5-29.三元道士
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-29.三元道士
「こんにちわ」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
「誰がしかばねじゃい!まあ死んどるのは事実だけれども、おまえら良く妾の前に顔が出せたな!」
自分でツッコミ回収と言う、中々の高等芸を見せながら、もう全然機嫌悪い。
「本当にごめんなさい。うちのボンクラが、マーリンに騙されて」
「おお、この間の娘か。よし、お前とだけ話す」
相当気に入られている。よしオコ頑張れ!
「それで、まずはお詫びの品を。ほらさっさと出す!」
オコ姉ちゃん怖い。俺は急いでワインを取り出す。
「こ、これは!マロニー・タマオ寺院の223年!」
「そんなに凄いの?」
「大東だと金牌(他国での小金貨)20枚かの。幻のヤクスチランワインに次ぐ高値じゃ」
他国で初めてその名を聞いた。
確かにパトニカトルの宴会のワインは美味いが、希少価値なんだろう。社長の目がギラッと光る。
「判った。この美酒で、この前の事は許そう。まあ弟子たちにキャンセルを詫びるのは大変だったがな」
分かったって。全然許してないじゃん。
「で、今回来たのは詫びだけは無かろう?」
「はい。お願いがありまして」
「お前とは話しとらん!」
へいへい。オコ頼む。
「許してやって下さい。この人のご両親の事なんです」
オコは経緯を話した。
「醍醐教でもそう言う小細工をする輩がおるのか。それは気の毒な事じゃ。何?科学者?あまり知らぬ事じゃが、他の若い弟子の中に大東の者がおる。聞いておいてやろう」
「ありがとう御座います。時に三元様は大東の廟以外に、現世に降臨出来る場所はおありですか?」
「霊媒なしにか?今はもうないな。昔は大街道の途中にもあったのじゃが、今は信者も居らず壊されてしまった」
「わてもとっくに死んでますけど、どこにも行けますえ」
「そなたとは立場が違うのじゃ、妖狐よ。妾たちは老師の眷族として縛られているからの」
またかよ。あのジジイ碌な事せんな。
「つまり、マーリンが現世で活動する為に弟子たちが現世に来れないって事?」
オコがちょっとヒートアップし始めている。
「仕方ないじゃろ。本来亡者はそう言うもんじゃ。妖狐と言うのが特殊な存在なんじゃよ。逆に歴代のボンは出て来れないじゃろ?」
「そうなんか?わてが、このわてが、あの人を縛ってたんか?」
コンコンはかなりショックを受けた様だった。
「惑わされるな。ボン達が出て来ないのは、心が既に涅槃にあるからじゃ。お前のせいではない!」
サンコンが現れた。
「お主は三元殿ではないな?正体を現せ!」
「ちっ!」
と舌打ちして、三元は倒れた。
「しっかりして!」
と言って、オコが何かを三元の鼻に近づけた。
「うっ!臭っさー。獣臭いぞ」
と言って三元は気が付いた。
「オコ何を嗅がせた?」
「ほら、ダガムリアルが蒸留した時の」
殺生石の滓か。あれはサンコンやオコ専用だぞ。まあ起きたならいいのか。
「あれは誰が憑依していたんだ?」
「決まっておろう。マーリンじゃ」
「やはり。おのれ!気に食わん言論を封じるなど、最低だな」
オコのヒートアップが止まらない。
「先先先代様、危ない所おおきにありがとう御座いました。危うぅ、闇落ちする所やったわ」
「気になって監視していて良かった。今の事でわかるとおり、マーリンめは妖狐の天敵や。初代様を蓬莱で追い詰めた陰陽師安倍某はマーリンの変装だったというぞ」
確かに蓬莱の陰陽師風情に敗れる妖狐ではないのだ。もちろんその行動は正義の味方としてのもので、妖狐は確かに悪霊だったので仕方ないが、結構やり口が陰湿だと思う。
「あのね。マーリンの干渉はガードできるよ。そしたら君は、レムリア中どこでも行ける様になる」
師匠が明言した。元バクロン魔法省長官ノヅリが明言したなら、それはできるのだ。
「あら、素敵な方」
小っちゃい三元が顔を赤らめている。
「ちょっとぉ。ノヅリ様は私が先に目を付けたんだからね。この泥棒猫!」
社長のカミングアウト!
「何を言う。何人も感想を言う言論の自由はあるぞよ。下がれこのチビ!」
二人は漫画の様に腕をグルグル回してポカポカ喧嘩を始めた。ちなみに二人の身長は1mmと違わない。
暫く殴り合うと(あんまり効いてなさそう)、二人とも倒れ、やがて
「わははは、愉快愉快。久しぶりじゃのうカラスの」
「カラス言うな!ワタリガラスだ。三元も変わらんなあ」
なんと二人は道士学校の同級生だと言う。
「運動会では、ちょうちんブルマで大活躍したもんじゃ」
「全くいつ気づくかと思ったぞ。しかし当時から好きな男の趣味は同じだなあ」
「まあ今回は確かにつば付けたのはあんたが早い。譲ろう。それよりさっきノヅリ様の言われた事を詳しく」
すっかり様付けである。
一方師匠は正調主人公の伝統を守って
「ん?なんか言ったか?」
を繰り返していたが、話題が変わったので我に返り
「あれはねえ、マーリンさん得意の心理攻撃なんだよ。基本的には『マーリンの代わりに自分が縛られる事なんて不要だ』と自覚すれば、呪は解けるよ」
マーリンは俺に人類の代表を押し付けて、冥界に引っ込む気満々だったのに、まだ未練があるんだろうか?
「もしレムリアに来れれるなら、妖狐の里にご招待しますよ」
「何?という事は、聖狐天にも?」
「会えますとも!」
「お前、見所のあるやつじゃな。さあ行こう」
「俺の両親を救出してからですよ。まずは科学者の情報」
「ぐぬぬ」
リアルに、ぐぬぬと言うやつ初めて見た。




