48-14.父と娘
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-14.父と娘
「おお、間に合ったか。レムリア坊がなかなか昼寝しなくてな、遅れてしもうた」
遅れたと言っても、マーリンは隣に住んでる訳だから、そんなに焦ってはいなかったが。
マーリンとミグは父娘のハグを交わす。
マリスは跪くが、マーリンが立たせて、握手する。
「お前さんは娘の婿じゃが、一国の王となる身じゃ、頭を上げなされ」
マーリンは衣の下から、長剣を取り出す。
「私には杖がありますが(魔法使いの象徴)」
「王には剣(国権の象徴)も必要じゃ。取っておきなさい」
ミグには一冊の本を取り出した。
「これは…?魔導書ですか?」
「いや、お前の石化を解いてからの、ワシの育児日記じゃ。子育ての参考にと思ってな」
「お義父様!」
ミグがマーリンに抱きつく。
「また機会があれば、お前たちの様子は見に行く。白い大きなフクロウが、ワシじゃ」
「フクロウ(梟)がワシ(鷲)?」
いやステルそうじゃないから。
「先生が導いてくださるのは心強いです」
「いやいやマリスよ、ワシは彼の地では大した力はない。人代が作ってくれた依代に入った大きな鳥に過ぎんからの」
いやそれはレムリアでもそうだろ?
と思ったが、マーリンはレムリアではビッグネームなので、ゴンドワナに比べれば使える力は大きいのだ。
「それとな。人代が意地悪を言うんじゃ。『あの二人には助力しないでくださいね』とな」
「ああ、それはなんだか分かります。お義父様には学生時代に、助力のつもりのお節介で随分苦労しましたもの」
「な、なんて事言うんじゃ。ワシは良かれと」
「ちょっと私に意地悪な事を言った上級生が、次の日には真っ青な顔で謝ってくるんですもの。そんな事が何回もあれば、クラスメートからも距離を置かれてしまうわ」
確かにミグルディアへのマーリンの過干渉は、以前からの人間不信でクールで、因業爺なマーリンからは信じられない程だった。
永い生涯で未婚であったマーリンが急に子育てを始めて舞い上がってしまったのではないか?と思う。
養女のミグルディアでこうなのだから、実子のレムリア坊や(幼な子の君)ならどうであろうか?
と思った事もある。
確かに現実には赤ん坊なのだから、ミルクだおむつだ沐浴だと、手間はかかるだろうが(シバヤンから子守オートマタを購入したらしい)、実際に俺たちに話しかける幼な子の君の様子を見ると、少なくとも彼に敵はいない。
破滅の魔女であっても、近づくことすらできないだろう。
下手に手を出せば、文字通り破滅だ。
なので相変わらず、マーリンの子煩悩はミグに向けられている。
まあなんやかや、色々やらかすんだろうなあ…ゴンドワナでも。
「また遊びに来てね」
ステルが言う。
「ステルちゃんは神様だから、ゴンドワナに来れるんじゃないの?」
「どうなのかなあ?行った事ないけど」
俺たちがゴンドワナに行った時には、俺とオコと師匠だけがヴァルガに選ばれて、他のメンバーはカナロアの竜宮城で留守番だった。
井戸の浮遊神界経由も、結界は越えられなかったよなあ。
「多分信者がゴンドワナにいないから無理だと思うわ。マルモ屋さんもダガムリアルさんもゴンドワナに信者がいるからね」
オコが言う。
オコも大聖母というれっきとした神格だが、ゴンドワナには信者がいないので結界を抜けられなかった。
パーサは電子脳をoffにすれば多分通れるだろうが一度も試していない。
コンコンは元々霊魂だから、ゴンドワナ側に適当な依代が得られれば通れるだろう。
だが慣れ親しんだ小狐の体から離れてまでやる気はなさそうだ。
元々瀕死だった小狐の体を借りたので、あまり長くコンコンが離れると、小狐の命が危ない。
「メグルはどうなの?確かに以前は結界に阻まれたけど、今は人代としても、文殊菩薩候補としても人望が集まってるんじゃない?」
「いや多分駄目だと思う」
「どうして?」
「以前はゴンドワナの大神であるヴァルガ神の要請で招かれたが、ゴンドワナは必要な者だけを招くのだと思う」
「つまり我々は望まれている。と?」
「自信を持ちなよマリス。レムリアもレムリア神の過ちを修正する動きが始まっている。ゴンドワナも人間を迎える用意が出来ているから、君たちは通れるんだよ」
と、俺は励ます。
「では人代様は、まだレムリアにやり残した事があるから」
「そういう事だよミグ。まあ君たちはいつでもレムリアに来ることができる。また会う事もあろうよ」
「ありがとうございます。そのお考えで行けば、今ゴンドワナには他にも複数の人間を迎え入れる準備が出来ている。という事でしょうか?」
「そうだね、ミグ。パピーズに頼んで心理地雷撤去作業の旅のついでに、有望そうな人材を探し、君たちの時みたいに髪の毛とかを使ってテストするつもりだよ」
「仲間が増えるのを楽しみに待っておりますわ。でも有望と言っても…」
「条件があるものね」
「どんなじょうけん?ステルもこころあたりをさがしてみるよ」
「そうだな。今の境遇があまり幸せじゃなくて、新世界でやり直したい、健康でリリス因子の少ない若者。できればカップルが望ましいね」
「いそうでなかなかいないわね。あっちで無茶苦茶やって、マリスとミグに迷惑かける様な人でもいけないし」
とオコが言う。
月下氷人好きなオコは、頭の中で色々カップリングを考えているらしく、目玉がくるくる回っていた。
「あれ?案外近くに最適なカップルがいるような」
オコαが声を上げる。
「ああ、その件な。これ、ちょっと持って行って」
俺はオコαに、またお守りを渡す。




