48-6.懲りないやつら
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
48-6.懲りないやつら
3セットの心理地雷(魔導書)を受け取って
「政府要人や軍部の中枢にこれを仕掛けよ」
と指令を受けても、いったいどうやってそんな偉いさんに近づくことができるのか?
前歴は普通の市井の悪党(普通じゃない)である手下たちが、そんな各国の上位に接近するのは、とても難しい。
「ふっふっふ、そこは邪のみちは蛇、と申しましてな」
とか言いそうな大悪党は、前回の3メタルツアー作戦における
「魔女による悪党狩り→筋肉兵化→救出→副作用により善人化」
によって、あらかた姿を消してしまった。
善人化された人々は、公の場から姿を消した者が多い。
「親分が善人になっちまった!」
と言って
「あっしらも足を洗ってついて行きやす」
という程、悪党界で人望のある親分はそうはいない。
No.2グループにとってはこれ以上のラッキーチャンスはないのだが、何しろ目の上のたんこぶが
「ああ…私はなんと酷い事をしてきたのだろう」
とか言って当局に自首し、自分の命じて来た悪事や集金システムの内幕をペラペラ白状したので、組織が壊滅状態になってしまう。
この困り者を消そうにも、上警から各国に
「密告者を安全に禁錮し、事態が収拾したら解放して慈善事業に従事させよ」
と通達があったので手が出せない。
各国の政府や警察も、善人ボスが政府要人との癒着までペラペラ喋ってしまって浄化され、大変助かる恩人なので、大切に扱っているようだ。
そんなわけなので各国とも魔女の手下になりそうな悪党は、小物ばかりという状況だ。
手下に提供される報償は一生遊んで暮らせる程の金額だったらしく、手を挙げる者は多かったが、報償は後払いで、手付けは1割しかなかった。
それでも5年は遊んで暮らせる金額なので、魔女の恐ろしさを知らないチンピラの中には、持ち逃げしようとして消された者もいたらしい。
初動で上警は実際に設置できずに手下が持っていた心理地雷セットを32組、計96巻回収し、マリスが無力化した。
マチアス・ナビルが魔女に売り渡した心理地雷が650巻(使い捨て魔導書形式)。
そのうちスタンバイ状態になる前の状態で、マリスがリモートで無効化したのが321巻。
残りの329巻の心理地雷がスタンバイ状態で手下に渡された。
使用目的が不明な一巻と、大東の仙人(まだ特定できない)に心理ウイルスを製造させるのに使った一巻を引けば、あと327巻。
そのうち96巻が無力化出来たので、残りは231巻。
「つまり高官とか軍の将軍とかに実装したのは77カ所ということになるな。結構しんどい数字だね」
師匠が正直な感想を述べる。
報奨金の9割が後払いと言う事は、大抵の悪党なら地雷の効果を見極めて後払い金を受け取ろうとするはずだ。
大したコネもないチンピラが政界や軍部の大物に近づいて心理地雷を設置する隙を作るのは容易ではないが、実はそれほど難しくない(※矛盾)。
まあ賢明な読者は想像できると思うのだが、レムリアは前世で言えば中世型世界。
つまり要人は殆ど男性なのだ。
まあここからはお決まりの展開。
チンピラでも悪党は商売柄美女の手持ちには事欠かない。
要人の出入り商人に話を付けたそいつは、ある晩要人好みの美女を送り込み、眠り薬入りの酒を飲ませる。
ぐっすり眠りこけた要人に、手下は心理地雷を仕込む。
まあこれを3回やればいいという、簡単なお仕事だ。
目の覚めた要人は何も覚えていないし、実行の時が来るまでは、何もおかしな言動はない。
この時期の被害者の心の動き(リリス因子の増減)は流石のセイコαβでも察知が難しい。
美女は上得意を得て、要人のお気に入りとして利を得るし、提供した商人も要人もwin-winだ。
つまりこの手下の成否は
「いかに上玉を手に入れ、ターゲットのお気に入りを用意できるか?」
という、なんの事はない女衒の才能を得た者が、大金を得る事ができるのだ。
この太古からある作戦はシンプルだが有効で、前世でも相変わらず
「ハニートラップ」
として、時々スキャンダルになる。
外国に対して強気な発言を繰り返してきた政治家が、その国を訪問した途端、弱腰になる。
などと言うのは本当によくある話で、密かに恥ずかしい録画をとられて脅される(公にされれば政治生命が終わる)、という図式なのだろう。
当時のレムリアはそういうスキャンダルには寛容なので、魔女はそんな恐喝はしなくていい。
地雷を仕込んだ記録で、支度金払い出し、
実際に地雷が発動した時点で報奨金の残りが払い出し。
という事だろう。
つまり、手下はその国に張り付いていなければならないし、まあせっかく要人や大商人とコネが出来ているので、そのまま居座っている場合が多いだろう。
上警としては、そう言うやつに目をつけて、パピーズの力を借りてリリス因子を調べれば一網打尽なのだ。
つまり前世の
「嘘発見器」
の機能をセイコαβは果たしている。
前世ではポリグラフと呼ばれる、手汗のかき方等で被験者の心理の動揺を調べるシステムは、捜査や裁判の資料としては、それほど信頼性をおかれていない。
だが、上警の潜入捜査員が変装して酒席で被疑者に上機嫌に手柄話をさせ、隣室で密かに佇む少女または犬が、その相手のリリス因子の推移を観測する。
と言う方法は、ほぼ100%の確率で、心理地雷設置犯人を確保できる。
あとは色々な手段(自白魔法、自白剤、拷問)で、3人の地雷設置者を吐かせればいい。
上警の秘密捜査員は大抵女性なので、ここでも懲りない男たちはハニトラにかかることになる訳だ。




