5-24.誕生日の贈り物
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
5-24.誕生日の贈り物
シバヤンに瞬間移動で戻して貰ったのは、もう午後遅くになっていた。
「オコ?」
「オコは出かけてまった。コンコンと一緒に」
「そうか。パーサのおかげで、こんないいプレゼントができたぞ」
パトゥニーから受け取ったケースを開ける。
「なんだの!えーがねえーがね。ちょと触ら…。うわあ〜っ!」
パーサが鼻血を出した。ナンバーズには、こんな機能まで!
「大丈夫か?」
「メグルさの想いがどびゃ〜と流れ込んできたがね。オコへの贈りもんだ分かっとらんかったら、早速パンツ脱ぐとこだて」
下ネタ露骨過ぎ。
「えーなあ…。アシにもいつかこう言うのプレゼントしてちょーすか」
いやそれは無理だろうけど。
「これオコ喜ぶかなあ?」
「そらベタぼれになってまうて」
やって良かったな。ありがとうパーサ。
「言っとくけど、メグルさの為じゃにゃあでな。アシはオコが好きだで、幸せになって貰いてゃあだけだわ」
複雑なんだろうなあ。ちょっといいなと思ったウメダも白馬の王子様やりに行っちゃったし。これから約300年付き合っていく事になるので、ゆっくり関係改善を目指そう。
「ただいまぁ。遅くなってごめんね。これから誕生日のご馳走を作らなきゃ」
「今夜は長老が準備してくれてるらしいよ」
「そうなの?結界の長老ハウスで?」
「うん。オコの両親とリュナも来るらしい」
「そうか。里のみんなも来れるといいけど、まあメグルの事は知らないからね。ウラナの事は良く知ってるけど」
この辺のネジレ、いつまで引っ張るかは悩むところだ。ベンガニーとメルへの対応でこうなってしまった。
ベンガニーにはウラナとしても会うのは危険だ。新婚のウラナ氏の妻の名がオコなのはまずい。
メルには中年のウラナ夫妻が聖狐天の義両親として面会済みだが、ジョウザでメルが会ったのはヨウコなので、そこはつながらないだろうが、オコと言う名前はレムリアでは結構珍しい名前なのだ。
だから御供に稽古をつける時は、例外中の例外として御供を神界に呼び寄せている。聖子ちゃんが御供を気に入った。と言う事にして。
ベンガニーはせいぜいあと100年しか生きないだろう。だがメルは聖狐天の守護眷属として神籍に入ってしまったので、事実上寿命は永遠だ。いつかはちゃんとしなくちゃ。
「お義父さんお義母さんの前では照れくさいので、今渡すね。オコ、15歳の誕生日は忙しくて何も祝えなかったから、今日俺と一緒に祝おうと思うんだ」
「そんなの、もうちょっと待てば16歳に」
「その頃には、三元さんのところだろうからな」
「そうか。で、それ何?なにくれるの?」
ストレートに聞いてくるのがオコらしい。
「気に入ると良いけど」
「指輪ね。凄い色!」
「変化がオパール以上だろ?」
オコは指輪を日にかざして見る。
「額につけてご覧」
オコは言われる通りにしたが、そのまま動かなくなってしまった。
「オコ?」
「オコ?」
「大丈夫か?オコ!」
オコはいきなり俺を突き飛ばした。
「痛て!何すんだよ!」
「はっ!ごめん。のめり込み過ぎてた。これ何日でも入り込めるわ」
ゲームオタクかよ!飯も食わずにのめり込んでたら餓死するわ。
「もう…。メグルがどんなにあたしを好きか、よく判ったわ。仕方ないなあ。ずっと一緒にいてあげるわ」
何だよその上から目線。
「これがあれば、俺がしばらく留守にしても大丈夫だよな?」
「え〜っ!なんでそんな事言うの?どっか行っちゃうの?やだ!」
「嘘嘘。オコがあんまり偉そうに言うので」
「もう!あたしは絶対メグルの側を離れないからね」
オコが強烈に抱きついてくる。
痛い痛い。骨折れる。
「では今度はあたしからメグルへの誕生日祝い。意地悪するからあげないでおこうと思ったけど、ちょっと意地悪なプレゼントかも」
なんだよそれ。
「コンコン姉さん」
「はいはい、アホらしい痴話喧嘩はもう終わったんかいな?」
コンコンは懐から一通の手紙を取り出し朗読する。
『依頼頂いた調査の報告書』
興信所か?炎狐通信社?
『ご依頼頂いたノグチ村のベンダ氏夫妻は、昨年釈放されました』
ノグチ村とは俺が生まれた村だと聞かされているが、何をやらかした人達なんだろう?
聞いた事ない名前だ。
『夫妻に直接お会いする事は出来ませんでしたが、支援者の方に詳しくお聞きしました』
支援?なんの事だ?
『15年前、夫妻のところに村長がヴォイドと名乗る怪しい人物を連れて来ました。ヴォイドは生まれたばかりの赤子を輪廻鏡にかざし、"この子にはボンの印がある。ジョウザに連れて行きたい"と言いました。ベンダ家には既に多くの子供が居て貧乏で、村長も名誉な事だし、褒賞金も出るのでお受けする様に勧めました。ベンダ氏も醍醐教徒だったので、受けようとしましたが、妻のサリさんが"少し考えさせて欲しい"と言って、その日はヴォイド氏は村長宅に帰りました』
え?これって…。
「まあ、最後まで聞きなはれ」
コンコンは読み進んだ。
『家族会議の結果、上の兄姉二人から"私達が口減しに奉公に出るので、赤ちゃんは家に居て欲しい"との申し出があり、二人はこの話を断るため村長宅に向かいました。ところがヴォイド氏は既に村を立っており、家に帰ると子供たちが縛り付けられており、長兄が血を流しておりました』
なんだと!ボン候補を斡旋する、ブローカーの様な存在がいる事は知っていたが。
『数人の覆面をした賊が家に押し入り、赤ちゃんを攫って行ったと』
おいおいなんで俺がこれを知らされていないんだ?
『ベンダ夫妻は急いでジョウザに向かいましたが、当局は取り合ってくれず、後に褒賞金が届きました。ノグチ村はジョウザの支配下にあったので、夫妻は泣き寝入りするしかありませんでした。やがて新ボンの誕生も発表されました』
より精度の高い輪廻の鏡を使えば、俺の前世がない=歴代ボンと同じ。ではなく、単なる測定不能である事が分かったはずだが、もう次期ボンを早く決めたいジョウザ当局にとっては、細かい事はどうでも良かったのだろう。
『数年後、諦めて村に帰った夫妻の元に一人の男が訪れました。男は"ジョウザの事を調べている。あなた方は現ボンの実の親で、赤子を奪われた事を抗議に行ったと聞いたが"と言うのです。少しお酒が入っていたベンダ氏は、今まで溜めに溜めていた想いをこの見知らぬ男にぶちまけてしまったのです。その後二人は逮捕され、ある場所に監禁されてしまいました』
ああ、守秘義務あるだろ。父さんガード甘すぎ。そいつはジョウザの役人かなんかか?
『残された子供達の元に"ジョウザの不正を許さない民の会"と言う組織が近づき、子供達と一緒に、ビラ配りなどした様です』
なんか怪しげな会だな。バックはどこなんだ?
『運動は一応の成果を上げ、スキャンダルを恐れるジョウザ上層部は夫妻をノグチ村に戻し、憲兵施設に軟禁しました』
殺す事も出来ないが、自由に泳がせる事も出来ない訳だ。小役人の考えそうな事だ。
『ボンが一身を衆生救済のため捧げ、文殊菩薩となられたので、これ以上夫妻を軟禁する必要がなくなり、釈放されました』
それは良かった。
『ところが現在、夫妻の姿はノグチ村から消えています。支援組織が連れ去ったとか』
何という運命!支援組織のバックにとっては、まだ使い道があるという事か。
『以上の調査は、支援者のノグチ村村長タビタ氏と、夫妻の長男ジャン氏の証言から裏付けられています』
ジャン兄さんと言うのか。会いに行きたいが、名乗る訳にも行かんしなあ。しかしバックは誰なんだ?
「ジョウザの根底、ボンの存在が危うくなれば有利になる勢力やろな」
つまり大東か。




