48-9.酒場の華
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-9.酒場の華
ボスと言うのは四娘の事か?
四娘は今や上警の高級幹部なので、宿屋の女将に収まっているわけがない。と思ったのだが、やはりボスはカマイタチ、つまり四娘の事らしい。
「ボスは月に1・2度来てくれます」
とエールが言う。
考えてみればエールと言う名前は酒場にふさわしいな。
レムリアには例の
「冒険者ギルド」
がないので(モンスターが極端に少なく、クエスト自体が成立しない)、街にある酒場は大抵宿屋である。
前世の中国語圏ではホテルの事を北京や台湾で飯店、上海や香港では酒店と言うらしいが、それぞれ大資本のホテルチェーンが展開しており、明確な区分はもうないらしい。
いずれにしても宿泊は二の次で、美味しいご飯やお酒を供するレストラン。
と言う要素が先に来る。
旅館という言葉もあるが、これは旅人が宿泊するホステル的な意味合いで、素泊まりだったりするようだ。
レムリアの宿屋にもランクが色々あるが、やはり旅の商人などが利用する宿泊施設で、併設された食堂で酒を供する。というイメージだ。
つまり歓楽街の様なものはほぼない。
遊廓を持つ街もあるが、これは国が管理しており、街中にはない。
そっちが目当ての男たちはそっちに行くが、ただ旨い肴と良い酒を楽しみたい男たちは宿屋の酒場に行くわけだ。
前世の江戸時代だと
「公娼・私娼」
は厳密に区別され、吉原では公認の売春が行われたわけだが、その他の街の私娼(飯盛女や湯女など)も売春した。
幕府は度々私娼の取り締まりを行い、捕まった私娼たちは吉原に送られた。
それでも酒に酔った男たちは給仕をする女性にちょっかいをかけ、交渉によってはそういう事になるわけなので、コンコンが心配するのも無理はないのである。
「私は腕っ節が強くないので、ちょっと苦労はありましたが、テケが来てからは随分安心になりました。エール姉さんは一番人気ですけど、変な男には結界を張ってしまうので」
俺がレイラを上警に推薦したのはその動体視力なのだが、実際の捜査にそれが生かされる場と言うのは
「敵のイカサマを見抜く」
とかそんな場面だ。
もちろん現代の前世であれば野球選手とか、動体視力の良さが生かされる場はあるのだろうが、レムリアでは剣術家くらいしか思い浮かばない。
オコの弟の御供も動体視力は大変良いのだが、体の動きがついて行けない為に最初はボコボコにやられていた。
聖狐天のところで二娘やメルファに習う様になってからは体の動きも良くなり、双剣術をマスターしてからはどこに仕官しても恥ずかしくない剣豪になった。
結局女神モリガンの下で、大元帥ターワン・ラメンの文字通り左腕として働いているので、最近はあの華麗な剣技を見る事もできないが。
レイラの場合は、飢餓状態から回復しても、剣豪を目指す程ではなかったらしい。
山賊の娘なので、それなりにすばしっこくはあり、動体視力で避ける事はできるのだが、大の男数人に囲まれる様な状況だと分が悪い。
仮面の女将が居てくれる時は一瞬に方がつくが、いない時は姉の結界に入る事で難を逃れていた。
エールの結界は強力で、かけられた相手はエールやレイラが
「ふっと姿を消した」
様に見えるので
「妖術使いの姐さん」
と呼ばれたりした。
もっと乱暴な相手は、そいつだけを暗黒の結界に閉じ込めたりするので、もう逆らう荒くれはいない。
そんな訳でエールはすでに
「チーママ」
的ポジションに上がっており、本拠地の芒屋(場所は未定)から動く事は少なくなった。
たまに上警の依頼で大規模な結界を張る出張がある程度である。
レイラの方は、四娘も一度は自分の片腕として捜査の第一線で働かせる事も考えたらしいが、そちらの方は羽鳥才蔵という一級の忍者をゲットしたので、足りている。
その上この姉妹には、上警の捜査官として決定的な欠点があった。
一目見たら忘れられないほど綺麗なのだ。
俺が今回二人の事が分からなかったのはここにあるので、
骨に皮が貼りついていた様な姉妹に肉がついてこんな感じになるとは、想像も出来なかった。
姉のエールはすらりとした美人。
楚々として巨乳(そこか!)
妹のレイラは小柄だが可愛いアイドル系。
愛くるしくて巨乳(やめなさい!)
まあどんな政府高官でも酔えばペラペラ自慢話をしたくなる美人姉妹なので酒場での諜報活動には最適なのだが、四娘が日常こなしている様な“なんでもあり”の裏の仕事には目立ちすぎる。
パーサに怒られるので四娘の名誉の為に言うが、人間としてはただ一人素顔を知っている俺に言わせれば、四娘も美しい。
オコと比べて?
いやそう言う事は言わんで欲しい。
ただでさえ浮遊神界のカフェの件ではオコに心配をかけたので。
四娘の素顔は他のナンバーズとよく似た顔立ちだが、妹で姪のパーサによく似ている。
パーサも街中ではそこそこ目立つ美少女だが、何しろ四娘は顔や体型を変幻自在に変える事が出来る、特注侍女人形なのだ。しかも相手に気配を悟られる事なく暗殺する術を心得ており、これには才蔵も白旗をあげて部下になった。
こういう才を持つエージェントになれるのではないか?
と期待して送り込んだレイラだが、流石に幼少から忍術の修行を積んだ才蔵には届く事なく、酒場での諜報活動に従事している。
四娘は今後レイラに
「社交界での諜報活動」
を仕込みたいと思っているらしい。
この姉妹が目立ちすぎる為に、テケは結構忙しく
「お客さま、困りますねえ」
と言うセリフをよく吐いているらしい。
我々世代だとわかるが、テケにニコニコ凄まれると
「柔道無差別級、神永対ヘーシング」
みたいな気持ちに、相手はなるようだ。




