49-32.密航者
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
49-32.密航者
えへへじゃないでだろ!と俺は思った。
ステルは音速を軽く超える速度で飛ぶ。
自動式侍女人形のパーサは平気で飛行するステルの首に跨るが、俺とオコとコンコン(の憑依した子狐)はそうはいかない。
ダガムリアル謹製の輿を背中に括りつけてステルは飛ぶのだが、この輿は気密性、耐G性に優れ、生身の俺たちを守ってくれる。
その他お客人にはステルが腹に抱く
「繭」
と呼ばれる透明なパーツの中で、やはり衝撃から守られながら飛行するが、この装置を抱くとステルの速度と航続距離が大分スポイルされる。
今回パーサは懐から二人を取り出したな。
パーサは人間との付き合いはもう長いので、シバヤン作の自動人形に比べ、生物がどんなに脆弱であるかを知っているはずなのだが、リリパッドなんて、さらに弱そうではないか?
「パーサ、どうやって運んできたんや?」
コンコンもそこが気になったようだ。
「これだて」
とパーサが取り出したのは、細長い筒。
ちょうど前世で使われる水筒の感じだ。
「ここ捻ると蓋が開いて、リリパッドならちょうど二人入るんだで」
「ちょっと狭かったです」
タエが笑う。
タニエが大きいからな。
いやこれ、気密性はあるけど酸素足らんくなるだろ?
しかも耐G性能は…。
「これはナンバーズの7つの威力、オプションパーツの一つだがね」
いやオプションって7つの範疇超えとるだろ!
「生物採集キットぉ!」
パーサは青い狸(違う)の様に叫ぶ。
「機密性完備。酸素供給、温度調節、給餌機能付きで、10年まで採集した生物を保存可能な優れもんだでかんわ」
「そんなものが」
師匠が興味を示す。
「こんな大きさだで、人間をキャトる時には使えんでさいが、リリパッドがちんびきしゃあ(名古屋弁で小さい)で助かったわ」
自律判断を任せてあるパーサの許認可否は、ひとえに「この装置でリリパッドの生命が守れるか?」
だけだった様だ。
「だけどステルはすごいよこGでまがるでしょ?」
本人にも自覚があるようだ。
「それはこうして、胸にはさめば。ほら、パイプロテクタアぁ!」
いや実演はいいから。
炎上したくない。
「君たちねえ。これがどんなにイケナイ事か、自覚はあるの?」
俺はちょっと怖い顔で言った。
「え?そんなに悪い事と思わなかった」
タエが青ざめる。
古今東西、密航は重罪だ。
見つかれば、そのまま海に投げ捨てられても文句は言えない。
俺が高校くらいに読んでトラウマになった短編小説がある(作者は忘れた)。
宇宙飛行が本格化し始めた頃に、厳密に質量管理された一人乗り小型宇宙船に、お気楽な今で言う迷惑系YouTuberみたいなお嬢さんが密航する話。
それは国家の運命を担う秘密プロジェクトで、失敗は許されない。人間一人分の質量が加わることで、航行距離は激減する。
娘さんは父親の高官に連絡を取るが、父親は絶望的な返答しか出来ない。
かくて彼女は宇宙空間に…。
と言う救いのない話で、読後しばらく気分が落ち込んだ。
今回彼女たちが来てしまった事で、どんな状況変化が起こるか?
「君たちは俺たちが戦おうとしている敵、破滅の魔女にとって、喉から手が出るほど欲しい人質だ。君たちが魔女の手に堕ちれば、お父上(ユリウス、ユリニウス)たちも司令官(オベロン、オベリウス)たちも、魔女の言う事を聞かざるを得なくなる」
「そんな…」
「さらにタエは大聖母の力を得て、治癒魔法チームの要になった。今この瞬間にもパチモン、パイセンの騎士たちが訓練中に大きな事故に遭って負傷したら、残りの治癒師で万全な治療ができるのか?」
俺は努めて冷酷に言い放つ。
「メグル、もうそれくらいで。この子たちも反省してるわよ」
オコがとりなすが、戦闘の際に何よりも優先せねばならないのは救急チームの安全なことは、オコも経験している。
オコ自身遠距離戦の弓矢と近接戦の格闘術で、引けを取るつもりはないのだが、最近は仲間の治癒魔法師、聖霊魔法の使えるオコαとβの安全にこれを使う様になった。
怪我人を治療する事は人道的な意味以外にも、戦力の消耗を最小限にする、大事な戦略なのだ。
「このことはお父上たちにも報告する。そろそろ捜索隊が出ている頃だろう」
「「はい…」」
娘を溺愛するが故に、どんなに叱られるか想像できてしまい、青菜に塩みたいに萎れた二人は項垂れたままだ。
「さあ、ご飯にするから、タエ、タニエ、お皿並べてちょうだい!」
オコが声をかける。
「「はい!」」
二人は元気を取り戻し、駆け出した。




