48-25.最後の一個
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-25.最後の一個
「と言うことは、ターゲットはしぼられるからべんりじゃない?にんげんで、じゅうよう人ぶつでしょ?」
ステルが無邪気に言うが、実はこれはあまり考えない様にしてきた事なのだ。
人間で重要人物。と言うのはそれほど多くない。
マチアスがなぜ心理地雷を3つセットで使う様に勧めたか?と言うと、現世の権力者の基盤はそれほど強くないのが普通だからだ。
「魔女に味方しよう」
などとNo.1が言い出せば、その座を狙っているNo.2にとっては、絶好のチャンスな訳で
「No.1が御乱心!」
とばかりにクーデターを起こすだろう。
3つセットであれば
No.1
No.2
調停者
の三人に地雷を仕込む事ができ、誰も反対者なしで決定的な失敗をしでかす事になる。
まあ実際にはそんな露骨な寝返りに心理地雷を使わないだろう。
天帝の御乱心は細かいチューニングが出来ない心理ウイルスだったからで、心理地雷の場合はもっと究極の局面でピンポイントで
「取り返しの付かない事」
をしでかす事になり、誰も反対しない。
と言う事になる。
昔読んだ吉田戦車の漫画で
「さあ今から取り返しの付かない事をするぞ」
と言う金持ちそうなおじさんが電子機器の上蓋を開け
「ああっ!ED-βデッキに納豆を!」
と言うのがあった。
当時β–VHS戦争の最終局面でソニーが投入した
ED-βはその高画質でVHS陣営を圧倒したが、大変に高価で専用ビデオカセットも高価だった(ED-βデッキは通常ビデオカセットも使用できたが、高画質は見込めなかった)。
そのデッキに事もあろうに納豆を投入してしまう。
と言う事で、吉田戦車は
「取り返しの付かない」
を表現したのだが、仲間内ではVHS陣営の勝利に終わった後でも、良く
「ああっ!ED-βに納豆を!」
が取り返しの付かない時の慣用句として使われた。
一個しかない心理地雷を効果的に用いるとなると、そのターゲットは
「最も効果的(俺たちにとっては致命的)で、誰もそれを止める事が出来ないほどの人間」
と言うことになる。
例えば国王。
大東皇帝にはまだ謁見した事がないが、現帝はまだ幼いと聞いている。
幼帝の母の外戚である宰相が実権を握っている様だが、この人に仕掛けるならやはりセットで仕掛ける必要があるだろう。
と思っていたら、後にレイラのチームが心理地雷セットを摘発した。
ペンジクのジャルディンⅡ世は人間だが、反対勢力はほぼ一掃されている。
ジャルディンを諌める事ができる唯一の存在は王妃で宰相のシュニア・ラダだが、彼女は元々人間ではない。
シバヤンの試作した自動式侍女人形の試作品が暴走して記憶を失い、少女シュニアとして姿を現した。
その後ジャルディンを庇って重傷を負ったシュニアを助けるために、瀕死のラダの体を使って再生したのがシュニア・ラダなのだが、果たして彼女を人間と言えるのであろうか?
おそらくメンタルはオートマタなのだから、彼女に心理地雷は効かないのではないか?
だからこそ一個だけの心理地雷をジャルディンに仕掛ける。という事は可能性がある。
バクロンのフサイ国王は元々前王の長男だったので、末子相続の伝統のあるイザン朝では最初から王位相続は望み薄で、前王の宰相として活躍したが、末子のアルディン王子が一旦即位した後、他の王子が辞退という形でフサイ王子に譲位して国王になった。
そういう苦労人なので家臣の信頼も厚く、一個だけの心理地雷であっても効果的な使い方はある。
それは、アンゴルモア大王の末裔であるゴルモア系の支配王朝であるイザン朝の御代で、常に燻っている問題。
ゴルモア人に滅ぼされたバロニア王国の遺民が多く存在する事。
フサイ国王は両民族の融和を図る政策をとっているが、所詮少数のゴルモア貴族が多数のバクロン・バロニア人を支配する構造には違いがない。
フサイ国王自身は密かにゴルモア人支配を終焉させ、新バロニア王国建国を視野に置いているのだが、そのデリケートな状況で、もしフサイ国王が奇矯な行動に出たとしたら、バクロンが長い内乱に巻き込まれる可能性がある。
だが魔女の手下がフサイに心理地雷を設置するため接近することは難しい。
この英雄は色を好んだりしない。
良き父であり、良き夫なので、ハニトラには近づかないのだ。
立場上城外に出る事もない。
使われなかった心理地雷セットが何基か発見されたので、この難攻不落の王には仕掛けられなかった。と見るのが妥当だろう。
その他には余り思い当たる人物はいない。
ヤクスチラン皇帝とか、チャガマン大公とか、影響力のある人物はまだいるが、心理地雷セットが未然に確保されている。
あとは宗教指導者だろう。
だが宗教界ほど足の引っ張り合いが盛んな業界はないので、一個だけの設置は意味がない。
「考えられるのは聖子ちゃんのところなんだよね」
俺は言う。
「あそこの家来で誰が裏切るって言うのよ!」
オコがキレ気味に言うが、裏切る訳ではない。
「四天王は二娘、サンコン(幽霊)、シャミラム(幽霊)。そしてメルファは人間だ」




