48-33.治療法はあるのか?
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-33.治療法はあるのか?
前話は意味深な終わり方になってしまったが、心理地雷が発動したら、もうその人格を救う事はできない。
もし仙人の時の様に地雷が与えるコマンドが、単発的な
「ウイルスを作れ」
だけだったら、それさえ成し遂げてしまえば、地雷の効果は無くなるだろう。
だが、この仙人は作り上げた心理ウイルスを小津製作の絡繰、金翅鳥を使って天帝神界に蔓延させ、天帝以下の幹部を狂わせた。
つまり今後もまた同じ事をしでかす可能性がある持続性を持ったコマンドだったので、薬師如来チームによる処置が取られたのだろう。
ここで注意したいのは、心理ウイルスと心理地雷の区別で、天帝神界の事件は心理ウイルスという微細物(生命といえるかは微妙である)による感染症だから、医学の専門家である薬師如来チームが徹底的に治療・防疫すれば、完治する。
つまり天帝は治療により正気に戻り、しれっと感染中の奇行(魔女支持)をなかった事にした。
だが心理地雷はそうはいかない。
マリスが指摘した様に、一旦心理地雷が発動すると、治療は出来ない。
新訳聖書の中でイエス・キリストは多くの病人を癒す奇跡を起こしたが、厳密に言えば直せない病気もあった。
それが心の病で、日本でも同じだが昔の人は精神病は
「悪霊が取り憑いて起こる」
と信じられていた。
なので霊媒師などが悪霊を祓えば心の病は治る。と信じられていた。
ところが超弩級の悪霊、と言うより悪霊群が取り憑いている男が現れ、大声でイエスに
「助けてくれ!俺を祓ってくれ!」
と叫ぶ。
見るとレギオンと呼ばれる大量の悪霊が取り憑いた状態だった。
イエスはこのレギオンに男から出るように命じるが、レギオンは
「我々が逃げ込む先を与えてください!異邦人が飼っている豚の群れに取り憑く事を」
と懇願する。
イエスが許すと、レギオンたちは先を争って男から飛び出し、異邦人が飼っていた豚の群れに飛び込む。
レギオンが取り憑いた豚の群れは走り出し、崖から飛び降りて死んだ。
豚飼いへの補償はあったのだろうか?
とか現代人は思ってしまうが、豚は食用以外にはまず飼う事のない家畜なので(巨大な豚が家を背負って移動する漫画もあったが)、ユダヤ教の戒律的に飼う事はあり得ないのだ。
ユダヤ人にとって豚肉は汚れた食べ物なので食べない。ユダヤ教から起こったイスラム教徒も食べない。
キリスト教だけが、ユダヤ教を起源としているのに、イエスがユダヤ教の戒律主義を批判し
「世界中の民に宣教しなさい」
と言ったために、行く先々の習慣に合わせる事が可能になり、豚も食べるし酒も飲む。というキリスト教徒になった。
なので当時のユダヤ人の感覚だと
「汚れた家畜を飼っている異邦人(異教徒)なんてどうでもいいよね?」
と言う事になり、哀れな豚飼いさんには補償はなかったのではないか?
ちなみにレギオンとは元々ローマの軍政から始まった大部隊を表す言葉で、当時ローマ帝国に支配されていたユダ王国に駐留しているローマ兵の食糧のために、大量の豚を飼っていたのではないか?
と言う説もある。
つまり服従を余儀なくされていたユダヤ人が、イエスのエピソードを使ってささやかな意趣返しをしたのではないか?
もしそれが実話ならローマ軍の糧食を減じた行動は当然補償の対象になり、イエスは律法的に間違った事をしていないので、請求はローマのユダヤ属州総督のポンテオ・ピラトからユダ王国のヘロデ王のところに行っただろう。
ちなみにこのユダ王国はイエスの処刑後間も無く滅亡し、パレスチナは正式なローマ帝国直轄地になる。
ユダヤ人の多くは土地を追われ、世界中に散らばって商業を営み、パレスチナには別の民族が移住し、後に新しく起こったイスラム教に改宗する。
パレスチナ問題はこうして始まるのである。
ちょっと話が逸れたが、俺はレギオンほどの強力な悪霊が、豚に憑依して崖から落ちて死んだくらいで祓うことができたのだろうか?
と言う事が気になる。
今度は別の生き物に取り憑いたりしないのか?
このレギオンの取り憑いた男は墓場に住んで自傷行為を繰り返していたらしいが、レギオンは豚に取り憑いて投身自殺することで、本懐を遂げたのだろうか?
オコの神聖魔法みたいなすっきりクリアーな浄化が多いイエスの奇跡の中で、これだけが妙に生々しい(厳密に言えば泥を作ってそれを塗り、眼病を治す話も)。
さてレムリアでの物語の中で、精神的な治療をする話が、前にも一度あった。
覚えておられるだろうか?
3メタルツアーを襲った魔女の手先
「筋肉兵」
だ。魔女が世界中から悪党を拉致し、精神操作魔法で洗脳し、意のままに戦う使い捨ての兵隊を創り出した事を。
あの洗脳を解くために俺たちが依頼したのが
宇宙生命体アドミンのエージェント、
スミティだった。
スミティは筋肉兵の脳内をスキャンし、魔女の洗脳を解く努力をしたが、完全には難しく彼らはほぼ別人格になった(記憶はある)。
すなわち悪党どもは副作用で、全くの善人になってしまい、頭を失ったレムリア中の反社組織は壊滅し、レムリアは平和な世界になる。
と言う、魔女にとって最も皮肉な結果になってしまったのである(その後徐々に悪党は増加し始めているが、昔より小者が多い)。
「もし心理地雷が発動した者が出たら、君がまた治療してくれるかい?」
と俺はスミティに公開質問した。
『完全に復元は今も無理です。ですが以前よりは私は感情というものを理解したので、全くの別人格にはならないでしょう』




