49-14.オコの力2
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
49-14.オコの力2
元々ジョウザの妖狐であったオコが、時間を割いて麓の街道周辺のオアシス村落の貧しい子供達にこっそり施しをしていた事をきっかけに
「聖母様」
の言い伝えが広まり、その素朴な民間信仰を俺たちが聖狐天の立ち上げに利用した事で、オコへの信仰と聖狐天信仰は合一した。
はずだった。
だが、俺たちがジョウザで偽装の死を遂げたことを信じきれないタンジンらが、俺を文殊菩薩、オコを大聖母(醍醐での如来同等の女性存在。女性が如来になる事が出来ないため密教で定められた)と規定したために、俺とオコは死後再生して聖狐天の父母になった。という風説が流布し、大街道を中心に聖母信仰が再燃した。
聖狐天教団は着々と教勢を伸ばしつつあるが、それとは別に大聖母信仰も根付いて行った。
これは丁度この時期この地域に
「地母神信仰」
が空白であった事が影響しているようだ。
そういう訳でオコの元には、かなり大量の信仰エネルギーが集まっており、オコはそれを武力としては使えず、民草を救済するために使わねばならない。
パピーズのオコαとβはオコの分身みたいな物だから、神聖魔法が使えて当たり前なのだが、今回リリパッドのパチモン勢の中にオコの神聖魔法が使える者が現れた。
厳密にいうと神聖魔法が使えるのではなく、オコの神聖魔法を効果的に反射する事ができる者がいたのだ。
パチモン勢はオコによって複製されたリリパッドなので、レムリアに現れた瞬間、創世主である大聖母への深い信仰の念を抱いたのだが、ある少女が兄の重傷が全治する様に一心に大聖母に祈った結果、オコの神聖魔法が反射して兄に働き、兄が欠損した部位も含め全治する。
という事が起こった。
これにはオコが近くに居て神聖魔法の流出に承諾(祝福)を与えねばならず、一時的な奇跡と思われたが、それが起こったのはこの少女に元来治癒魔法の能力があったからで、その後も少女は治癒魔法の使い手となり、自分の中にある魔力を使って多くの同胞を助けた。
この様な才能を持つパチモンは男女20名程いることが分かり、いずれも戦闘員(騎士)ではなかったので、救急班として組織された。
最初パイセンの方には治癒魔法を使える者は現れなかった。
元々魔界には治癒魔法はないので(猛毒と信じられていた)、多分オコの神聖魔法の反射という経験がなければ、治癒魔法が発現しない。と思われる。
だが、パチモンとパイセンの合同訓練の際に(それぞれの浮遊神界は相互不可侵であったのでレムリアで行われた)突如現れたスズメバチの大群(魔女の差金であったかどうかは定かでない)と戦い、両軍かなりの重症者を出した。
ちょうどオベロンとオベリウスの強い請願で、オコもこの訓練に参加していたが、早速パチモンの救急班が治療にあたっており、パイセン側の看護班の中にも大聖母に祈りを捧げる者がいて、見学席を飛び出してアシナガバチを掃討していたオコの体から神聖魔法が流出し、オコはそれを祝福した。
結果10数人のパイセンに神聖魔法が反射できる事がわかり、彼らは後に治癒魔法が使える様になった。
聖狐天教団も病院を持っているが、そこで働く治癒師は入信前から治癒魔法の修行をしたもので、そのほかには、薬草を使ったオーソドックスな治療を行ない、それでも治療は無料であったので、高額な治療費をふんだくる医者が多い中で人々に感謝されていた。
聖狐天も母のオコと同じ様に神聖魔法反射からの治癒魔法の開花を出来ないはずはない。
なぜやらないかというと、そのような奇跡が教勢の拡大に利用されないためで
「ご利益を与えない」
という聖狐天の革新的な教えに反するためなのだ。
オコの方はまとまった教団を経営するつもりなどないので、治癒魔法師を量産して一人でも多くの患者を救いたい。という思いでおり、パイセンの中にも治癒魔法師が誕生する事を喜んだ。
今後同じようにレムリアの人々の中で、幼い頃から魔法の才能の萌芽が確認できず(他の魔法に比べ治癒魔法は使用する魔力量が少なく、自然に才能が顕現する確率も低い)、その後も家の事情等で学校にも行っていない(学校では身体測定で魔力も調べる)普通の人民の中から、新たに治癒魔法使いを見出せれば。
というオコの願いは今後のラグナロク戦の際にも、多くの被害者を救う事ができる訳だ。
こうしてパピーズの次の任務は、隠れ治癒魔法使いの発掘に決まった。
「あの看護師さんに看護されると病気が早く治る気がする」
とか言う分かりやすい案件をはじめとして、
「あいつの畑は作物の実りがいい」
とか
「なんか元気がもらえる娼婦がいるらしい(流石にこれはパピーズではなく才蔵に調査を頼んだが)」
まで、可能性のありそうな案件を全て潰していった為に、レムリア全地に新しく治癒魔法使いが生まれた。
彼らには
「魔法の使い途は自由にするが、ラグナロク戦開戦があれば、従軍するように」
とだけ命じてあとは好きにさせた。
彼らは従来の宗教系や市井の治癒魔法使いに比べて圧倒的に安価で治療を行ったので、それなりに摩擦もあったが、結果的には多くの人民の命が救われる事になったのだ。




