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48-19.子蔵と社長

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


48-19.子蔵と社長


確か蓬莱にいた時に社長がずっと探していた烏天狗の事を、才蔵に聞いた事があったと思うが、あまり有益な答えはなかったと思う。

もっとも子蔵の知っている烏天狗情報も必ずしも現実的な物ではなく

「羽鳥家伝来」

的な意味しかなかった。


子供の頃から家に縛られるのを嫌った才蔵は、ろくにそういう言い伝えを聞かなかったので、本当に知らなかったと思われる。

「そ、その言い伝えとはどの様な?」

「千年の昔、大陸から志能備(しのび)と言われる異人が渡来した。この志能備は不思議な忍術の数々を身に付けており、当時の帝に仕えて諜報活動を行なったという」


前世の歴史でも、聖徳太子がこの志能備を使ったとされ、のちに伊賀・甲賀の忍群の祖とされている。

「異人というと、人間ではなかった。という事?」

「はい。羽が生えていた。といいます」

「ああ、やはり烏天狗なのだわ。その異人には鳥の様な嘴があった?」

「いえ、その様に見える面頬をつけていたと」

「ああ…。その辺はワタリガラス神の間でも説が分かれているのね。彼らは素顔を見せなかったが、確かに面頬の下に別の顔があった。という者もいるわ」


社長の一族の間でも年長者は既に冥界に旅立っており、実際に烏天狗と会った者が現存していないらしい。

神々は永遠の生を持つが、歳降ると自ら冥界に旅立つ者がいる。ワタリガラス神族の様に、子供を成して子孫が増えていくと、信者であるワタリガラスの信仰では支えきれなくなるので、自ら後進に道を譲るのだ。


他の神々にとって人間にあたる烏天狗が去ってからは、余計にその傾向が高まった。

テケの言う

「口減らし」

は人間の世界の話だけではなかったのだ。


「お役に立てず、申し訳ござらん」

リアル神様に会って酔いが覚めたのか、子蔵の物言いが侍らしくなった。

「いや、いいのよ。元々レムリア神の方針で滅亡するのが定めだったのだから。エルフやドワーフの様に、人間と混血して末裔が残る。という事もなかった様だし」


「烏天狗様と蓬莱人群の衆が子を成した、と言う言い伝えも…ございませんねえ。里の娘が拐かされたと言う話もありませんし」

蓬莱東国のドワーフの末裔は、迫害されて逃げてきた数人の人間の娘をドワーフが匿った事からその子孫が残ったわけだし、エルフの隠れ里は、美男・美女の多いエルフに自然に人間の男女が集まったと言う。


「なにしろ素顔を見せぬ方々なので、異我の衆の中でも尊敬半分、気味悪がるのが半分、と言う有様でしてな。まともに付き合いのあったのは羽鳥の家の者だけ。という言い伝えです」

「なるほど。烏天狗の寿命はどれくらいだったのですか?」

社長は熱心だ。


「そのあたりは神様方の方がよくご存じではないのですか?」

子蔵の疑問は尤もだろう。

「恥ずかしいことですが、烏天狗を失ってからワタリガラス神族は衰亡し、年長者は神族を維持するために冥界に旅立ってしまい、残された若い者たちには過去の継承がほとんどないのです」


「そういうご事情でしたか。羽鳥の言い伝えでは、人間の倍以上の寿命を持っておられた。と。そしてレムリア神様のお考えで一族に子が生まれぬ。と悟った烏天狗様達は、ある時蓬莱を立ち去られた。と言うのがわが羽鳥家の言い伝えです」

「そうですか。ではやはり蓬莱には烏天狗の血をひく者は残っていないのですね?」

「そうなりますな。いや!一つだけ言い伝えがありました」


「どんな?」

社長は藁をも縋る様な顔つきになった。

「羽鳥家の言い伝えではございません。むしろ羽鳥の者はそれを否定しておりますが」

「否定している?」

「はい。不名誉な噂なので」

なにやら面白そうな話になってきた。

最初は子蔵と社長のやりとりに興味がなさげだったビッグセブンの他のメンバーも、ゴシップ大好きなので耳がダンボみたいになっている。


「不名誉ですか。それでは子蔵さんも話したくないでしょうね。この話はやめましょうか」

「いえ、せっかく神様とお会いできたので、全てをお話ししたく存じます。実は羽鳥という苗字は名前だった。という噂がありまして」

「名前が羽鳥?」

「はい。異我で集まりがあって酒が入ると、必ず他の家の者がからかい申すのが『お前たちは羽鳥の末裔だからな。異能者が多く出るのは当たり前じゃ』と言うことで」


「羽鳥の末裔で異能者が多く出る?」

「はい。羽鳥という名は文字通り羽根の生えた鳥」

「「いやいや」」

パーサとステルの手がシンクロした。

「鳥はてやぁぎゃあ羽根が生えてござるでよ」

「はい。この場合、鳥とは人間の事で」

「それは!羽鳥は羽根の生えた人間?」


「そして、人の名だという羽鳥は、烏天狗の子。という事ですか?」

師匠が口を開く。

「旦那、読みが鋭いね。元バクロン魔法省長官?お見それいたした。その通りでございます。羽鳥の者は必死で否定しますが、他家には羽鳥は烏天狗と人間の娘の間に生まれた子で、その末裔が羽鳥家だ。という噂がございます」


「なるほど。否定してるのね。でも実際は?」

「確かに異我上忍の証である異能者を輩出する血統は、羽鳥家から始まっている。と思われます」

狭い山間の異我の里で、家同士の縁談は普通であったろう。

異能者は崇敬を集める反面、才蔵の様な変わり者が多く、からかいの種にもなるらしい。


「子蔵さん自身はどう思うの?」

「俺の世代にはおりませんが、祖父くらいの世代には背中に大きな傷のある者がいたそうです」


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