に尽力した、王室外交のトップビューティになった(※こういうネタバレはやめてもろて)。
「で、どこでスカウトしたの?シンサイさんを」
ステルが訊く。
「うん、いつもの様にエルフの隠し里探しをしてたらさ、林の中に突然カシスの果樹園があってさ。陛下もカシス酒は大好きだから、ちょっと頂こうかと思ったら『こら〜』って」
まあそれは普通に泥棒だわな。
「近くで見てびっくりした。エルフの少年だったからだ。しかも混じり気なしの純エルフ。だが彼らはエルフではないと言う」
つまりムニン族だった訳だ。
「彼らはカシスを大変好むので、栽培してたって言うわけさ。俺はこれは大きなチャンスだ。と思った」
「どうして?」
「エルフには大きな定義がないんだよ。異界からやって来た。と言う言い伝えの地方でさえある。各地のエルフの末裔を訪ね歩いて、結局尖った耳、細身の顔と体、くらいしか共通の特徴がない。森に住む民。と言う定義が一般的だが、海辺で暮らすエルフもいるし、肌の色もまちまちだ。もし心斎たちの一族が魔界の出身なら、彼らを迎え入れれば、レムリア神の妨害を受けずして一族を繁栄させる事ができる。とまあ思ったのさ」
この柔軟な発想はアマランタインを守る精霊たちには絶対に浮かばないものだ。
人間とのハーフエルフ同士のミックスであるウメダでさえ、アマランタインの配偶者として認めるに随分時間がかかったくらいだから。
まあこの辺は、女王とウメダ公がエルフをどう捉えるか?で今後も変わっていくだろう。
考えてみれば、ゴンドワナのエルフだってレムリアのエルフと完全に同じ種族であるか、定かではないのだ。
「それで、彼らが同胞となり得るかどうかを知るために、まずこの心斎を借りられないか、とムニン族の長老たちに掛け合ったのさ」
この提案は好意的に受け入れられた。
そして心斎のエルフ王国宮廷暮らしが始まる。
ムニン族は長い流浪生活から、他所者との交流には慎重になっている。
心斎を仲立ちととして、理解を深めあえばエルフはムニン族を同胞として迎えられる日も来るかもしれない。
「それで女王陛下がお好きなカシスの最新の収穫を、お届けに上がったわけで」
それがワタリガラスたちのレーダーにかかったのだ。
「その事だけど」
と社長が言う。
「心斎さん。アノ山脈って覚えがない?」
「どの山脈です?」




