48-31.パピーズの帰還1
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-31.パピーズの帰還1
話を戻すが、まずはマリスとミグをゴンドワナに送ったパピーズが戻って来た話をしよう。
「ちょっと心配しましたけどね。無事に結界は通れましたよ」
ウラナαが言う。
苦労人の彼は俺たちが冗談で言っていた
「髪の毛だけが通り、つるっぱげの本人は通れず残る」
と言うパターンを、本気で心配していたらしい。
「何も問題はなかった?」
オコが尋ねる。
「はい大聖母さま。お二人は途中ドリアードの森に一泊され、ドワーフの砂漠の船に乗って、3日目には隠者様のところに到着しました」
ドリアードの祝福も受けられたのだな。
彼女の祝福のあるなしで、ゴンドアナの通行の容易さが違う。
砂漠を抜けてからクロウサギの隠者の住む洞窟までは、ほとんど深い森林地帯だ。
この辺りの物を言う動物はほとんど隠者の支配下に入っているが、まだ一人も本来の姿に戻っていない。
ラプラス神の呪いで、ゴンドワナの神々はものを言う動物の姿に変えられてしまっているのだが、実際にはクロウサギ(エルフ神シンダル王)に見出され、過去の記憶を取り戻せば本来の神々に戻れるはずだった。
だが一部の動物神(例えばモグラたちの神アースドラゴン)以外は、本来の姿に戻っていない。
シンダル王自身は
「全ての神々の呪いが解けるまでは、自分への呪いも解かない」
と言う誓いを立てているため、エルフという信者がいるにもかかわらず、クロウサギの姿のままだ。
そう、他の神々の呪いが解けないのは、信者である人間がゴンドワナから消えたからなのだ。
そんなわけで、記憶を取り戻した物を言う動物たちは、クロウサギの洞窟で共に暮らしている。
なので砂漠を抜けた森は物言わぬ野生動物のパラダイスで、危険な肉食獣も多い。
だがドリアードの祝福のブローチがあれば、安全に森を通過できるのだ。
マリスとミグは、この森の精ドリアードと後に親戚の契りを結ぶ事になる(48-23参照)。
この時点で、ゴンドワナの新人類の祖となるマリスとミグと森の精との間に友好関係が結ばれたのは興味深い。
マリスとミグの三人の息子は、ドリアードの森でそれぞれドリアードの娘たちに出会い(時期は別々)、結婚して子供を得る。
そしてその息子たちも、それぞれ伝説になる。
この辺は、地方により登場年代が異なり、ゴンドワナの学者によっては
「三人の息子は同一人物なのではないか?」
と言う説を唱える者もいるらしい。
それはマリスとミグの息子の出生時期が離れているからで、祖先神として不死を得ている二人には、中々子供が生まれなかったからであろう。
伝説によるとシンダル王の元を辞し、諸地方を旅した二人は息子を得、その子はドリアードの森に迷い込んで美しい娘に出会う。
その娘は
「若木乙女」
と呼ばれ、伝説によってトネリコ、イチイ、ヤナギなどの精。と言う事になっている。
ドリアードの一族は木の精でその土地を離れる事ができないので、息子は結局生まれた赤子を連れてその地を離れる事になる。
それはドリアードが
「孫たちはこの地で木の精になるか、土地を離れて人間の世界で暮らすかを選ばなければならない」
と予言したからである。
生まれた赤子は男の子だとも女の子だとも言われるが(息子は三人いたので)、いずれも伝説はよく似ており
「子連れの放浪者」
が、行く先々で人々を助けて旅をする。
と言う物語だ。
三人の息子は最後にはマリスとミグの元に戻り、両親を助けて眷属となり、その後子を成すことはなかった。
マリスとミグはレイラとテケ、エールと子蔵に出会ったのち祖先神と称えられたのだが、真に祖先神になったのは、孫の代。つまり三人の息子とドリアードの娘たちとの間に生まれた子供たち。
つまりドリアードの予言によって人の間に暮らす事を選んだ孫の代になる。
この子たちがレイラとテケの子供たち、エールと子蔵の子供たちと結婚したことで
レムリア人
エルフ系
ドワーフ系
ドリアード系
の血統がゴンドワナ人に混在し、さらに後に
旧ゴンドワナ系(融和派※)の血が加わることで、新ゴンドワナ人が生まれた。
と言うのが人類学者の定説である。
※詳細はまたいずれ語る事もあろうが、召喚された旧ゴンドワナ人の中には、人類の純血を重んじない一派もいた。彼らは純血派の攻撃に耐えながら新ゴンドワナ人に接近し、溶け込んでいったのである。
諸説あるが、俺はマリスとミグの息子(神学者は『神の子』と呼ぶ)は三百年くらいの間に顕れたのではないか?と思う。
それはゴンドワナの新人類が危険に晒された時で、そういう時期に赤子を連れた放浪者が現れ、災難から人々を守る。という意味で
「救世主伝説」
の様に語られて行ったのだろう。
エルフたちの神であるシンダル王も、ドワーフの神であるダガムリアルも人類の信仰を受けるが、旧ゴンドワナの神々も人々は信仰した。
こうしてレムリア型の多神教世界が成立したのだが、隠遁したはずの狼神ヴァルガーや虎神シャルブも祀った寺院があり、信仰を集めているのは興味深い。
特にシャルブはレムリアではシバヤンのことなので、どうして人々が知ったのかは謎だ。
だが一人としてラプラス神を信仰したり祀ったりする人間は、ゴンドワナには現れなかった。
これはレムリアでのレムリア神の立場に似ている。




